弁当を買うためにコンビニに向かって歩いていると、京子ちゃんとハルに会った。
チビと瓜は二人についていってしまい、買出しはオレと獄寺君の仕事になってしまった。
「いらっしゃいませー」
自動ドアが開くと店員さんの声と一緒に冷たい風がやってくる。
店の中の寒いくらいの温度は、暑い中を歩いていた体には心地よかった。
ひとまず店の奥まで入り、雑誌コーナー、お菓子コーナーを通り過ぎて、
弁当・惣菜のコーナーに辿り着く。
焼肉弁当、から揚げ弁当、ハンバーグ弁当、オムライス、ミートスパゲッティ・・・、
同じものを買うと文句を言われてしまうので、それぞれの好みも考えながら、適当にかごの中に入れていく。
別々のものを買うと今度は争奪戦が始まって、それはそれで厄介なんだけど。
完全なる三角形の上下関係が出来上がってしまっているから、もめて決まらない、ことはないけども、
平和な家庭環境にはほど遠い我が家になれすぎてしまった自分も悲しい。
家の分を買い込んで、獄寺君を振り返る。
「獄寺君も、弁当買う?」
「そうですね」
オレの言葉に一瞬考える素振りを見せたあと、
獄寺君は頷いて、近くにあった買い物かごを取り上げた。
家事のとても苦手な獄寺君は、晩ごはんはだいたいコンビニ弁当で済ませているらしい。
一緒に遊んだ日はオレの家で食べてくことも多いけど、今日はそれもできない。
手馴れた様子でカルボナーラのスパゲッティとサラダとシュークリームをかごに入れた。
「それいいなぁ」
「ええ、ここのシュークリームは結構おすすめっスよ!」
にかっと笑顔で言う獄寺君につられ、同じシュークリームを手に取った。
自分の分、チビたちの分、母さんの分、次々にかごに入れていくと、棚にある分ではどうも足りない。
周りに目をやり、近くにあったプリンも入れていけば、
人数分は足りたものの、ちょうどプリンも売り切れてしまった。
「うーん」
弁当とデザートだけなのに、すごい量になってしまう。
だけどシュークリームは食べたいし、だからといって自分だけでは悪いので、
結局なにも棚に戻さずに重たいかごを提げながら店の中を移動した。
するとレジの向かいにある棚に花火が置いてあり、思わず足を止める。
「花火だ」
いろんな種類の手持ち花火が入ったセットになったものが多く、
そのほかには線香花火だけのものとか、打ち上げ花火単品とか、
それなりに種類が豊富にそろっていた。
立ち止まって棚にかけられている花火を眺めていると、獄寺君も隣に並んだ。
「いいですね、花火」
「うん、やりたいなー」
みんなでやるとなったらかなり買い込まなきゃいけないけど、
二人分なら中くらいのセットひとつでも十分楽しめそうだ。
袋によって中に入っている花火の種類が少し違うようだけど
火がついていない状態ではどれがどんなものかも分からない。
値段も本数も同じだから、とりあえず袋の好みで選んでかごに入れる。
ごはんと花火だけで山盛りになった買い物かごを台の上に乗せて会計を済ませ、
今度は入ってきたときとは逆に前から熱気を受けながら外に出た。
二人で並んで歩きながら、商店街を抜けていく。
やっぱり獄寺君が荷物を持ってくれると言ったので、
デザートと花火が入った方の袋を持ってもらった。
「今日さー、獄寺君ち行ってもいい?」
ジワジワと、夕方になっても蝉は鳴きやまない。
汗を流しながらなんでもないことのように言ったけれど、実はものすごく勇気を振り絞っていた。
からからのぞうきんのようにぎゅうぎゅうに絞った。
考えてしまうとなにも言えない。
実際今日ずっと遊んでたくせに、言うのが今になってしまった。
言ってしまうなら今しかない、そう思って
絞り出たなけなしの勇気を使いながらなんでもない風を装って言った。
隣を歩く獄寺君が、少し、驚いたように身をよじったのが気配で分かる。
オレは恥ずかしくてじっと前を向いたままだ。
「オレはもちろん、構いませんけど・・・ガキどもの面倒見なきゃなんねーんじゃないですか?」
「ビアンキが帰ってきて見てくれるよ。母さんもそこまでは遅くならないだろうし・・・てゆーか、ほんとは今日、朝母さんに言って許可もらってるんだ」
自分の言葉に顔が熱くなった。
じわじわと、気温のせいじゃない熱さにほっぺたが焼けてしまいそう。
それでも顔だけは前に向けて、ずんずん通りを歩いていく。
「そういうことなら、ぜひお越しください」
獄寺君の返事に恥ずかしくなって、それ以上に嬉しくなって、
本当は見せらんないくらいに変な顔をしてる自覚はあったけれど、
やっぱり獄寺君の顔が見たいなって思ってそっと顔を横に向けた。
すぐに嬉しそうに笑う獄寺君と目が合って、オレもそれまで以上に顔がゆるんだ。
お互いの体の間で揺れていた手をつないだら、また嬉しさがふくらんでいく。
まずは家に帰ってデザートを冷蔵庫の中に入れて。
自分の分の弁当とシュークリームと花火を持って、
それからちゃんと用意してあるお泊り用のかばんも持って。
獄寺君ちでごはんを食べて、マンションの前で花火をやって、少しだけだけど宿題もやって。
特別なことがあるわけじゃないけれど、獄寺君と一緒にいるだけですごく幸せ。すごく楽しい。
つないだ手のひらを握りしめて、嬉しい気持ちを伝えていく。
それがちゃんと伝わって、獄寺君が振り返って笑いかけてくれるから、おんなじ顔して笑い返した。
少しずつ、空が夕焼けに染まっていく。
夏はまだ始まったばかりだ。
End
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エンドリスト(10/10)
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