課題から目をそらして顔を上げると、獄寺君は前髪をたらして机に置いた教科書を見ていた。
たぶんオレが次に解く問題を先に解いて、説明できるようにしてくれてるんだろう。
ありがたいなぁ、悪いなぁ、そんなことを考えながら獄寺君の整った顔を眺めていると、
どこからともなく耳障りな音が聞こえてくる。
音の正体を突き止めるために辺りを見回すと、蚊が一匹飛んでいた。
小さな音を立てながら、ぷーん、と獄寺君の周りを回る。
そしてぴたりと顔に止まった。
時間にしてみれば2秒も経っていないだろうけども、蚊が止まっていた時間が長く感じて、
そのままでは完全に血を吸われてしまうと思って手を伸ばした。
だけど無言で顔を叩くのもどうかと思い、だからといって蚊が止まってるよ、と言う間も惜しい。
手を伸ばしながらそんなことを考えて、結果、手を伸ばしていたのに気付かれ、
とりあえず獄寺君の首にぺちりと手を当ててから、獄寺君、蚊。とか言った。
当て方が悪かったのか力が少なすぎたせいか、
蚊は何のダメージも受けずにまたぷーん、と飛び立ってしまう。
「・・・10代目、そんなんじゃ蚊を倒せませんよ」
「ぅ、ごめん・・・」
「もっと力強く、がつん、とやっちゃってください」
「そ、そんなのできないよ・・・」
弱々しく否定すると、獄寺君の手がすっと伸びてきた。
何、と聞く前にその手がほっぺたにぴたりと吸い付く。
獄寺君の指先はほんのりと温かく、クーラーのせいで冷えてきた体に暖かかった。
「ゆっくりするなら、こんな風に押さえて、ちゃんと潰さないと」
蚊です、と言われながらほんの少し、力を入れられただけなのに、
なぜかオレまで動けなくなって。
それからゆっくりと、押さえられてる力が抜けていく。
そのことに何となくほっとしていると、押さえられていたほっぺたを指先でぬぐわれて、
前から近づいてきた獄寺君にキスをされた。というか、舐められた。
「・・・何?」
「血、吸われてたみたいで。ほっぺたについてしまったので舐め取りました」
蚊をつぶしたとこなんて汚いんだから、
わざわざ舐めなくても、タオルで拭けばいいのにと言えば、
オレがしたかったので、と言ってにっこり笑う獄寺君は卑怯だ。
そんな風に笑顔を向けられると、オレが何も言えなくなるの、知ってるくせに。
「じゃあせめて、そういうのは、やる前に言ってよ」
むすっとふくれて言うと、
「だって10代目も、さっき触った後に言ったじゃないですか」
そんなことを言ってくる。
そう言われてしまえばそれ以上何も言えなくなってしまって。
オレから離れた時に見えた獄寺君の手のひらには血の跡なんて見えなくて。
蚊はただの言い訳だったのかな、なんて思えば、
獄寺君に捕まってつぶれてしまった虚構の蚊のように、
オレの心臓もつぶれそうに動き出した。
End
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途中までは、私が主任にやったこと。
主任にこんなことやり返されてませんよ。(笑)
(2005.07.11 拍手文として)
(2006.04.23)
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