――なに、それ。
考えるよりも先に、手を伸ばした。
いつまでも向こうを向いている肩に手をかけて、そのままベッドに引き倒す。

「っ、10代目・・・!?」

抵抗はあった。だけど、構わずに倒した体を繋ぎ止める。
白いシーツに綺麗な銀色の髪が散る。
その中で、獄寺君は驚いたようにオレを見上げた。

『自分の都合のいいように取ってしまう。違うって分かってるのに期待して・・・』

あれって、そういうことだったんだ。

「獄寺君にとってはオレの言葉なんか、10代目の言葉でしかなかったんだ。
オレのこと、好き、みたいに言うくせに、オレの言葉なんて全然聞いてないじゃないかっ!」

考えるのと同時に口が動いた。
オレの言葉に獄寺君が目を見開く。

「オレ、獄寺君が好きだって言ったよね?オレの気持ちは伝わってなかったの!?」

バカみたいだ、こんな、癇癪を起こしたような行動。
だけど悔しくて口が勝手に動いてしまう。

「オレは獄寺君が好きだ。部下でも、友達でもなくて、獄寺君のことが好きなんだよ」

いくらかトーンを落として告げる。
今度こそ、なかったことにされないように、そうとしか取れないように好きだと告げる。
見下ろした獄寺君はぱちくりと大きく瞬きをして、それからひどく驚いたような顔をした。

「10代目・・・本当に・・・?」
「こんなこと、嘘でなんて言わないよ」

ずいぶんとひねくれた返事をしてしまった。
だけど、おとといの帰り道でのようにぼんやりとした気分ではいられなかった。
また誤解されては困る。だってオレは、獄寺君のことが好きなんだから。

未だに肩を掴んで見下ろして、逃げられないようにと必死になって。
白いシーツに散らばった髪の毛は銀色に輝いて、驚いた顔はふわりとやわらかいいつもの笑顔になった。
肩を押さえつけられて動かしにくいだろう腕を持ち上げて、冷えた指先がぎこちなく頬に触れる。

「10代目、好きです。オレも本当は、部下としてじゃなく、誰よりも、あなたのことが好きです」

添えられたままの指先がそろりと頬をなでてくる。
そのやわらかな動きをくすぐったく感じる。
だけど、くすぐったいのはそれだけのせいじゃない。
ちゃんと、伝わった。オレが獄寺君のこと好きだってこと。
そして獄寺君も、オレのことが好きだって。

「沢田さん・・・」

めったに呼ばれない自分の名前にどきりとする。
やわらかくて優しいのに、その声で名前を呼ばれるとなぜか体が動かない。
そろそろ獄寺君の上から退かないと、そう思っているのに体はいうことを聞かなくて、
頬をなでていた指先が動き、大きな手のひらに包まれる。

「おい、話は終わったか?それならここはオレが女の子を連れ込む場所なんだからとっとと出てって欲しいんだが」
「!」

いきなり聞こえてきた声に驚いて後ろを振り返ると、
この場所を区切っていたカーテンが揺れて、細い隙間からだるそうな目に覗かれる。

「ド、Dr.シャマル!」

本当に職員室に行っていたのかどうかは今のセリフで余計に疑わしくなってしまったけれど、
ここの責任者(一応)が戻ってきてしまったらしい。

「さっきは隼人が死にそうだったから置いてやったけど、もう大丈夫ならとっとと出てけ」
「なっ・・・!」

らしいといえばシャマルらしいけど、あまりの言いように咄嗟に言葉が出ない。
それでも言い返そうと口を開いたところで手を置いていた肩の筋肉が動く感触がする。
それに気付いて振り返れば、ゆっくりと獄寺君が体を起こした。
獄寺君の体が起き上がるのと同時にオレの体も起き上がって、
今更ながらに獄寺君を押し倒していたということに恥ずかしさを覚えた。

「言われなくてもすぐに出てく」

押し倒していたときよりも近付く体に慌てているうちに、
立ち上がった獄寺君を見上げる形になる。

「行きましょう、10代目」

ベッドに座ったままのオレに手を差し伸べてくれる。
いつものようにやわらかい笑顔を浮かべ、それがオレに向けられている。
それがとても嬉しかった。

「うん」

差し伸べられた手を取ると、自然と顔に笑みが浮かぶ。
口元を緩ませながら立ち上がり、獄寺君に続いてカーテンの外に出た。
そのときに見えたシャマルのにやけ顔がやけに癪に障ったけど、
よく考えたら男子は問答無用で追い返すシャマルが
獄寺君をここにいさせてくれたことや、席を外していたことは、
シャマルなりに獄寺君を気遣ってのことだったのかもしれない。
振り返ってみるとシャマルはもうオレたちに興味がなくなったのか、椅子に腰掛けて外を眺めている。
さっさと帰れ、という態度の裏には、もう迷惑かけんなよ、っていう優しい気持ちが隠れてる気がした。

