他の誰にも強気の獄寺君は、オレに対するときだけとても臆病になってしまう。
言いたいことがあるだろうに黙ってしまうというのは、獄寺君はオレに対してだけ我慢をしているってことだ。
言いたいことを押さえ込んでオレのご機嫌を取るのは恋人じゃなくて部下の態度だ。
足を動かし、獄寺君との間をつめる。
驚いて身を引く獄寺君にさらにつめ寄って、手を伸ばして頭をなでた。
さらさらと手触りのいい髪の毛を、口を引き結んで無言でなでる。
しばらく驚いてされるがままだった獄寺君は頭を振って手を離させた。

「っ、子ども扱い、しないでください」

獄寺君の強い視線がオレの目を射抜くように見た。
オレも負けずに見つめ返す。

「分かってんじゃないか、子ども扱いって」

伸ばしていた手を引っ込めて言えば、
獄寺君はその言葉の意味するところを理解してくれたのか、
まっすぐだった視線がゆらりと揺れた。

「ディーノさんのあれは、単純に『弟分』に対する態度だよ。獄寺君が心配に思うことじゃない。オレが好きなのは獄寺君だけだ」
「・・・っ、オレ、だって、10代目が好きです。だから、あなたがオレを好きだと分かってても、特別な意図がないと分かってても、誰にも触れさせたくないんです!」

ごめんなさい、と最後に謝って獄寺君は口を閉じた。

「なんで謝るの」

オレの気持ちがちゃんと伝わってるってことが分かったり、
いつも遠慮や我慢ばかりして隠してしまう獄寺君の本音を聞くことができたのに。
口調はそっけなさを装ったものの、口元が緩んでしまう。
そんなオレに獄寺君は不思議そうな顔をした。

「・・・だって10代目、こんな嫉妬深い男、嫌でしょう」
「いやじゃないよ」

獄寺君のやきもちは確かに時と場合によっては困ることもあるけれど、基本的にはいやじゃない。
いやじゃないというか、時と場合を間違えなければ嬉しいことだった。
それは獄寺君がオレのこと好きだから起こる感情だし、
普段わがままを言わない獄寺君がたまに見せる不器用な甘えの態度だからだ。

「オレが獄寺君の中でいやなところは、一人で我慢してどっか行っちゃうところだよ」

ぴくりと獄寺君が反応する。
思い当たるところがあるんだろう。

「さすがに『みんなと触らない』なんてのは無理だけど、オレ、獄寺君にだけは特別な気持ちを込めて、触ってるよ」

もう一度手を伸ばして、今度は獄寺君のほっぺたに触れる。
男らしくすっきりとしていて、なめらかな肌。
獄寺君が大好き。
そう思いながらなでていれば、獄寺君のほっぺたがほんのりと熱を持った。
きれいな緑色の瞳を揺らして、こわばった顔がゆっくりと解けていく。
困ったように眉を下げながらも さっきまでとは違って穏やかな笑顔になった獄寺君に、オレも一緒に笑顔になる。

「オレの気持ち、分かった?」

そう尋ねると、触れていた手のひらを獄寺君の手に取られる。
そしてほっぺたから離れた手のひらに、ゆっくりと唇をつけられた。
ぴくり、と掴まれた手が震える。

「はい。オレも、10代目が大好きです」

嬉しそうに笑いかけてくれる獄寺君にオレも嬉しくなって笑い返した。
掴まれたままの手を獄寺君の大きな手のひらがゆるゆるとなでてくる。
触れ合った手のひらから獄寺君の気持ちが伝わってくる。

「すみません、10代目。ありがとうございます」

謝ってしまうのはもう癖みたいなものなのかもしれない。
ありがとうと言って笑う獄寺君の気持ちがふわりと胸にしみこんでくるようだ。
好き、大好き、嬉しい、幸せ、よろこびの気持ちが二人の体をめぐるみたいだ。

「オレも、獄寺君が好きだよ」

オレの言葉にお互いの笑顔が深まっていく。
声に出して言えば、それはもっとオレたちを幸せな気持ちにした。


End


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