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関西青年経営者会議は自動車補修部品をを専門とする阪神地域の経営、研鑽の切磋琢磨の会です。

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大阪都

「国土強靭化政策に思う」  菊地一雄(20120809)

平成24年6月28日

  



 消費税増税法案が通る見通しとなってきました。

消費増税案の衆議院通過見通しと同時に退任が決まっていた国交大臣が、凍結されていた整備新幹線、高速道路、八ツ場ダム3件の凍結解除、実施を決めました。

更に自民党からは「国土強靱化政策」なる方針が発表されました。
 これらは、消費税増税で得られる税収を公共投資に回そうというものではないかと勘ぐりたくなるタイミングです。

 そこで「国土強靱化政策」について、私なりに考えてみたいと思います。「国土強靱化政策」に関しては、現在自民党から ◎ 国土強靱化基本法案概要 ◎ 国土強靱化基本法案要綱 ◎ 国土強靱化基本法案 の3つが発表されています。

これらから読み取れるのは、道路、鉄道、建築物等々全ての建築、土木分野に渡って、国だけではなく地方の全てに組織を作り国家を上げて取り組んで行く、となっています。

つまり、全体としてこの計画は、大型公共投資を従来の日本の政治、行政が取ってきたシステムである中央集権による支配を更に強化して推進しようとしている様に見えるのです。

 さながら“国家総動員法”の気配すら感じるのです。

国家総動員で国土強靱化の名の下に、200兆円という超大型の公共投資を実施しようとしているように見えます。

  米国でもオバマ大統領が“新ニューディール政策”を掲げて大統領選を戦っています。 本当に“公共投資”が、景気浮揚になり、雇用を促進し、経済全体を活性化する事になるのでしょうか。

 

 大型公共投資が進んでいる一つの例として東北の震災復興があります。

昨年来、仙台の繁華街が大変な賑わいであることが、TVニュースで報じられました。これを見ると、「やはり復興需要が、仙台の景気浮揚に大きな影響を及ぼしているのだな。」と思えます。 しかし、地元の人たちの話しを聴くと、そうばかりは言っておられない状況があるようなのです。

現在地元に落ちているお金には、被災者の方々への救済金・・国や東電、救援金等が支給されています・・があり、個人消費が結構活発のようなのです。 個人支出の一部が、繁華街の活況に一役買っている側面もあります。 勿論、復興のために全国から被災地に入っている人たちが落とすお金もあります。

個人支出だけでも地元が賑わうのですから復興需要、もっと言えば建築、土木分野への投資は景気浮揚に大いに役立つのではと想像します。

  しかし、あまり報道されていない大変重要な問題が、現地では発生しているのです。 それは、「員数は過剰なのに人材不足」という問題です

現在被災地では、瓦礫処理を初め再建、福島の除線等々仕事は山積みです。 一方、被災した人たちで仕事を失い、且つまだまだ元気で労働力となりうる人たちや外部から仕事を求めて入って来ている人たちもいます。 この人達は、さぞや引っ張りだこになっているのではと想像しますが、どうもそうではないようなのです。

一つは、被災者の中には、仕事をしてある一定の収入が入ると救済金が削られるから何もしないという人もあるようです。

それより考えなくてはならない問題は、「仕事の量に対して、頭数は要らない」という現象が起きているのです。つまり「員数は過剰」なのです。 本当に欲しいのは、「技術を持った人たち・・使える人材」なのです。 瓦礫処理一つにしても、ほとんどが重機とダンプカーで行います。 宅地の造成、住宅建設等々ほとんどの仕事が機械化されています。

 高度成長期の日本の建築、土木工事には、大量の人手を必要としていました。 例えば、物を運ぶのも一輪車等を使って人の手で行いました。 また、現場の管理もかなり大雑把で、資材が散らかっていたり土やゴミが散らかっているのはそれほど気にしませんでした。

それらを片付け、掃除する人を沢山使うのは当たり前のことでした。 大きな工事現場では、こうした特殊な技術を持たない人手を大量に吸収することができました。 つまり、昔の工事現場は、かなりの労働力を必要としていましたから雇用対策には大きな威力を発揮しました。 しかし、近年の工事現場は大半が機械化され、昔に比べて大量の廃材やゴミを出すこともなくなっています。 そのため、いわゆる「人手」をさほど必要としなくなっています。

