自分から好んで見ようと思うことはないが、
男として、やはりこういうものを見ると興奮してしまうのは事実だった。
女の声はだんだん高く掠れていき、座っているイスが体液で濡れ始める。
なおも女がその行為にふけっていると、ガラリと教室のドアが開く音がした。
『・・・先生・・・!』
入ってきた男に向かって足を開いたまま女が言った。
確かに入ってきた男は制服を着ておらず、教師という役柄なのだろう。
その割には知性のかけらもない顔と話し方をしているが。
男はずかずかと女のところまで歩いていき、二・三言ありきたりなセリフを言うと、
すでにいきり立ったものを取り出して女の中に押し入った。
濡れた音に肌のぶつかる音も混ざり始め、結合部分を大きく捉えられると思わずつばを飲み込んだ。
放課後の教室で、誰かに見られるかもしれないというシチュエーションの中、
10代目とセックスをする妄想が頭をよぎる。
嫌がる10代目を机の上に押し倒してのしかかれば、
見つかってしまうかもしれないという不安と羞恥からオレを飲み込んだ部分を収縮させて締めつける。
気持ちよくして差し上げれば、はじめは嫌がる素振りを見せていても
そのうちオレに身を任せてかわいらしい声で鳴いてくださるのだろう。
妄想は妄想だからこそ思うまま身勝手に膨らんでいく。
目の前に広がる非現実のくせに現実世界を思わせる映像は、
隣にいる存在とあいまって体の熱を上げていった。
10代目はこのビデオをどんな風に見ているのだろうか。
ちらりと隣の様子を盗み見る。
隣に座る10代目は小さな体をさらに縮こまらせて、うつむいている。
ときおりちらりとテレビに目をやっては、慌てて目を逸らす。
もじもじと落ち着きなくしている様子は、どんな気持ちを表しているのだろう。
単なる欲情か、それともオレのようになにかを期待しているのか。
「10代目・・・」
そっと、驚かせないように声をかけたつもりだったが10代目はびくりと肩を震わせた。
「あ・・・」
オレを見上げてくる顔は赤く染まり、潤んだ瞳が動揺のために大きく揺れる。
ごくりともう一度つばを飲み込んだ。
ビデオの中の女の媚態よりもよほど、10代目の些細なしぐさがオレを掻き立てる。
『あっ、せんせ、あっあ、そこ・・・あああっ』
テレビからは相変わらず女の喘ぎが聞こえていたが、
今オレが煽られているのは困ったように揺れる紅茶色の瞳だ。
「ご、ごくでらくんは、さ・・・」
10代目が小さな声で言う様子にじっとりと視線を這わせながら耳を傾けた。
「こういう、の、好き・・・?」
「こういうの?」
とは、どれを指しているのだろう。
人に見られるかもしれない、という状況だろうか。
それは確かに興奮を高めるだろうが、
もし本当に誰かに見られてしまう可能性があるのならそれを実行しようとは思わない。
行為の最中の10代目の艶やかな姿を他人に見せることなどできるはずがない。
では、無理やり、というシチュエーション?
それはあまり好きじゃない。
自分勝手に行為を進めるというのもやってみたくないこともないが、
それは妄想の範囲内での願望で、
実際には自分勝手に動きそうになる体を抑えることに必死だ。
セックスに及ぶのは確かに欲望からくる衝動も大きく関係しているけれど、
10代目との行為は愛を確かめ合うものだ。
愛を確かめ合う行為に心が伴わないのでは意味がない。
10代目の気持ちを置き去りにして、自分の欲望ために行うのでは意味がないのだ。
となると残りは女の着ているセーラー服になるが、
どこかのエセ保健医でもなし、特別惹かれるものもない。
受け入れる側の10代目に女物の服を着せるなんて失礼だし、もちろん自分で着る趣味もない。
そうすれば、特にこの中で好きだと思えるものはないように思えた。が。
「獄寺先生・・・」
ぽつりとつぶやかれた10代目の言葉に反応する。
「なんか獄寺君、興味あるっぽいから・・・」
ご自分で言った言葉に照れているのか、少し言い訳をするように言う。
それすらも愛おしいと感じるのは盲目だろうか。
しかしこういったビデオに興味がないとは言わないが、それ以上でもそれ以下でもない。
誤解が確信に変わってしまう前にとすぐに口を開く。
「別にこういうのが好きってわけじゃありませんよ。・・・ただ、10代目にえっちなこと教える先生役なら、コーフンしますけど」
興味があるのはアダルトビデオじゃなくて10代目です。
いたずらを仕掛けるように唇を耳元に近づけてそっと吹き込めば、
大きく反応した10代目が恥ずかしそうな表情を怒った顔で隠してにらんでくるが、うまく隠しきれていない。
こんなときの10代目は怒った態度を作っていてもあんまり怖くなくて、オレを調子づかせるだけだった。
オレの手で、オレのやり方で、10代目が気持ちよくなって、えっちなことを覚えていくのはやはり嬉しい。
他のどれでも10代目に勝てることなんてひとつもないから、
せめてこんなことくらいはイニシアティブを守りたいと思ってしまう。
その考え自体が、とても格好悪いことだけど。
「それだったら、いつもじゃないの・・・?」
ぽつりとこぼす10代目へと視線を向けて続きを待てば、
なんとなく言いにくそうにしながらもその先を続けてくれる。
「・・・えっちなことなら、いつも教えてくれてるじゃん」
ぎゅう、と小さな手を握っているこぶしに手を重ね、
近くにある形のよい耳を銜えて舌を這わせた。
「ご、ごくでらく・・・」
「えっちなこと、いっぱい教えて差し上げます」
華奢な体をソファに横たえ、上からかぶさる。
ビデオを消して邪魔者を消すと、すぐに目の前のやわらかな唇に夢中になった。
主導権を握っているつもりでも、オレが10代目に勝てることなどひとつもない。
それでも幸せと感じるのは、理屈なんて関係なく、ただ10代目が好きだからだ。
End
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エンドリスト(3/10)
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