本日最後の授業が終わり、
開放感から教室の中はざわざわと途端に騒がしくなる。

「あーあ、補習があるよ。やだなぁ」

帰り支度をするクラスメイトを横目に、ぼつりとひとつ文句を垂れた。

「10代目、オレ補習が終わるまで待ってます」

席の前に立っている獄寺君はすかさず、嬉しそうにそう言った。
クラブもなく掃除当番もない生徒は一人また一人と急いで教室を出ていく。
今日は昼から曇り空が広がっている。
窓から空を見上げれば、もうすぐで雨が降り出してきそうだった。

「今日は先帰ってて。獄寺君も傘持ってきてないだろ?オレのこと待ってたら雨降ってきちゃうよ」

そう言うと、獄寺君は少し驚いたような、考え込むような顔をしたあと、にっこりと笑った。

「・・・分かりました。それじゃ、先、失礼します。補習がんばってくださいね」
「うん。ありがとう。また明日ね」

教室を出ていく獄寺君を見送って。
雑に掃除をするせいでホコリが舞う教室の隅っこで、
いつもの補習メンバーと並んで、補習が始まるのをぼんやりと待っていた。


大きなごみがなくなって少しだけきれいになった教室で、
よく分からないアルファベットの並びを眺めながらあくびをする。
先生が黒板に文字を書いている間に窓の外を眺めると、
ぽつりぽつりと細い雨が降り出していた。
獄寺君はもう家に着いている頃だろうか。
先に帰ってもらっててよかったな、と思いながら、
視線を戻して黒板に書かれた文字をプリントへと写していった。


補習の間に雨が止むこともなく、
さっきよりも少しだけ強くなっている雨足に、空を眺めた。
待っていても雨が止む気配はない。
これくれいならば、少し濡れてしまうけれど、走って帰れば大丈夫だろう。
校舎を出て、グラウンドを走る。
グラウンドを使うクラブは今日は校舎で筋トレをしていて誰もいない。
体育館を使うクラブはいつも通り練習しているようだけど、
遠くから聞こえてくる声やボールの音は膜を通したような感じがする。
オレの周りを雨が包んでいるみたいだ。
一人ぼっちで寂しいような、不思議な空間にわくわくするような、
どちらともつかない感覚を覚えながら走っていると、
視線の先、校門のところから水色の傘が顔を覗かせているのが見えた。
近付いていくと制服が見えて、少し持ち上がった傘の下からきれいな銀色の髪が現れる。

「10代目!」
「へ?」

見慣れた笑顔に聞き慣れた声。
傘の下からひょっこり現れたのは、先に帰ったはずの獄寺君だ。

「補習、お疲れ様でした!」
「うん、ありがと・・・いや、それよりもなんで?」

驚いていて言葉が足りない。
なんで、獄寺君がここにいるの?

「10代目、傘お持ちじゃなかったでしょう。補習の間に取りに帰りました。使ってください」

足りない言葉でもしっかりと理解してくれる。
獄寺君はにっこり笑って、たたまれたままの傘を持つ手を持ち上げた。
雨降ってて、寒いのに。
一回家に帰ってまた学校に来るなんてものすごく面倒なのに。
差し出された傘を受け取った。

「ありがとう」

オレの頭上に傘を差しかけて、オレが傘を開くのを待ってくれてる。
受け取った傘を左手で持って、獄寺君が握っている傘の柄を右手で取った。

「10代目・・・?」
「一緒に帰ろ?」

声をかければ不思議そうな顔だったのがふわりとやわらかく溶けていく。

「・・・はい」

優しく見つめられるとなんだかとても照れくさいけれど。
雨に包まれながら、さらに小さな傘の中で。
こっそりと寄り添って、二人で並んで家へと帰った。





End





................

某保険会社のCMで獄ツナ。
お父さんが傘持ってきてくれたら、
娘ってば傘受け取って、そのままお父さんの傘を持って、相合傘で帰っていったよ。
すげーなーさすが保険会社イメージいいなぁって思ってたんだけどこれあれ獄ツナだと萌える!ってことで。
どこの会社だったか見てなかったんですが・・・どこのCMなんだろ・・・すみません。
ちゃんと突き止めてから書こうと思ってたんだけど、最近このCM見なくなっちゃった・・・。
んで私、雨というか傘の話好きなの?
いや、違う、これはCMが・・・!(人のせいにしない)

(2008.01.29 拍手文として)

(2008.11.30)


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