「10代目、10代目〜〜!」

5月連休最後の日、獄寺君がいつものようにオレの家にやってきた。
今日は特に約束なんかはしてなかったと思うけど。
普段も特に約束してなくても、来ちゃうんだけど。

「どうしたの、獄寺君」

急いでやってきた様子に何か急用かと思って聞いてみる。

「今からオレの部屋まで来てくれませんか!?」
「ん、いいけど・・・?」
「やった!」
「・・・??」

結局は用件を聞くことなく、手を引かれるまま獄寺君の家に到着。
部屋に入るまでもなく、普段と違う様子に気付いた。

「・・・どうしたの、あれ」
「10代目のために特別に用意したんです!」
「ははぁ・・・ありがとう」

嬉しそうに言う獄寺君を適当に流しつつ、部屋の様子を伺う。
ベランダから、鯉が垂れ流れている。
それはもう巨大な、どれくらい巨大かというと、
部屋の窓と同じ大きさの鯉の口、
(むしろ窓より大きいのか、鯉の口が歪んで無理に突っ込まれている)
ベランダに胸の辺りを乗り上げて、しっぽは2階下の部屋のベランダにお邪魔している。

「ところであれは何なのか、聞いてもいい?」

やっと視線を獄寺君に戻して話しかけると、とても嬉しそうな声が返ってきた。

「またまたぁ〜鯉のぼりに決まってんじゃないですか!」
「こいのぼり・・・」

その言葉を聞いて、もう一度視線を巨大な鯉に移す。
鯉のぼり、というものは、黒い真鯉、赤い緋鯉、子さい紺色の鯉の最低3匹、
多ければ子どもの数がたくさん、というアレじゃないのか。

それに引き換え目の前に現れた巨大な鯉は、
確かに黒くて立派なのだが、それ一匹で、
しかもポールさえなく、窓に口を突っ込んで、垂れ流されている。

「あれ、鯉のぼり・・・?」
「そうですよ!10代目のために錦を飾ったんです!」
「・・・ん?」

このイタリアからの帰国子女は、とてつもない間違いをしているのではないかと耳を疑った。

「10代目の成功を祈って、黒くて立派な錦鯉を飾ってみました〜!」

錦を飾るっていうのは成功祈願じゃなくて、成功した人が故郷に帰ることだよ、とか
確かに子どもの日に鯉のぼりを上げるけれども、錦鯉もあるけれども、
錦を飾ると錦鯉は、錦違いだよ、とか
そんなことを色々と考えつつも、
褒めて欲しそうにしている獄寺君の顔を見ると、何も言えなくなってしまった。

「あぁ、そうなんだ。へぇーありがとう獄寺君ー」

この誤解を解くべきか、解かない方がいいのだろうか。
とりあえず招き入れられた部屋の中でココアを飲み終わるまでに考えようと、
今この場で考えることを放棄した。





End





................

バカ獄寺。
ちなみに鯉のぼり妄想でこんな話を考えてしまうのは、私が獄寺並みにバカだからです。
獄寺は前日に鯉のぼりのことをテレビで知り、

「錦を飾らねぇと!」

とか思って、すぐに業者に一番でかい真鯉だけを発注したんだと思います。
そうだ既製品じゃない。奴は作らせる。
そして緋鯉やら子ども鯉をつけてくる業者を一蹴。

「10代目の分だけあればいいんだ!」

などと意味の分からないことを叫んだんだと思います。バカ。
でもちゃんと3匹分(むしろ5匹分か)の料金は払ってます。

(2005.05.06 拍手文として)


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