ラスベガスの眠れない夜
香川 裕嗣
ベンジャミン・シーゲルは、殺しを生業とする実在したギャングである。“バグジー”
というあだ名は「虫ケラ」を意味する。バグジーは、欲しいものを手に入れるために
は金も労力も惜しまない男だった。豪邸も車も強引に手に入れていく。
そして、売れない女優バージニア・ヒル(ニックネームはフラミンゴ)をものにした頃から、彼の運命に次第に暗雲が広がっていく。バグジーはある日、「アメリカの夢を見つけたんだ」と興奮して仲間に語る。荒れ果てた砂漠に豪華なホテルを建て、一大娯楽場にする───引き返すことを知らないバグジーは、この夢にまっすぐにのめり込んでいった。たった一人で「アメリカの夢」を見つけたバグジーという男、その飛び散る火花のような彼の人生こそ、究極のギャンブルの連続だった。
金使いが荒くて奔放、行動派だがせっかちで無計l画、そしてしょせんは殺し屋。最後には悲しい結末で終わる。
ネバダの砂漠にぽつねんと残った「ホテルフラミンゴ」。アメリカ随一の歓楽街ラスベガスは、この一人の虫ケラ野郎の大いなる夢から始まった。 私は今夜からの宿、そして勝負の場「フランゴ・ヒルトン」の前に立って思わず“バグジー”とつぶやいていた。
韓国、フィリピン、マカオとアジアのカジノは全て制覇?した私(自称さすらいのギャンブラー)は、ホテルのチェックインもそこそこにカジノのテーブルに着きたかったが、(待てっ待てっ!てぃっ!)「お仕事が先でしょっ!」“Exactry”カジノは24時間やってまんねんで。せいては事をなんとかやら。ちゅうやつですわ。
朝6:00に起きて、ロスから飛行機乗って、ラスベガス着いて、一生懸命コンベンション見て歩いて、晩御飯食べてビール飲んで、シャワー浴びて、今日見てきた物の整理して、11時になったら普通疲れて寝てまいまっせ。そこから元気でてくるのが「さすらいのギャンブラー」のええとこですわ。 ラスベガスのカジノはアジア圏のそれとは違う所がいくつかある。
まず雰囲気。アジア圏の場合カジノ全体が非常に静かである。ピーンと張り詰めた空気が漂い一種の悲愴感がある。(私はその雰囲気が好きなのだが)反対にラスベガスはとってもにぎやかである。私は数あるゲームの中でブラック・ジャックが好きなのだが普通、ヒットやステイの合図は手だけでして声を出さずにゲームが進行するものだがアメリカ人はうるさい、うるさい。一枚のカードに一喜一憂し、からだ全体でよろこびを表現する。他人のカードにもいちいちコメントする人が多い。まあ、それだけフランクでフレンドリーな国民なのであろう。
ここで私が出会ったフレンドリーなテキサス野郎を紹介しよう。彼の名前はジム。テキサスでガスステーションを経営しているという。彼は私が大きめに賭けた時にあざやかな勝利を得た瞬間に「GOOD JOB ! 」と握手を求めてきた。ゲームをしながら彼は奥さんの事や友達の事を非常に聞き取りにくい英語でジョークを交えながら話した。(何故ジョークと分かったかと言うと彼はそれを言い終わると必ずバカ笑いしながら私の肩をバシバシ叩くのである) 私はそんな彼とゲームに興じながら彼の、いやアメリカ人のウィークポイントを見つけてしまった。6以上のたし算が出来ないのだ。その度に私にたずねてくるファニーなジムとの眠れない夜は、いつまでも続くのであった。
NOV,26,1997 BUGSY ・KAGAWA