風に吹かれても簡単には消えないような
熱く、力強い炎を
01:導火線
イタリアからリボーンに呼ばれてやってきたという獄寺君。
急に戦いを挑まれて、死ぬ気弾を打たれて必死になった後、
気が付けば何故か部下になっていた。
それからというもの獄寺君に慣れることができずにこそこそと逃げ回っていた。
それでもオレが誰かにからまれていたりすると、急に目の前に現れて助けてくれる。
そう、たとえば今みたいに。
昼休みになったので、昼ごはんを買いに教室を出る。
今日は母さんの体の調子が悪くて、弁当を作ってもらえなかったんだ。
階段を下りて購買部前の廊下に着いた。
そこはもう、戦場のようで。
生徒の叫び声とおばちゃんの応戦する声が飛び交っていた。
しばらく並んでようやくパンとジュースを手にする。
お金を払ってその大群の中から抜け出した時、肩が誰かにぶつかった。
「おい痛ぇじゃねーか。慰謝料としてそのパンもらおうか」
その人はよく見かける3人組みの不良で。
以前もからまれたことがあるので顔を覚えた。
普段なら避けて通るのに、今日は人ごみから抜け出るのに必死で周りを見ていなかった。
じりじりと寄ってくる3人組みに対して、後ずさりするオレ。
そのうちの一人の手が振りあがったと思った瞬間、その人がオレの足元に倒れこんだ。
「どうしたんだ!?」
慌てるのは周りにいる仲間。
もちろんオレもびっくりしたけれど、この場所にいれば何が起こったのかすぐに分かった。
倒れた仲間を起こそうとしてしゃがみこんだ人の首を狙って振り落とされる踵。
その踵が当たった瞬間、先に倒れた人にもたれるようにしてまた、その人も倒れこんだ。
残ったもう一人を睨みつけながら取り出したのは、彼が武器として常備しているダイナマイトだった。
「爆破されたくなかったら、こいつら連れてさっさと失せろ」
あっという間に2人を倒した獄寺君はこっち側に歩いてきて、
オレの壁になるようにして不良たちに向き合った。
左手を広げてオレに下がって、と合図をする向こうには不良たちをにらみつける横顔があった。
その目からは ギッ、と音が出そうなくらいで、
守ってもらっているオレでさえ少し怖かったのだから、
その視線を敵意剥き出しにして向けられている不良たちが、
ひきつった顔をして後ずさりするのは仕方のないことだろう。
それでもまだ無傷の人が獄寺君に向かってくる。
獄寺君は慌てることなく、でもすばやく、右手に持ったダイナマイトを口元に寄せようとした。
「獄寺君!」
慌てたのはオレの方で、思わず獄寺君の右手を引っ張ってしまった。
こんなところで爆発なんかが起こったら、また停学沙汰になってしまう。
それを危惧したオレは、武器とともに獄寺君の気まで引っ張ってきてしまった。
前には構わず突っ込んでくる不良。
オレが招いてしまったことだけど、危ない、と思わず叫んだ。
だけど獄寺君は慌てる様子もなく、左手を上げて不良の振り上げる腕を受け止め、
動きの止まった不良の腹のあたりを狙って裏拳を繰り出した。
ぐっ、と蛙がつぶれたような声をあげて、向かってきた不良は後ろに飛ばされた。
「今度沢田さんに手を出してみろ・・・これくらいじゃ済まさないからな」
その声は今まで聞いたことがないような、低い声。
いまだに触れたままの獄寺君の右手には、オレが震えた感覚が伝わってしまったかもしれない。
「お、覚えてろよ!!」
ありきたりなセリフを残して、不良たちは逃げていった。
不良たちが校舎から出て行くのを見た後、ようやくつかんだままの獄寺君の右手から手を離した。
そしてまだ彼の手に残るダイナマイトを見つけて慌てて声をかけた。
「あ、獄寺君っ、ダイナマイトはしまった方がいいよ・・・また先生に何か言われちゃう・・・」
「・・・すみません、10代目。考えなしな行動を取ってしまって」
「そ、そんなことを言ってるんじゃないよ、ただ・・・」
そこまで言ってハッとした。
『ただ』、オレは何を言いたかったんだろう?
口元を押さえて黙り込んだオレを見て、獄寺君は背中を向けた。
「少し、頭冷やしてきます」
そう言った獄寺君の声は寂しげな色をしていて。
見えない顔は、強さに満ちたさっきの顔じゃなくなっているかもしれない。
頭を冷やさなければいけないのはオレの方だ。
自分が助けてもらったことへのお礼も言わず、
彼の命を守る大切な武器に対して文句を言おうとした。
彼のすることは平和な日本にいるオレにとって突拍子もないことで驚くことばかりだけど。
自分の身を呈してオレを守ってくれる獄寺君の想いは純粋で、疑うものじゃない。
彼を動かすのはオレを守るという想い。
"10代目"であるオレを。
そのことが少し寂しく思えてしまうのは、彼に対して怖い以外の感情があるからだ。
言わなければならないことがある。
伝えたいことがたくさんある。
たぶん今、思ってること全部を伝えることはできないだろうけど。
でも今、言わなければならないことがある。
ありがとう、って。
いつも助けてくれてありがとう、
いつも守ってくれてありがとう。
そしてできれば、怖がってごめんなさい。と。
勇気を出してオレは獄寺君の後を追いかけた。
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