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関西青年経営者会議は自動車補修部品をを専門とする阪神地域の経営、研鑽の切磋琢磨の会です。

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大阪都

「国土強靭化政策に思うVol2」  菊地一雄(20120822)

平成24年6月28日

  


8月21日のBSフジのプライムニュースを見ていると、自民党から 町村氏(国土強靱化総合調査会顧問)、 民主党 から櫻井氏(民主党政調会長代理)が出演しておられました。 テーマは、前半は尖閣問題、後半は「国土強靱化政策」でした。

討論の冒頭、町村氏から「地方へ行ってみなさい、建設業者の倒産が凄い。 地方の雇用、活力は衰退してしまっている」「民主党は、公共投資の削減ばかりやっているが、それで良いのか。」という発言がありました。
 この発言について少し考えてみたいと思います。 この発言を聴くと、あたかも地方の経済状況が悪いのは「全て建設業が悪いから」と言っているように聞こえます。

 だから「強靱化政策によって公共投資をどんどんやらねばならない。」と言いたげに聞こえます。 私は、この発想は違うと思います。
 何故かについては、大和総研チーフエコノミスト熊谷氏が討論の中で公共投資の経済的効果、雇用についてパネルで説明しておられますので後述します。
 これに対して櫻井氏は「雇用の面では、建設業 30万人 製造業 15万人の失業者が出ているが医療、福祉関連で70万人の雇用が出来ている。失業者が増えていないのは、産業のシフトが出来ているから。」と述べています。
 詰まり、時代と共に産業構造は変化し、何時までも同じ業種が産業の中心にいることはあり得ないのです。

 戦後の焼け野原からの日本の復興期には、建設業には多大な需要があり、それに関連した業種も一緒に拡大して行きました。
 この15年位前からの中国が、同じような状況にあったのでご理解頂けると思います。
 しかし、この新規建設需要が一巡すれば、建築物は耐用年数が長いので当然需要は激減しますしそれに携わる業者も過剰になってくるのは必然と言えます。 それでも業者を保護しようとすれば、不必要な道路や建物を作り続けなければなりません。その結果、作り終わってからの維持費に莫大な費用がかかる事にもなります。

  もう一つ、町村氏は「3.11で巨大なコンクリートが人の命を救った。そのことをこの一年民主党は誰も口にしない」と発言しています。
 本当に「巨大なコンクリートが、人の命を救った」のでしょうか。
 3.11の津波で「まさかこんな巨大なコンクリートの防波堤が、いとも簡単に押しつぶされてしまうのか」と驚きを持ってみていた人の方が多いのではないでしょうか。 それとも、「コンクリートの量が少なすぎた。今度は、これまでの倍以上の防波堤を作る。」とでも言うのでしょうか。 これも、とても「素晴らしい考え」とは思えません。  

 討論が進むにつれ大和総研チーフエコノミストの熊谷氏が、公共投資への投資効果についてのグラフを提示されました。
1987年には、1兆円の投資に対して1.3〜1.4兆円の効果がありましたが、2011年には1.2兆円弱にまで落ち込んでいます。
つまり、公共投資(建設投資)の経済効果はどんどん減ってきていると言えます。

更に熊谷氏は、業種別の労働力の吸収分布をパネルで説明しましたが、投資額に対して経済効果は悪いが吸収力のあるのはサービス業、経済効果が大きく吸収力があるのは自動車産業等と言うことです。
建設業はと言うと、経済効果、労働力の吸収力も良くない業種に上げられています。 これらの資料から言えることは、建設を中心とした公共投資は経済効果(雇用を含めて)が悪く、日本経済を救済することにはならないと言えるのではないでしょうか。

 そうは言っても、採算を度外視してもやらねばならない、必要な公共投資はあります。老朽化した道路、橋等の補修や災害に備える投資はしなければならないでしょう。
こうした公共投資は、最もその必要を実感している場所の人々が選別から実行迄責任を持って進めるシステムを作るべきだと思います。
また国がやらねばならない公共投資については、何故必要なのか、本当にその予算が適正なのか、といった情報をきちんと国民に公表し、説明をして承認を取ってから実施する必要があると熊谷市は述べています。私もその通りだと思うのです。

 現在発表されている「国土強靱化政策」は、前回も申しあげたように、全て国の中央で決定され推進される様なシステムになっているように見えます。 その財源も、3年間で投資額10兆円の財源は、“建設国債”の発行です。

 この番組の中で熊谷氏は「2015年に日本の国際収支が赤字になる可能性があります。
これまでに他国でも国際収支が赤字になった時、その国の国債価格が暴落しています。
だから日本でも、2015年は要注意です。」と述べています。

  国債の暴落は、日本人が持っている資産が急減する事であり国債の金利の上昇を意味します。国債の支払金利が増大すると言うことは財政の圧迫要因になり、また他の金利の上昇の要因になります。
 加えて、国債の暴落は、国際社会での国力の評価が大幅に下がる事に繋がり、円の急落を招く可能性があります。

 「円が下がれば、輸出産業が回復して日本経済にはプラスになる。」という見方ができますが、最大の輸出産業である自動車や電気産業は、海外生産へのシフトが進んでいて期待するほどの効果がでない可能性があります。
 それよりも、食料、燃料等最も国民生活に近い商品が高騰して場合によってはハイパーインフレになる可能性があります。
 ハイパーインフレは、約1,000兆円と言われる国の借金をほとんど何もしないでチャラにする方策です。
 国の借金はチャラになるでしょうが、日本経済、国民生活は破壊されることになります。

  何故自民党が、ここへ来て大型公共投資である「国土強靱化政策」を打ち出してきたのでしょうか。

 冒頭の町村氏の発言から推測すると“建設業の救済”がかなり大きなウエイトを占めているように見えます。 経済効果がそれほど大きくないであろう建設業に、多額の税金を20年という長期に渡って投じることが、将来の日本に本当に有効なのかどうかを国民一人一人が、チャンと考えねばならないと考えます。

 参考 BSフジ  プライムニュース  平成24年8月21日放送分  皆様にも BSフジ プライムニュース  8月21日放送 後編 をご覧いただくことをお勧めします。

  但し、ネット版では、産業構造別労働力吸収効果等一部がカットされています。