道徳「ガキ大将のK君」の授業


《原実践》松田倫明「ガキ大将のK君」
『続・子どもが本気になる道徳授業10選』(明治図書)
 

ガキ大将のK君 
 道徳で、中島淳子さんの「ガキ大将のK君」という想い出話を使って、授業をしました。

 小学校三、四年と同じクラスだったK君は、ワンパクの域をはみだしたあばれん坊で、級友たちをてこずらせていました。
 ある日の休み時間のこと、K君はクラスでもおとなしくて目立たないNちゃんに、突然おそうじ用のバケツの水を全身に浴びせかけ、担任の先生に大目玉をくらい、つぎの授業中ずっと廊下に立たされました。
「どうしてそんないじわるしたの?」
 先生に何度聞かれても、K君は口をヘの字形に結んで、廊下の天井をにらみつけるばかりでした。

 この文章を読んだ後、「K君のしたことをどう思うか?」を3つの中から選ばせました。

 K君のしたことをどう思いますか?
  ア、いいことだと思う(0人)
  イ、わるいことだと思う(全員)
  ウ、そのほか(0人)

 わるいことだと思った、その理由を何人か紹介します。
・ずぶぬれになってしまうから。
・冬だったらかぜをひくし、服がぬれて着る服がないから。
・水をあびたらかぜをひくから。
・ひとに水をかけるのは、とてもひどいことだから。
・寒いのに水をかけたらねつがでてしまうから。
・なんにもしていないのに、とつぜんNさんに水をかぶせたから。
・いみもないのにべつにいみがあってかけてもいけないと思ったから。
・そうじ用のバケツの水を人にかけるなんて、わるいことだと思う。

 K君の行動には、2つの謎があります。
 1つは、「なぜ、Nちゃんにバケツの水をかけたのか。」
 もう1つは、「その理由をなぜ、言わないのか。」
 その2つの謎が、続きの文章で明らかになるのです。

 K君のその珍妙な行動の真相を知ったのは、それからだいぶ後になってからのことです。
 上京し、学生生活を送っていた私のもとに、郷里で就職したNちゃんから久しぶりに電話がありました。
「K君が私にバケツの水を浴びせたことがあったでしょう?」
 話題がなにげなくK君のことに移った時のことです。
「私に勇気がなくて当時どうしても皆に言えなかったんだけど、 実はあの時、私、本当はおもらしをしてたんだ」
 Nちゃんは突然こんなふうに切り出しました。
「ズボンからシタシタおしっこがたれてきて、シューズのまわ りの床はびしょぬれ。泣きべそ顔で立ち尽くす私に、K君が 気づいてくれたのよ。」

 続きの文章を読んだ後、「K君のことをどう思うか」書かせました。ずいぶん、K君に対する見方が変わったようです。

 あなたは、K君のことをどう思いますか? 

・1まい目(絵)と2まい目までみたとき、むかつくやつとおもってたけど、3まい目でいい人とわかった。
・いいところもあるんだな、と思った。
・いい人と思う。
・悪い所もあるけど良心もあると思う。
・Nちゃんがおもらしして、K君がバケツの水をかぶせたなら、先生にこっそりいえばいいけど、すこしわるいとおもう。
・おもらししたからって、バケツの水をかけたらかぜひいちゃう。
・ほんとうは、わるいことだけど、おもらししたことを水でごまかしたらいいと思った。Kくんはいいと思う。
・ほんとうはいいことをしたのに、きづいてもらえずかわいそうだった。
・Kくんは、やさしい子なんだなぁと思った。

 あなたなら、Nちゃんがおもらしした時どうしますか? 

・なにもできないとおもう。
・わらうかもしれない。
・せんせいに言う。
・だまっときます。
・いっしょに先生にいってあげる。
・先生にしずかなこえでおしえる。
・おもらししていたこともわからなかったと思う。
・どうしたらいいかわからないと思う。
・せんせいにはやくいう。
・トイレにつれていくと思う。
・むしする。
・「だいじょうぶ?」と話しかけてあげる。
・バケツの水をかける。
・そのはなしが広がらないようにする。
・K君のようにバケツの水をかけれないと思う。

 今日の勉強で、何を学びましたか? 

・こまった人を助けるということ。
・K君みたいに、Nちゃんをかばうのがいたらいいなと思った。
・人のおもいやる気持ち、気をつかってくれる気持ちがわかった。
・K君は、がき大しょうだけど、いいところもあるとわかった。
・いぜんは、ワンパクな子でもやさしいこともすることがあるなっとおもって、いい勉強になった。
・ガキ大将でもいいことをしている。
・みんなしんせつにしていることを学んだ。

 道徳の授業というのは、何を学ぶかは、その子それぞれでいいように、私は思います。