「っ・・・!?」

隣から横向きに抱きしめると、突然のことに10代目が驚きの声をあげる。

「10代目・・・」

前から回した腕で肩を抱き、背中から回した腕で腰を引き寄せた。
驚かせないように、怖がらせないように、できるだけ優しい声で10代目を呼んだ。

「獄寺君・・・?」

オレの名を呼び、こちらを振り向く。
不安を織り交ぜた表情で見上げてくる顔にそっと唇を落とす。
顔を近づけると10代目は反射的に目を閉じた。
まぶたを下ろし、怖いものを遮断する。
瞳を覆う、10代目を怖いものから遠ざけるまぶたにキスを落とす。
やわらかく押し付けて、唇をずらしてまつげを挟む。
ふるりと震える感触がくすぐったい。
目元、頬、鼻先、口角、顔中に触れるだけのキスをして移動していくと、
強く引き結ばれていた唇がふわりとほころんだ。
片手はシャツを掴んだまま、もう片方の手が首元に回っているオレの腕を優しく撫でる。
笑みをかたどる唇にキスを落とし、腕に触れる感触に体を起こして見下ろせば、
さきほどまでの様子とは変わり、いつもの優しい笑顔になっていた。

「10代目・・・」

もう一度体を倒して10代目のふわふわの髪の毛に顔を埋める。
暑い中移動してきたために、シャンプーのにおいに混じって、甘い、10代目の汗のにおいがした。
相変わらずテレビから聞こえてくる幽霊ののろいの声も
なにか膜を隔てた外の出来事のように、ぼんやりと鈍く伝わってくる。

「・・・ぜんぜん怖くなくなっちゃった」

10代目の声にもう一度体を起こしてみれば、楽しいような困ったような、複雑な表情をしている。

「こういうのって怖いのが楽しいのに、獄寺君と一緒だと、なんか・・・」

言葉を途中で途切れさせた10代目にそれまでのふわふわとした気持ちが吹き飛んだ。

「な、なんか、なんですか・・・?!」

10代目の楽しみを邪魔してしまったのだろうか。
確かに自分の欲求に任せてビデオを見ている10代目の邪魔をしてしまった。
思い当たることがあるだけに申し訳なさで血の気が引く思いでいると、
腕の中から小さな笑い声が聞こえてきた。

「なんか、安心しちゃって、獄寺君のことばっかり考えちゃって、だめだね」

そう言いながら、10代目はオレの胸にことりと頭をつけてくる。

「もうぜんぜん怖くないや」

10代目がテレビを見る気配がしたのでそれに倣って見てみるが、
おどろおどろしい音楽も血みどろの女も怖くない。
オレは作り物の映像なんて本物と比べたらまったく意味のないものだと思うけれど、
娯楽として捉えている10代目の楽しみを奪った罪はとても大きいものだと思う。

「すみません、10代目・・・」

名残惜しく思いつつも10代目の体から離れようとすれば、腕を引いて止められる。
少し身じろぎしただけでほとんど元のままの体勢でいれば、
目の前にさらされた10代目の首筋がほんのりと赤く染まっている。

「10代目・・・?」
「これでも・・・」

胸に顔をうずめて、ぽつりと呟く。

「せいいっぱい、さそってるつもりなんだけど・・・」

10代目の言葉が脳に達して、その意味を理解したとき、
ごくりと自分がつばを飲み込む音がいやらしく耳に届いた。
首を傾け、口を開いて、引き寄せられるようにして舌先を伸ばす。
うなじから肩先に向けて、ねっとりと舐め進める。
びくりと震えてますますオレにしがみつくのは、とても効果的にオレを煽った。

「ビデオはもういいんですか?」

意地悪く耳元へと吹き込めば、くすぐったそうに首をすくめる。

「いいよ、獄寺君の方がいい」

体を離し、かわいいことを言ってくれる10代目の唇に吸いついた。
そのままゆっくりと、ソファへと体を沈めていく。

「ここで・・・?」
「10代目が誘ったんですよ」

見上げてくる10代目にそう答えれば、ふわりと嬉しそうに微笑まれた。
そんな笑顔がなによりもオレを強く揺さぶる。

「10代目・・・」

再び唇をふさぎ、10代目の体へと服の上から手を這わせていく。
唇から、指先から、体の奥まで、意識の中まで、
オレのすべてが10代目で満たされていく。
意識の外へと忘れ去られたテレビの画面にはいつの間にか砂嵐が流れていた。


End


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