バタバタ、ドガン、ガシャン、ゴォォオオ・・・
走り回る音、バズーカの音、物が壊れる音、炎が燃え上がる音。
慌ただしい音が家の中に響くのも日常茶飯事になりつつある。
だけどそのたびに家が半壊してたのではこちらも身がもたない。
自分の部屋の中がぐちゃぐちゃになったところで衝突している二人の間に入って止めさせる。
そのうちの一人、もじゃもじゃ頭のランボが泣きながら足にすがりついてきた。
それを抱き上げてよしよしと適当にあやして泣き止ませると、
ちょうどいいところにイーピンが遊びにやってきた。
部屋の中の荒れ果てた状態にも驚くことなく無邪気にランボに話しかけている。
オレにはさっぱり分からない中国語だけど、ランボには通じるものがあるらしく、腕の中でもがきだした。
「ツナ、おろせ!ランボさんはイーピンと外に遊びに行くんだぞ!」
「はいはい、でもあんまり遅くまで遊ぶんじゃないぞ」
床に下ろしてやるとすぐにイーピンの方に走り寄っていく。
「イーピン待てー!!」
「〜〜〜〜〜!!」
楽しそうに部屋を出て行く二人を見送った後、自分の部屋を振り返った。
ランボが出て行った辺りを睨みつけている獄寺君が見える。
・・・反省の色が見えない。
はぁ、と小さくため息をつくと、獄寺君がびくりと反応して伺うようにオレを見てきた。
「片付けるの、手伝ってくれる?」
「はいっ!」
返事だけはとてもいい獄寺君にもう一度こっそりため息をついた。
獄寺君がいちいちランボと張り合わなければ、もっとゆっくり一緒に過ごせるのにな、なんて思いつつ、
ダイナマイトの爆発でもうもうとあがる煙を外に出すために、窓を開けに獄寺君の隣を通りすぎた。
04:10代目
もとからそんなに片付けていない部屋は、壊れたものをビニール袋に入れて
家具にかかった粉塵をふき取る程度で普段の様子を取り戻す。
こんな事態におちいるのにも慣れたもので、毎回片付けのスピードは上がってきている。
・・・騒ぎが起こるたびにものが減ってるんだ、という風には思わないようにしている。
そんなこんなですっかり元通りの部屋に満足してどかりとベッドに座り込んだ。
「もー、獄寺君もランボと本気でやり合ってどうするんだよ」
確かにランボも悪いのだけど、そこは小さい子特有のうざさということで目をつぶっておけば大事には至らないのに。
いちいち相手をしてやる、良く言えば面倒見のいい、見たままを言えば同レベルな獄寺君についついとがめるように言ってしまう。
毎日のように部屋を破壊されていては身が持たないと、部屋の中でダイナマイトは使わないでよね、なんて強く言ったからか、
獄寺君がひざの上で手を握り締めているのに気づいたのはしばらく経ってからだった。
いつもはオレの言うことに反論はしなくとも「あいつが悪いんです」とランボを責めることくらいはするのに、
妙に黙りこくってオレの方を見ない。
その目は自分のひざの前にある、カーペットのパイル糸を一本一本睨みつけている。
「・・・獄寺君?」
さすがに様子がおかしいと思って伺うように声をかけた。
カーペットの上を移動していた視線をゆっくりと上げて、オレと目を合わせる。
その顔はいつもの透き通るような笑顔ではなく、濁ったような表情だった。
ぶすっとむくれた様子は、ふてくされているようにも見える。
「どうかした?オレ何か嫌なこと言った?」
「・・・・・・」
むっつりとした表情でちらりとオレを見るものの、言葉を返してこない獄寺君は相当何かが気に入らないようだ。
普段は一もなく二もなくとにかくオレの言うことが正しい、と考える獄寺君にしては、とても珍しいことで。
こんな獄寺君はほとんど見ることがないから、獄寺君には悪いけど、嬉しかったりする。
いつもは自分の考えを押し込んででもオレの言うことを聞いてくれるから、
獄寺君がたまにしか見せないこんな態度の時には、めいっぱい言うことを聞いてあげたい気分になる。
きしり、と控えめに音を立ててベッドから立ち上がり、獄寺君の座る場所に向かう。
獄寺君を見ながら歩いていると、無言でオレを見る瞳がゆらゆら揺れているのが分かる。
たぶん今彼の中ではオレに対して失礼なことをした、とか、申し訳ない、とか、そんなことでいっぱいなんだろう。
ちょうど獄寺君が見ていたカーペットのパイル糸の上にしゃがみこんで、獄寺君の顔を覗き込む。
「それともオレ、何か嫌なことした?」
「・・・・・・」
無言の訴え、とでもいうのだろうか。
ぴくりとかすかに動いた体に、それが当たりなのだと分かる。
「獄寺君?言いたいことがあるなら聞くよ?」
獄寺君の目を見てことさらゆっくり話しかけると、
ひざの上に置いた手がぎゅうとさらに握り締められるのが気配で分かる。
強い視線のまま何かを考えるように部屋の中に目を移したり、またオレを見たりと
しばらく落ち着きがない子どものように視線を動かす。
