この顔は、ものすごくすねてる。
なんだよさっきは右腕ぶってロマーリオさんたちに張り合ってたくせに。
そんな風に思うものの、気に入らない、納得できないっていうオーラを
隠しもせずにいる獄寺君に嬉しくなってしまう。
だってこれってオレに甘えてくれてるってことだ。
口元がゆるんでしまうのを自覚しながら獄寺君に近寄っていく。
獄寺君の手からアイスの棒を抜き取ってゴミ箱に捨て、空になった手のひらを握る。
ぴくりと反応しただけで離しも握り返しもしてこない手のひらを
もう一度握りしめて歩き出せば、獄寺君は素直についてきた。
お互いの手のひらがアイスのしずくでぺたぺたしてた。
今はなんだかそれも楽しい。

「獄寺君、かわいい」

だからつい、そんな言葉が出てしまった。
獄寺君はオレの前ではかっこいいとか頼りになるとか、そういうのを見せたがっているようだから
そんな風に思うことがあってもなるべく言わないようにしてるんだけど。

「かわいくなんてありません」

だってほら、言たって認めないし。
ぺたつく指先にぎゅう、と力が込められる。
そういうところがかわいいと思うんだけど。
マフィアで守護者でタバコ吸っててダイナマイト使ってドクロが好きで、
見た目も性格もどこもかしこも物騒なのに、オレの前でだけは甘えてくれる。
それがすごくくすぐったくて嬉しいんだ。
相手に甘えるのは、相手の愛情に気づいてるってこと。
恥ずかしくてなんにも言えないオレだけど、獄寺君はちゃんとオレの愛情を感じ取ってくれてるってことなんだ。
そう思えば普段は言えない言葉もするりと出てきた。

「オレ、かわいい獄寺君、大好きだよ」
「・・・!」

ほんとはかっこいい獄寺君もかっこわるい獄寺君もかわいくない獄寺君だって、ぜんぶぜんぶ大好きだけど。
やっぱりそんなことを言うのは恥ずかしいから少しいじわるをしてそう言えば、
獄寺君は嬉しいような困ったような難しい顔をしている。
身長差のせいで少し下の位置から向こうを向いてぶつぶつ言っている獄寺君の表情を眺めていれば、
それに気づいた獄寺君がふいと顔を背けてしまった。
少しいじわるしすぎたかな、そう思って背けられた顔を覗くように首を傾ければ
振り返った獄寺君にするりと掠めるようなキスをされてしまった。

「っ、ごくでらく・・・!」

慌てて顔を後ろに退いたけれど、つないだままの手があって思うように離れられない。
いくら一瞬のこととはいえ、ここは外で、商店街で、人がいっぱいいるっていうのに!
いまさらだけど口元に手をやってガードすれば、
獄寺君はちらりとオレを見たあとまた視線を外して言った。

「10代目がいじわるを言うので、オレもいじわるしました」

なんて、それで獄寺君は自分がかわいいっていう自覚がないんだから困るんだ。
つないだ手を引っ張られながらゆっくりと歩く。
口元の手を下ろして、歩きながらこっそりと言った。

「じゃああとで、部屋に着いたらいじわるじゃないキスしてくれる?」

手のひらに力を込めてオレからもしっかり握り直せばぴくりと獄寺君の腕が反応する。
また獄寺君が口の中でもごもごと文句を言ったあと、きゅっと手のひらに力がこもった。
それはきっと、分かりましたのサイン。
嬉しくなって、少しだけ離れていた距離を縮めてくっついた。
オレだってちゃんと獄寺君の愛情に気づいてるから、安心して君に甘えることができるんだよ。


End


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