じっと、見つめるというよりかは、観察するというような。
いつもはオレから10代目へ向かうそれが、
今日ばかりは10代目からオレへ向かっていて。
嬉しいような、居心地の悪いような、
何だかとても奇妙な感覚。
03:眉間
どうかしましたか、と 妙な感覚の自分が言葉を発するよりも先に
今では随分と聞きなれた声が空気を震わせる。
「どうかした?」
奇しくもそれはオレが考えていたことで、
思わずこぼれそうになった「10代目の方こそ」という言葉を飲み込んだ。
「何がですか?」
10代目の言葉の意図するところが分からなかったオレはすぐに聞き返した。
「ここ」
と、10代目の人差し指がご自分の眉間に当たる。
「さっきから、眉間に皺が寄ってる。何かあったの?」
その様子を、スローモーションの映像を見ているような感覚で眺める。
顔の前を通る細い指。
縦と横に動く唇。
そこから覗く白い歯と赤い舌。
10代目を形作るもの。
10代目が生きている証拠。
オレが命をかけて守るもの。
目を閉じても姿を浮かべられるように、
爪の先から髪の毛のハネまで見落としがないように。
目に焼き付けるように、視線を逸らさず。
「獄寺君?」
オレの名前を呼ぶ姿がとても眩しくて、目を細めた。
「あ、ほら。また」
「何ですか?」
「また眉間に皺が寄った」
オレが10代目を見るように、10代目もオレを見てくれている充足感。
「寄ってますかね?」
「寄ってるよ」
言葉をかけると言葉が返ってくる満足感。
そのどれもが今まで誰からも得ることができなかった感覚。
「何か考え事?もしかして調子悪い?」
心配をかけて申し訳ないという気持ちと、
心配していただけて嬉しいという感情。
「大丈夫です、何もありません」
「本当に?」
「はい、本当です」
ひとつ呼吸をおいてまだ納得していない顔に笑顔を向けて。
「仮に調子が悪かったとしても、
10代目にお言葉をかけていただければすぐに本調子に戻りますよ」
「えぇー?」とまだ少し不安そうな顔に苦笑しつつ、
とはいえオレが紛らわしいことをしていたせいでもあるので言葉を添える。
「そうですね・・・少し、考え事をしていました」
「考え事?」
「はい。10代目の側にいながら、不謹慎ですみません」
「そんなの、構わないよ。そっか、考え事かー」
少し安心したような表情で笑う10代目を見て、こちらも安心する。
これから負担が大きくなっていく10代目に、オレが少しの不安要素をも与えてはいけない。
オレが取り除けるものならば、出来得る限り、取り除いて差し上げたい。
「そう思って見ると・・・」
少し高い位置にあるオレの顔を見上げながら、10代目は不意に言葉を紡いだ。
「何だか、真剣そうな表情に見えるね」
その言葉ひとつで、オレの10代目に対する真剣な想いが伝わっている気がする。
あなたのことを考えているんですよ
なんて、まだ本気に取ってはくださらないだろうけど、
いつか10代目がこの想いを本気として受け取ってくださるまでこの言葉は取っておこう。
胸に仕舞った言葉を伝える日が一日でも早く来ればいいのにと、
そう願いながら一歩踏み出し、10代目との距離を少し縮めた。
End
................
獄は「何ですか」なんてそんなに言わないと思う。
ツナが1を言えば10を理解するような子でいて欲しい。
そしてツナを見る目はいつもとろけるように甘くいて欲しい。
そんな獄寺が自分といる時に険しい顔してるから、
ちょっと不安になったってとこです。
それにしても獄寺はツナに対してどの程度の敬語を使うんだろう・・・。
ちょっとへりくだりすぎたかもしれません。。。
(2004.08.01)
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