────『 かつて日本の伊二五潜が、米本土アストリアの潜水艦基地を浮上砲撃したこ
とがあった。コロンビア河の要塞からこの砲撃を見ていたアメリカ士官は戦後、
「あまりに勇敢だったので、なすままに許してやったのだ」と語った。
それと同じことをアイスマンは言った。世界最強の戦艦ヤマトを前にして 』────
氷山空母を撃沈せよ![1] ミッドウェー逆襲海戦 |
伊吹秀明 | 徳間書店/TOKUMA NOVELS 刊 | 新書 221p |
シミュレーション戦記から架空・ぶっとび・SF戦記、はてはライトノベルまで幅広く活躍されてる
伊吹秀明氏のデビュー作。もっとも私は氏の作品は「邀撃マリアナ海戦[3] −最後の艦隊決戦−」から
入りましたが(思えば初めて読んだ戦記モノ、小6〜中1くらいだったか・・・??)
英国で一時、実際に研究されていた”パイクリート=氷とパルプの混合物”による航空母艦、いや
むしろ”浮かぶ飛行島”ともいうべき氷山空母、それを米海軍がさらにパワーアップさせ完成させたら…
という、今なら単なる”トンデモ火葬戦記”なのですが、そもそも火葬モノは大部分がヒット作の単なる
模倣の為、全てに無理が生じ火葬の火葬たる所以ですが、本作が”大型超兵器モノ”の第1作である(多分)
ので、実によくまとめられてます。雰囲気としては、現実の太平洋戦争に”氷山空母”というイレギュラー
が登場したら───といったところ。超兵器の応酬もなければ妙なマッドサイエンシストも登場しません!(笑)
紹介欄にある「長編本格架空戦記」の言葉通りです。
登場人物紹介
CVB−35氷山戦闘空母<ハボクック>要目
基準排水量:八五○万九五〇〇トン(戦艦大和は六万五〇〇〇トン)
全 長:一七〇〇メートル
全 幅:五三〇メートル いずれも自然増減あり
滑走路数 :四本(空母のように狭い飛行甲板ではなく、大型爆撃機でも”着陸”できる文字通り滑走路)
搭載機数 :一千機(ミッドウェー作戦時は二六〇機のみ搭載)
乗 員 数:2万人(これも7千人で仮運用)
備 砲:5インチ高角砲八四門。四〇ミリ機関砲一六〇門。二〇ミリ機銃四〇〇門。
(さらに増設の予定あり)
当時世界最大級だった日本の<赤城><加賀>でさえ、其々三万五千t強、約二五〇m、搭載数90機……
比較にすらなりません。氷なので火災も起こらず、魚雷攻撃したって島に撃ち込むようなモノなので効果なし!
(外側の氷が数百トン剥がれ落ちようが、”誤差の範囲内”) 砲撃・爆弾をいくら叩き付けようが、空いた穴に
氷水を流し込むだけでたちどころに修理完了! 対空砲火はハリネズミ……。
”バケモノ”という表現をとっくに通り越してます。
全体的な話しの進め方としては、「ガッチガチのハードボイルド戦記」ではなく、トップの指揮官から下士官兵
までの、それぞれの視点から見た戦い──を中心に進められます。各登場人物も割りと個性的(嫌味の無い程度に
これ重要)で、また時折、読者サービスとも言える(笑)架空戦記ならではの”幻の戦い”も出てきます。
(空母加賀の20サンチ砲による砲撃戦!!等) またイラスト付きの各登場人物の紹介や、登場兵器についてもサラリッ
と解説が入ってるので架空戦記を読んだ事ない方でも、純粋に”読み物”として楽しめるかと思います。
(某霧…ナチ の如くスペック羅列ではないのでご安心を(笑))
昭和一七年六月、MI作戦遂行の為、持てる全兵力にて出撃した日本海軍聯合艦隊。南雲中将率いる
第一機動部隊は史実通りミッドウェー島第二次空襲を準備中、「敵ラシキモノ一〇隻見ユ」の報を受く。
陸上機の攻撃により通信機能を奪われた旗艦<赤城>に代り、第二航空戦隊司令官山口少将は待機中の
艦爆に即時攻撃を命令! 試験的に搭載されていた三菱 一六試艦上戦闘機(後の烈風)も護衛に参加、