反面、現場の測量、図面の作成、読み取り、重機のオペレーター等々キチンと教育された「人材」を必要としています。 先述しました「員数は過剰なのに人材は不足」という問題が発生する事になります。 発注元が公共事業であれ民間であれ、この問題は変わりません。

 

次にこれらの仕事を何処が受注しているのか、と言う問題があります。

被災地の状況を聴きますと、民間の比較的小さな仕事・・例えば個人住宅の修理や建築・・は、地元の業者にも発注されているようです。 仮設住宅の建設でも一部ニュースになりましたが、大型物件はほとんどが中央の大手建設、土木業者に発注されているようです。

理由は色々あるようです。

曰く、被災地の地元業者は、被災していて仕事が出来ない。

曰く、大型物件は、中小の業者の手には負えない。 etc etc

  規模の大きな物件言い換えれば金額の大きな物件は、ほとんどが大手ゼネコンの手に渡ります。 それでも二次受け以下が地元の業者に行くのなら、地域の活性化に繋がるのでしょうが、これも大手ゼネコンが指定する業者・・必ずしも地元の業者ではなく、地元とは関係のない業者・・が請け負い、そこが三次以下にそれもかなり厳しい価格で発注すると言う構図になっていると聞きます。  今回の復興工事を見ても、かなり大きな予算が組まれているにも拘わらず公共事業による地元経済への本来的な好影響はかなり限定的だと言えます。

 さて、先述したとおり「国土強靱化政策」の基本法案を見ると、あくまでも計画、推進等の中心的な役割は政府であり地方組織、国民は政府の基本方針に従って協力しなければならない、となっています。

東北という地方の復興でさえ、中央の政府、官庁、業者にほとんど全てが集中し肝心の地元への貢献が限定的であることを考えると「国土強靱化政策」による経済的効果、雇用創出は極めて限定的であり、投資に見合う効果以上に財政に与える悪影響の方が極めて重大だと推測できます。

  話しは変わりますが、こうした「大型公共投資による景気浮揚策」の理論的裏付けは、1929年の世界大恐慌を克服するためにケインズが提唱した“ニューディール政策”だと思います。  確かに1929年の世界大恐慌は、アメリカではアスワンハイダムの建設に象徴される大型公共投資によって乗り切ることが出来ました。

 当時の「資本主義経済」は、人間の年齢で言えば心身共に成長期にある20歳前後の健康体であったと言えます。  その健康体が少し重い肺炎にかかった様な状態でした。だから投薬(公共投資による資金供給)や体質改善(管理資本主義への転換)をすることで健康を取り戻すことが出来ました。

しかし、現在の先進資本主義国(欧米や日本)の経済構造は成熟しきっていて、人間で言えば75才以上の後期高齢者状態にあると言っても良い状態だといえます。言い換えれば基礎体力が完全に劣化していて、少々の投薬や小手先の治療ぐらいでは回復することは難しい状態になっていると考えられます。

「青年期に行った治療が良く効いたから同じ治療をすれば直るに違いない。」という発想では、抵抗力の落ちた老体にはむしろ逆の効果しか無いと予想されます。

  加えて、産業構造もコンピューター、通信を軸として大きく変貌しつつあります。 現在は産業革命の真っ直中にあって、産業構造が根本的に変わりつつあるといえます。  例えば、先述したとおり大型の工事現場でも、大量の人手に頼っていた仕事がかなり限定された少数の人材によって勧められるようになっています。   また、利益配分に関しても、高度成長期の日本では広く比較的公平に分配が行き渡っていく構造になっていました。しかし現在は、力のあるところが大半を確保して、広く再分配する構造ではなくなっています。

利益の再配分に大きな影響力を持つ労使関係も特にバブル崩壊後大きく変質しており、労使の対立だけではなく労働者間の対立(組織労働者と未組織労働者と言った関係)も顕著になっています。  そのため、利益の再分配は益々不公平になって来ています。

 こうしたことから考えますと、多額の税金が投入されても国全体の景気浮揚に貢献するのは、かなり限定的ではないかと思うのです。

むしろ「国土強靱化政策」が実施されると限定された組織や一部の人たちだけが潤うだけではないかと推測します。 そして、多額の税金を投入した結果、景気もさほど浮揚せず従って税収も伸びず、結果多額の国民的借金が残り、日本の国債は暴落してハイパーインフレに突入して国民生活は破綻する可能性の方が大きいのではないかと心配します。