「ただいまー」
「お邪魔します」
商店街から帰ってくる途中にハルと京子ちゃんに会い、チビと瓜は二人についていってしまった。
誰もいない静かな家の中に向かって二人で声をかけながら靴を脱ぎ、
獄寺君がドアを閉めてくれるのを確認してから二人そろって家に上がる。
まずは買ってきたアイスを冷凍庫に入れて、手を洗ってからリビングに向かう。
水道の水がお湯のようにあったかいのが妙に楽しくて笑いながら歩いていけば、
窓の向こうでは母さんが出かける前に干していた洗濯物が風になびいて揺れていた。
「オレが洗濯物取り込んできますから、10代目はそれを畳んでいってもらえますか」
「うん、分かった」
分担を決めると獄寺君は窓を開けて庭に出ていった。
オレと母さん、リボーン、ランボ、イーピン、フゥ太、ビアンキ。
いつの間にこんな大所帯になったのか、たくさんの洗濯物が並んでいる。
洗濯ばさみをひとつひとつ外していき、獄寺君は洗濯物を取り込んでいく。
まずはタオル、次にチビたちの服、種類ごとに運ばれてくる洗濯物を畳みながら、
ふと、獄寺君の歩き方がぎこちないことに気づいた。
ひょこひょこと、たまにサンダルを引きずるようにして歩いている。
庭に出るために置いてあるサンダルは母さんとチビたちのものしかなくて、
その中で一番大きな母さんのものを選んだとしても獄寺君の足には小さすぎた。
サンダルよりも一回り以上大きな足で、サンダルの屋根の部分にかろうじて突っ込んだつま先に力を入れて、
ちょこちょこと、脱げないように気をつけながら歩いている。
ひょこひょこちょこ、ずり。あ。
今ちょっと脱げかけた。思わず小さく笑ってしまう。
獄寺君はそんな足元の様子を顔に出さず、相変わらずせっせと洗濯物を取り込んでいる。
チビたちの服が終わったら、今度はオレと母さんの服。
腕いっぱいに服を抱え、ちょこちょこと、家の中まで運んでくる。
そしてまた物干し竿の方へ、さっきよりは少し大股で、それでもひょこひょこと歩いていく。
その後姿を見ながらオレはまたくすくすと小さく声を立てて笑った。
「10代目?何か楽しいことでもありましたか?」
最後に大物のシーツを取り込んで、獄寺君はリビングの床に腰を下ろした。
もう獄寺君は歩いていないのに、くすくす、笑いが収まらない。
うつむいて笑うオレを下から覗き込んで、獄寺君が唇を触れ合わせてきた。
笑い声は飲み込んで、けれど口元はまだ笑みの形をほどけない。
「サンダル。母さんの、ちょっと小さかったね」
服を畳む手を止めて言えば、獄寺君も取り込んだ服を引き寄せる手を止めて、微笑んだ。
「さすが。気づいてましたか、10代目」
ひざの上に置いた手にそっと手を重ねられ、口の端にまたひとつ、キスをくれる。
至近距離で笑い合って、ほんわり、胸の奥があたたかくなった。
手を動かして重ねられた手を握りしめて、獄寺君のほっぺたに唇を寄せる。
獄寺君と過ごすなんでもない毎日がとても幸せ。
太陽は相変わらずじりじりと照っていて、蝉が大きな声で鳴いている。
唇を離して見つめ合ったあと、もう一度ふわりと笑い合って、
それからまた、二人で洗濯物を畳みはじめた。
End
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エンドリスト(9/10)
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