かくして、ミッドウェー海戦は日本機動部隊の先制攻撃で始まった!! ”運命の五分間”を脱し、
次々に米機動部隊に襲いかかる山口艦隊。大勢は、日本海軍の勝利に決したかのように思えたが・・・
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「すまんのう、浅野さん。わしが座りこみまでしてついてきたばかりに」
「いや、予備艦扱いで朽ち果てるよりは、こいつも満足だったと思いますよ」
```
艦齢二三年の老小型軽巡<天龍>はたった四門の一四サンチ砲を振りかざし、超巨艦めがけて突進した───
氷山空母を撃沈せよ![2] ソロモン逆襲海戦 |
伊吹秀明 | 徳間書店/TOKUMA NOVELS 刊 | 新書 212p |
次なる舞台は太平洋戦争の転機となった、ガ島を巡るソロモン海。「敵ガ島ニ上陸中」の報を受けた
聯合艦隊第八艦隊は世界の海戦史上初となる”艦隊夜戦殴り込み”を慣行!!第一次ソロモン海戦にて
米巡洋艦隊を壊滅させた第八艦隊は”丸裸となった”敵輸送船団への攻撃に向かうが・・・・・
新編成なった聯合艦隊第三艦隊(機動部隊)を率いるは南雲・小沢両提督ではなく、岸田信悟中将。
第一巻とかわって、本作のオリジナル登場人物による作戦展開が進みます。女房役 天本参謀長と共に
型破りな作戦を用い、ついに氷山空母を行動不能に陥れる事に成功!だが米軍は第二の切り札を持っていた。
米側の氷山空母に日本側も”対抗”させるため、若干の新兵器がでてきます。
商船改造空母二隻に、彗星・天山の南太平洋海戦時の実戦配備、それに離艦促進ロケット………
いわゆる”四式兵器”がちょっと早く出てくる程度(^_^:)さぁこれで敵うのか?!?
あと、”潜望鏡機雷”などといった”珍兵器”も登場、どんなモノかはお楽しみ。
ラストは<大和>対米新型戦艦の夜間砲撃戦!!(おっと、これは1巻でも昼間砲撃戦があった)
しかし、電探射撃により優位に立つ米戦艦に相変わらずの<陸奥>の悲運!酸素魚雷は救世主となるか?!
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”皇国の興廃この一戦にあり。各員一層奮励努力せよ”Z旗は荒々しくはためいている──
「阿合さん、いったいどっちが本当なんだ?英雄か、悪党か」
「あの若い大尉に教えたとおリだ。受け取り方の違い。そうじゃないかね」
対空戦闘を伝えるラッパの音が、高らかに鳴りひびいた────
氷山空母を撃沈せよ![3] 東京沖最終海戦 |
伊吹秀明 | 徳間書店/TOKUMA NOVELS 刊 | 新書 218p |
米軍はついにマリアナ沖に進行。岸田中将率いる第一機動艦隊は<あ号作戦>を発動するが、
ついに”完成”した氷山空母、岸田艦隊に総数一千機もの攻撃隊が襲いかかる───。
聯合艦隊壊滅!もはや浮かぶ大要塞と化した氷山空母!ならば、要塞には要塞の攻略手順で
行こうではないか!! 日本海軍鹵獲○○空母<富嶽>は氷山空母へと進撃を開始した。
ドイツの新型戦闘機にケ号装置誘導爆弾。対する米軍は圧倒的な物量で勝負!!
さぁ物語の結末は如何に!!第3巻はこれまでと変わり超兵器同士のぶつかりあいです。
こうなると話が完全に破綻してしまうケースが多いのですが、これまでの1、2巻の流れから
まったく違和感がありません。背表紙の作品/作者紹介にある、「奇想天外な架空戦記の完成
に専念した氏の情熱が本書に見事に結晶している」の言葉通りであります(←引用で終らさず自分でまとめろ!)
さあ、最終決戦の行方、そしてその後はどうなるのか───??
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