階段を上っていった獄寺君の後を追ってまず教室に行ってみたけれど、彼の姿は見えなかった。
入り口の近くにいた男子に聞いてみても、獄寺君は戻ってきていないという。
彼が落ち着ける場所で、ここよりも上の階。
ということは、屋上だろう。
話を聞いた男子にお礼を言い、すぐに走り出した。
今が昼休みでよかった。
先生は職員室にいるから、廊下を走ることを注意されることもないし、屋上へあがる階段を上っていても、止められることはない。
それまで走っていてあがってしまった息を整えるように、階段をゆっくりと上がる。
かつん、かつん、とやけに音が響く。
一番上までたどり着いて、そっと重たい扉を開いた。
扉を開ききるとコンクリートの壁にもたれてタバコを吸っている獄寺君が見えた。
「10代目!」
「あ、よかった。やっぱりここにいた」
階段を上る音が聞こえていたのだろうか。
獄寺君は扉が開く前からこちらを見ていたようだ。
またきっちりと扉を閉めて、獄寺君の前に歩いていく。
獄寺君は慌ててタバコの火を携帯用の灰皿で消して、立ち上がった。
「何かトラブルでも?」
「ううん」
トラブルならば、さっきみたいにオレが何も言わなくても片付けてくれるのに。
そんなにオレは問題を持ってくるタイプに見えるのだろうか。
そんなことをぼんやりと考えながら、獄寺君の方へ歩いていった。
獄寺君はオレが何かしゃべるのを待っているかのように、無言でオレの動きを見ている。
いつもなら色々なことを話してくれる口は、結ばれたままで。
本当ならオレから離れていたいのかもしれないけれど、
わざわざオレが後を追ってきたのが分かっているから、どうすることもできずに立ち尽くしているのだろう。
獄寺君の前まで歩いていって、さっきまで彼がもたれていた壁に同じように背を預ける。
「10代目?」
「獄寺君も座りなよ」
「・・・失礼します」
それからまた、少しの沈黙。
オレの隣にちょこんと正座した獄寺君を横目で見る。
視線がせわしなく動いて、落ち着かないようだ。
自分以外の人が落ち着かないのを見ていると、自分が落ち着いてくるのが不思議だ。
こんなところまで獄寺君に手伝ってもらっているようで、何だか情けない話だけど。
口を上げるだけの笑みを作って、落ち着いた気持ちで口にした。
「さっきはありがとう」
本当はその場で言わなければならなかったんだけど。
たとえ遅くなったとしても、伝えておかなければならい言葉だから。
だから、いまさらだなんて言わないで、いつもの笑顔で応えて。
こっそりと視線を上げて獄寺君の顔を見ると、何だかびっくりしたような顔をしていた。
でも少しして、やっぱりいつもの笑顔を見せてくれた。
オレの好きな、やわらかい笑顔。
「オレの方こそ。オレが到着するまで、無事でいてくださって、ありがとうございます」
笑ってそんなことを言ってくれるから。
いつだってオレは獄寺君に甘えてしまう。
彼が傷ついていたとしても、それが顔に出るまで気が付かない。
今は笑っているけれど、さっきオレが傷つけてしまったことはまだ心に残っているだろう。
「それと、さっきはごめんね。オレは、パニックになると大切なことが見えなくなってしまうから」
「・・・何がです?10代目が謝ることなんて、ありませんよ」
少し、表情を作るまでに間があいた。
オレが負い目を作らないように気を使う態度。
オレと獄寺君の間に見えない壁があるみたいで。
何だかそれが、すごく、つらい。
「助けてくれてる獄寺君に、えらそうに文句つけて」
もしオレが獄寺君の立場なら、そんな風に思っていると思う。
そんな感情をぶつけられるのはつらいけど、距離を置かれる方がもっとつらい。
「い、いえ!そんなことはないです。オレが、状況を考えずに何でも爆破させればいいと思ってるから・・・!」
また、獄寺君の気を使わせてしまう。
彼の考えをオレのために曲げさせてもいい程、オレはえらい人間じゃない。
「いいよ」
「え?」
「いいよ。それで。獄寺君は、それでいいと思う」
「10代目・・・」
オレが本当にそう思っているのか、量りかねている表情。
「それが獄寺君の選んだものなら、オレのために曲げる必要なんてないと思う」
爆破させるばかりで優しく包み込むこともできない。
不器用な彼の精一杯。
それを拒む理由は、考えてみればオレにはない。
言葉や行動はぎこちないけれど、その内にある気持ちはひしひしと伝わってくる。
それが少なからず嬉しいと思っているのだから、外見や行動を気にすることは本当はないんだ。
それでも周りが気になるオレの弱さが消えるまで、たぶんもう少しだけ。
想いに火がついて爆発するまでの、ほんの少しの猶予をください。
End
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ツナが落ちるまでもうちょっと。
あんまり人に自らの手で危害加えるのは好きではないですが、
体術もある程度できそうだなぁって。妄想です。
あんまり使うの好きじゃなくても、10代目と自分の間に敵がいるっていう
一刻を争う時なんかは、手段なんて選べないと思います。
んで10代目の思うままに動けない自分の歯がゆさを、不良にぶつけたりするんですよ。かわいいなぁ。(笑)
それで余計ツナが怖がるんですよ。(笑)
この一方通行さ加減が良いなぁと思います。
でもちゃんと両方向の一方通行ね。(普通の車道かしら)
やっぱり獄寺は日本の極道映画から正座を覚えたんだと思います。(笑)
こんなとこに萌えを感じるのは私だけかなぁ。
すごいかわいいと思うんですが。
ちょこんと座ってるの。
(2004.08.28)
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