保健室の外に出ると、とっくに授業は始まっていて、廊下には誰もいなかった。
オレと獄寺君の足音だけが聞こえて、今度は二人きりで取り残された気分だ。
見上げれば獄寺君の顔があって、オレの視線に気づいた獄寺君が振り返って照れたように笑う。
つられてオレも照れ笑いをした。

「山本にね、獄寺君とオレは自分の考えてること相手に言ってないって言われたよ」

階段に差し掛かって足元を確認しながら話しかける。
中央入り口の真正面にある階段は、開けっ放しのドアから風が吹き付けられてとても寒い。
体を縮ませながらもう一度獄寺君を見上げる。

「山本ですか?」
「うん。自分の中で考えてばっかりだって。
相手の気持ちまで自分で勝手に考えて、だからうまくいかないんだね」
「10代目・・・」

すまなそうに呼びかける獄寺君に首を振ることで答える。

「獄寺君を責めてるわけじゃないよ。オレだって同じなんだから」

獄寺君が好き、どんな風に、なんて説明するのはとても恥ずかしいけれど、
言葉が足りなくて誤解されてしまうなんてとても悲しい。
恥ずかしくても、言いにくいことだとしても、自分の気持ちをちゃんと伝えていけたらいいな。

階段を上るために足元に向けていた視線を獄寺君に向ける。
いつもは綺麗に整えられた髪の毛が少しくしゃくしゃになっている。
その原因を考えてみれば、体温が上がるのを感じた。

「だから、ええと・・・オレの言いたいことは、つまり・・・」

手を握り締めれば、繋いだままの獄寺君の手のひらを強く意識する。
ほどくタイミングをつかめなくてそのままだった手のひらは、
オレの思考をますます使えないものにした。

「ええと、その」
「10代目」

いつもの優しい声が聞こえてくる。
だけどいつもより、体温が上がってしまいそうな不思議な声。
獄寺君を見れば、嬉しそうな、恥ずかしそうな、だけどどこか不安そうな、複雑な顔をしている。

「獄寺君・・・?」

踊り場まで上がると獄寺君の足が止まり、それに続いてオレも足を止める。
少し上の位置にある顔を見上げれば、空いた手で頬をなでられた。

「キス、してもいいですか?」

その言葉に驚いて、だけどすぐに嬉しくなる。
オレが言いたかったこと、言わなくても気づいてくれた。
でも、ちゃんと伝えるって決めたから、
勘違いしちゃったり不安になんてさせないように。

「うん。オレも、キスがしたい」

獄寺君もオレと同じように一度驚いて、そしてすぐに嬉しそうに笑ってくれた。
自分の気持ちを相手に伝えることって大切だ。
そしてお互いの気持ちが一緒なんだって分かるととても嬉しい。
頬に添えられたあったかい手のひらに促されるように目を閉じる。
獄寺君が近づく気配に胸をうるさくさせながら、その優しい唇が降りてくるのを待った。





End





................

冬に書き始めた話なので、季節感丸無視ですみません・・・。
かなり試行錯誤を繰り返してこの形になりましたが、
それでもちょっと練りが足りないかなぁ、と思いつつ、ここらが限界でした。

獄寺視点で書いた方がよかったかなぁとも思ったんですが、
でもツナが怒りながら告白するのなら、ツナ視点の方がいいかな、と。
どちらにしても出来レースで、先の読める展開でお恥ずかしい・・・。
精進します。

コメントレス

【いち│05/11/16 21:35:39】
≫いつもたまきさんの小説楽しく読ませて頂いていますv
いつも読み終わった後に幸せな気持ちに浸っております^^*
自分だけが一方的に十代目のことを慕ってるんだと思い込んでいる獄に、
ツナが怒りつつ告白するお話を書いて頂きたいです・・・!!マニアックですみません; 
お仕事の方も更新の方も無理をなさらないよう
ご自分のペース、やり方で進んでいってくださいね^^応援しています!

リクエストとコメントありがとうございます!

自分だけが一方的に10代目のことを慕ってる、と思うために、
ツナの言葉をその通りに受け取れない獄寺。
それに気づいてツナが怒りつつもう一回告白する、と、
説明が必要な上にちょっとひねくれたリクエストの受け取り方になりました・・・!

なかなか難しくて書き始めるのが遅くなってしまいましたが、
ツナが怒りながら告白というのは新鮮で、楽しく書かせていただきました!
今回の話ではあまり幸せ要素がない感じになってしまいましたが、
少しでもお楽しみいただける部分があるといいなと思います。
仕事等へのお気遣い、それから応援もありがとうございます!
ゆっくりではありますが、これからもお話書いていこうと思います。
ありがとうございました!

(2007.10.19)



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