その表情は子どもが見たら泣き出すくらいにはおっかない顔をしていたけれど。
だけどそれは何か葛藤している時の顔だって分かってるから、獄寺君が口を開くまでじっと耳を傾けた。
「ずるいです」
しばらくしてからぽつりと呟かれた言葉を確実に拾って、何が?と先を促す。
「あいつばっかり甘やかして。あいつだって悪いのに、いつだってオレが叱られて」
ずるいです、ともう一度繰り返した。
自分の思いを吐き出し終わった後うつむいた獄寺君を見てくすりと笑みをこぼす。
ああかわいいなぁ、なんて言ったらすごい勢いで反論してくるんだろうけど。
「獄寺君も甘やかして欲しい?」
かわいいって思えないひとを甘やかす趣味は、あいにくオレにはない。
びっくりして勢い良く顔を上げた獄寺君は普段はあんなにかっこいいのに、
何でオレの前ではこんなかわいいんだろうなぁなんて、
やっぱり本人が聞くと全力で反論しそうなことをのんびりと考えた。
とりあえずランボに対してしているように、獄寺君に向けて手を広げた。
オレの様子を見ていた獄寺君は驚いた顔をしていたけれど、
顔をくしゃりと歪ませてから勢い良く抱きついてきた。
至近距離にもかかわらず全力で抱きついてくるところとか、
オレの背中に回した腕でぎゅうぎゅうにシャツをつかむところとか、
オレの胸に顔をすりよせてくるところとか、やっぱりランボみたいだ。
(本人は反論するだろうけど、やっぱり似てる)
これだけなつかれてしまうとこちらとしても情がわいてきて。
目の前で揺れる髪の毛をそっと撫でた。
いつもは綺麗にとかされた髪の毛が抱きついて顔をすりよせたためにくしゃくしゃになっている。
それを普段の通りに綺麗な流れに戻すために、ゆっくりと手を動かした。
髪の毛を撫でる行為はそのまま頭を撫でるものになって、
安心したのか満足したのか、シャツを握り締めていた指からゆっくりと力が抜けていった。
そんな風に素直な反応をされると少し意地悪をしたくなってしまって。
上から下に動かした手で撫で付けるようにして髪を耳にかけた。
そうやって現れた耳に手を這わせる。
「っ、10代目・・・?」
「何?」
オレの顔を伺う獄寺君を自分の胸に押し付けて、耳元に唇を寄せる。
舌を伸ばして舐めてみたり、唇でやわらかく挟んでみると、胸元でくぐもった声が聞こえた。
「10代目、ちょっと・・・それはやばいです」
「何で?」
うつむいた顔にかかるさらさらの髪の毛。
奥に見える目は普段はきつい光を放っているものの、よく見ればやわらかなカーブを描いていて、
髪の毛の隙間から困ったように見上げられると胸がしめつけられるみたいになった。
かわいいなぁ、なんて。獄寺君に言ったら全力で否定されそうな言葉だけど。
たまに彼はすごくかわいい表情を見せる。
いつもは大人びて見えるけど、オレと一緒のときはよく年相応の顔をして、
たまに今みたいな子どもっぽい表情を見せてくれて。
オレに心を開いてくれてるんだって思わせてくれるから、オレはその表情がすごく好きだ。
また耳元に唇を寄せて、触れるだけのキスを繰り返す。
君がかわいくて仕方ないんだって、言葉にはしないけれど、態度で表す。
ちゅ、ちゅ、と音を立てた時に急に獄寺君がオレを引き剥がした。
「そ、いうことされると・・・たっちまいます」
何かを耐えるような表情をした獄寺君がそう言った。
それにオレは笑って見せて。
「いいよ、たたせて。オレの中に入れて」
目を見て言うと、獄寺君は目を見開いて口をぱくぱくさせた。
顔を赤らめて目を逸らして、少し考えるようなそぶりを見せるから。
「誰にでもさせるわけじゃないよ、獄寺君だけ特別だから」
それを聞いた後にもう一度オレを見た目がいつにも増して色っぽくて。
かっこいいけどかわいくて、やっぱり綺麗だなぁと思い直した。
零れ落ちる髪の毛の間から覗く視線。
この人のすべてがオレのものだって、教えてくれるのは彼自身。
こんなにも綺麗なものがオレだけのものだって、その綺麗な口で言うけれど。
マフィアのボスとか右腕とか、そんなよく分からない関係ではなくて、
もっと分かりやすい、単純明快な・・・恋人として、彼はオレのものなのか、無性に確かめたくなるときがある。
獄寺君のことを甘やかしたいっていう思いの裏には獄寺君からオレ自身を求めて欲しいっていう思いがあるんだろう。
オレの周りにばかり気を回して、オレ自身のことを見てくれてないんじゃないかって思ってしまうから。
たまにはこうやって獄寺君を求めて、確かめたくなるんだ。
「ね、獄寺君」
ゆっくりと唇に唇を押し付けて、精一杯獄寺君を求めた。
End
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あとがき
文章目次
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