その日の朝もいつも通り10代目のお宅まで10代目をお迎えに上がった。
オレの話に10代目が相槌を打つのもいつもと同じ。
いつもと違うことはといえばオレが前を向いている時に感じる熱烈な10代目の視線。
とはいえ愛情なんていう甘ったるいものはかけらも感じられなくて、
何と言うか、観察されているような、突き刺さるような痛い視線。
下からじっと向けられる視線に、居心地の悪さはピークを迎える。
見られるのが嫌な訳じゃない。
相手は10代目だ。むしろ嬉しい。
だけど何か用があるのかと10代目を見ると顔を背けられて、前を向くとまた視線を向けられて。
訳がわからないままそれでもなお感じる視線にそろそろ耐えられなくなって、
オレは控えめに10代目に声をかけた。
02:帰国子女
「あの、10代目」
「へっ!?何っ、獄寺君!!?」
声をかけるとびくりと肩が跳ねる。
そんなに驚かれるとは思っていなかったので、オレまで少し驚いてしまう。
それでも気を取り直して疑問を口にする。
「や、あの・・・オレに何か用事とかあります?」
「?」
これでは少し遠まわしすぎたか。
別にないけど、というような表情を返されてしまった。
「何か・・・10代目がオレのこと見てるなぁ、と思って」
びくり、とまた肩をすくめる。
元から大きな目をさらに開いてオレを凝視する。
これはもしやオレが10代目に見られてることに気づいてないと思ってたんだろうか。
口をぱくぱくさせて「あの〜」だとか「でも〜」だとか、意味を成さない言葉を羅列して。
辺りにきょろきょろ視線を動かして。
その後ようやく心を決めたのか、オレを見ながらゆっくりと口を開く。
「あのさ、獄寺君って帰国子女だよね」
「はい、そうですけど」
「・・・・・獄寺君ってさ、」
「はい」
「女の子なの?」
・・・は?
「え・・・?」
思わず聞き返すような声が漏れた。
まさか自分が性別を問われる日がくるとは思わなかった。
これでも体は鍛えているから筋肉はそれなりについているし、身長も低くない。
顔だって童顔でも女顔でもない。
イタリアの血が混じっているから日本人にしては大人っぽい顔をしていると思う。
実際、高校生に間違われたことはあっても小学生に間違われたことはなかった。
まして、女に見られたことはここ数年では皆無だ(オレの記憶がないくらい幼い時には間違えられたようだけど)。
ぐるぐると頭の中を色々なことが回っていても、声に出たことは一言だけで。
あまりに驚いた顔をしていたのだろう、10代目が焦って質問の訳を話し出した。
「だって『帰国子女』ってさ、帰国してきた女の子、って意味だろ?
だから獄寺君も女の子なのかな・・・って!そんな笑うことないだろ!!」
「ぶっ・・・す、すみませ・・・ははっ!」
「何だよ―――!!」
もしかして10代目はそれが気になってずっとオレのことを見ていたのだろうか。
オレはもっと深刻な問題を打ち明けられるのだとばかり思っていたから、
拍子抜けしたのと10代目が真剣にそんなことを聞いてくるのとで思わず噴き出してしまった。
(もちろん10代目にしたら深刻な問題だったのかもしれないけれど)
くくくとまだ笑いをこらえているオレを少し目を細めて見る10代目に、
そろそろ笑いを収めないと本当に怒られるなと思って居住まいを正した。
「10代目、男でも『帰国子女』っていうんですよ」
「へ、そうなの?」
「『子女』っていうのは、息子と娘っていう意味で、男女のどちらも含んでるんですよ」
「・・・そうだったんだ・・・」
思い違いからオレに変なことを言ってしまったと居心地の悪い思いをしているのだろう。
顔を赤らめてオレの方を見ようとしない。
そんな10代目の様子を後ろから眺めて、今のオレの顔はすごくゆるくなっているはずだ。
だけど顔を締めようなんてちっとも思わない。
どうせ、10代目と一緒にいたらオレの顔はいつだってだらしなくゆるんでしまうのだから。
初めて知った、とぼやく10代目の後ろ頭を眺めていると、いたずら心が湧いてきた。
こっそり耳元に口を寄せて、囁きかける。
「10代目、信じられないのなら今からオレが男かどうか確認します?」
さっきの驚きとは比にならないくらい盛大に肩をびくつかせて、
耳を押さえて顔を真っ赤にして振り返る。
そんな顔がオレを駄目にするって、10代目はまだ分かってくれないんだろうか。
その様子がかわいくて仕方なくて、くすくすと笑いを溢してしまう。
「な・な・な・・・!」
うまく言葉が紡げずに同じ音を放つ唇を魅力的だなと眺めつつ、
にっこりと笑って言葉を続ける。
「そんな疑問を持つってことは、オレが女じゃないって否定できない何かがあったんですよね?
