「獄寺君、何で水は100℃じゃないのに蒸発するの?」
昼休み、机の上の水溜りを見ながらぽつりと呟いた。
そろそろ寒くなってきて屋上でごはんを食べるのはつらい時期。
今日は母さんの都合で昼ごはんが購買になったのだけれど、
購買でパンを買ったついでに教室に帰る途中の自販機で紙パックのジュースを買った。
オレの机に獄寺君と山本が寄ってきて、近くにあったイスを寄せる。
授業中に教科書とノートを広げていた味気ない机は、3人分の昼ごはんを乗せて途端に華やかになった。
「・・・はい?」
紙パックから垂れた水滴が小さな水溜りを作る。
その水溜りはさっきと比べると、少しずつ小さくなってきている。
そしてこの先は知っている。
ティッシュやハンカチで拭き取らなくても、そのうち乾いて消えてしまうんだ。
獄寺君のちょっと間の抜けた声にもう少し説明する。
「だってさ、水の沸点は、100℃なんだろ?」
さっきの理科の授業で聞いたことを口にする。
水の沸点は100℃。
100℃になったら水は気体になってしまう。
じゃあ机の上に落ちた水は、なんで100℃になる前に蒸発してしまうんだろう?
そのことを説明すると、山本はそういえば、と口を開き、
獄寺君は納得がいった、というような顔をした。
「蒸発っていうのは、表面から少しずつ水素と酸素の結合が離れて、気体になっていくことを言うんです」
「はー」
「沸騰っていうのは、表面だけじゃなくて内側からも蒸発していくことを言うんです」
「ほー」
「だから沸騰と蒸発を一緒にすると、ちょっとややこしくなっちゃいますね」
「「なるほどー」」
獄寺君のよどみない説明に、オレと山本は唸った。
じゃあ机の上で蒸発していく水の中では、沸騰は起こっていないんだ。
そりゃそうだ。触っても熱くないもんな。
オレは頭の中でさすがの獄寺君にもバカにされそうなことを考えた。
「すごいなー、獄寺。お前ほんと物知りだな」
「うっせーお前に説明したんじゃねえ。10代目に説明したんだ」
「いやほんと、獄寺君、すごいね」
「いえ、10代目、そんな褒められるほどのことではありません」
山本とオレに対する態度の違いにちょっと笑いながら、考えた。
これはオレにしてみればとても大きな問題だ。
珍しく授業で聞いたことに対して自分で問題を見つけて、色々考えたこと。
考えてはみたものの、答えが見つからなくてもやもやしてたこと。
でも、獄寺君にはとても簡単なことで、すぐに答えを教えてくれる。
例えば英単語の意味とか、数式の解き方とか、
難しい漢字の読み方とか、クラシック音楽の作曲者の名前とか。
左隣にある整った顔を眺めた。
ぎゃあぎゃあと山本に噛み付いていた獄寺君が、
オレの視線に気付いて振り返る。
それまでのきつい表情は途端にふわりと微笑んで、
「どうかしましたか?」
なんてやわらかい声で聞いてくる。
じゃあ、獄寺君を見ているともやもやしてしまうこの気持ちの答えも、
獄寺君なら知っているのだろうか。
End
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沸騰≒蒸発と思ってたたまきさんの勘違いからできたお話。
ベツモノなんですね。
きちんと意味を理解している方には意味不明なお話で申し訳ないです。
なんか拍手文が勘違い小説置き場になってる気が・・・申し訳。
私が高校のときに思った疑問。
なんで水って100℃じゃないのに蒸発するんやろう?
化学の先生に聞いてみたら、即答してくれました。
考えても考えても分かんないことを、すぐに何の迷いもなく答えてくれた先生が、ほんとすごいと思った。
きちんと調べてみると、先生なら常識、の話なんでしょうけどね。
私も生徒の質問にきちっと答えられる人になりたいです。
「漫画はなんで貸し出しできないんですか?」
「・・・・・なんでやろなぁ」
じゃだめだよたまきさん!
【蒸発】
液体がその表面から気化する現象。
【沸騰】
わきあがり煮えたつこと。沸点に達し、液体の表面からだけでなく、内部からも気化が起こり、気泡がのぼりはじめる現象をいう。
【沸点】
液体が沸騰しはじめるときの温度。
【大辞泉】
(2006.11.11 拍手文として)
(2008.01.29)
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