オレはどこでも構いませんよ。
学校のトイレでも10代目のお宅でも、お母様が気になるというのならオレの部屋に戻ります?」
オレの言葉に10代目の体がわなわなと震えだす。
これはもしかすると調子に乗りすぎてしまったか・・・?
うつむいていた顔からぎろりと目だけ上げて睨まれる。
それに怯みながらも、言葉を付け足した。
「でも10代目、オレ男ですよ」
「・・・うん」
「もし10代目の中にオレが女だったら頼りないな、なんていう考えが少しでもあったら、
今のうちにその間違い、直させてくださいよ。
オレ、10代目に頼りない奴だなんて、思われたくないですから」
「・・・分かったよ。獄寺君は男だよ。オレよりたくましくてダイナマイトを乱用する女の子なんていたら困る」
「10代目〜〜」
ため息をつくみたいに言葉を吐き出されて、オレはみっともなく10代目に泣きつく。
「それにこんな、男のオレが頼りにしちゃうような人、女の子ではあんまりいないよね」
ぼそりとひとつ呟かれたその言葉の意味を、理解すると同時に10代目に駆け寄った。
「10代目!10代目のお傍にはずぅっとオレだけを置いてくださいね!!」
「はいはい」
10代目から返事をもらえたことに嬉しくなって、
残り少なくなった学校への道をさっきよりももっと10代目にくっついて歩く。
ほんとは手だってつなぎたいけれど、それは10代目が恥ずかしがるから我慢して。
せめて二人の間に隙間ができないようにと、ブレザーの袖と袖をくっつけた。
End
................
突発獄ツナ。
投票の項目の中にはありません。
でも帰国子女のネタとしてはこれとアレだなぁ、とは前から決めてたんですけども、
自分的にはこのネタ、「何を分かりきったことを」と言われそうだなぁと思って
他のネタ考えようかなとも思ってたんですけども。
思った以上に、「帰国子女」の意味をこのツナのように思ってる方が多かったので・・・。(汗)
(私の嗜好上、獄寺ファンサイトを回るのですが、
そこの管理人さんで「何で帰国子女なんだろう」って疑問に思ってる方が相当数いらっしゃるのです。。。)
さすがにこの年にもなると分かってないとやばいとは思ってたんですが、
そうですよね。今のジャソプっ子って、平成生まれとかもいたりして、知らなかったりするんですよね。
・・・だとしても、これは小学校高学年、もしくは中学生では分かってて頂きたいなぁ、と。。。
そこで、です。
うちの裏規定として「精神年齢16歳以上」っていうのを掲げてますが、
それってもちろんこの「帰国子女」の意味が分かってるとか、
裏の獄寺がツナに教えてる勉強(高校1年相当)の内容の意味が分かってる人っていう意味なんですよね。
だからそれが理解できてたら義務教育中の人だって裏見ていいし、
逆に分かってなかったら大学院生でも裏見ちゃ駄目だよ、っていう意味だったりします。
(私が考えた、このサイト内でのみ通用するルール)
(よそへ行ったら、いくらおませさんでも中学生は裏見ちゃ駄目!ってとこはあると思う)
うちの場合は実年齢が19歳だろうが、精神年齢が低い方は見ちゃイヤだし、
実年齢が14歳だろうが、精神年齢が高い方で興味がある方はどうぞ見てやって、という感じです。
それが私の良心が痛まない対処法と言うか。
えろを読んでいいんじゃないかと私が考える基準というか。
そういった意味での「精神年齢16歳以上」だったりするのです。
その辺、遠慮されてたり理解されてなかったりしてるようなので、
ちょっとここで補足というか話の流れでこうなったというか。
まぁ、そんな感じです。
久々に軽い話が書けたので、ちょっと満足。
大辞泉より
〔帰国子女〕
親の仕事の都合などで長年海外で過ごして帰国した子供。
〔子女〕
1 息子と娘。子供。「―の教育」
2 娘。女の子。「良家の―」
(2005.01.11)
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