跡をつけていないということはさっきの謝罪はベッドに押し倒したことに対してだろうか。
何で獄寺君が急にオレをベッドに押し倒したのかは分からないけれど、別にそれで怒ったりはしない。
それよりも知りたいのはあんな風に性急に動きながら、跡をつけてくれないことについてだ。
獄寺君のことだからやっぱり10代目の体に跡を残すなんて、とか考えているんじゃないだろうか。
「ね、何でつけてくれないの?」
抱きしめられて近づいた髪の毛に顔を埋める。
さらさらとした感触を味わいながら獄寺君の声に耳を傾けた。
獄寺君はもぞもぞと身じろぎしながら抱き合ったままの体勢で獄寺君なりに姿勢を正しているらしい。
体の動きが収まったあと、ぽつぽつと話し始めてくれた。
「10代目は戦うときに服を脱ぐじゃないですか」
「うん、」
脱ぐというとなんだかおとなしい響きがするけれど、まぁ間違ってはいない。
「もし跡をつけてたら他のヤツらにも見えるじゃないですか」
「うん」
確かに近づいたら見えるかもしれない。
見られてそれについて何か言われたら恥ずかしいかもしれないけど、
でもあんまり死ぬ気の最中のオレの様子なんてみんな見てないような気もする。
死ぬ気で走り回ったり死ぬ気で泳いでたり、とにかく動き回ってるし。
「・・・10代目が嫌がるかもしれないっていうのもあるんですけど、
オレが見られたくないっていう方が理由としては大きいです」
すみません、とまた謝って獄寺君は黙ってしまった。
獄寺君が見られたくない、その理由が分からなくてもう一度尋ねれば、獄寺君はゆっくりと口を開いてくれた。
「10代目の体に残る跡を見たヤツが、10代目の、そういう、姿を想像したりするのが、嫌で」
ぽつぽつと途切れがちな言葉を拾いながら出来の悪い頭で繋げていく。
「10代目の、そういう姿は、他のヤツらに見せたくないと思ってるんですけど、
それが想像であっても、嫌なんです」
だからつけなかったんだと言われたら、とても簡単に納得がいってしまった。
獄寺君らしいといえば獄寺君らしい。
行為の間のオレを独り占めするために、それを匂わせるようなものは残さない。
相手の肌に跡を残して独占欲を満たすという考え方もあるけれど、
獄寺君はキスマークをつけないという形で独占欲を満たしていたんだ。
それが分かれば今までの一人で考え込んでもやもやとしていた気分は簡単に吹き飛んでしまう。
獄寺君に関してオレはとても単純だ。
「獄寺君、オレ、もう戦うときに服脱がないようになったんだよ」
すでに知っているだろうことを、秘密を打ち明けるように言う。
リボーンとバジル君の特訓で死ぬ気をコントロールできるようになった。
常に100%の死ぬ気じゃないから、服をびりびりに破いてしまうことはもうない。
「そう、ですね・・・」
オレの言葉に少し苦しそうに言葉を返す獄寺君。
その様子にまた笑いそうになって声に笑みが混じるのを堪えた。
背中に回した腕に力を入れる。
「・・・オレにも獄寺君のものだって印つけて」
こっそりと、獄寺君だけに聞こえるように小さく囁く。
部屋の中には他に誰もいないけど、小さな声で言えば、それだけで空気の甘さは増した。
「10代目」
甘くて、それでいて渇いたような声が響く。
獄寺君の体が起き上がって、それと一緒にオレの腕も持ち上がる。
オレを抱きしめていた腕は離れて、代わりに手のひらが肌を撫でた。
指先で肋骨をなぞるようにして上に上がり、胸の中心に手のひらが置かれる。
どくどくと自分でも分かるほど大きく音を立てているから、
手のひらで触れている獄寺君にもしっかり伝わっているんだろう。
そう思うと余計に鼓動は早くなって、獄寺君の顔を見ていられなくなってくる。
オレの体と獄寺君の手のひらの温度が混ざり合ったころ、ゆっくりと手のひらが下に動いた。
獄寺君が体を倒す気配。それから肌にかかる髪の毛。
そしてやわらかく降りてきたのは獄寺君の唇。
ゆっくりと押し付けられて、啄ばまれて、舐められたあと、強く吸われた。
くちゅ、ちゅ、と濡れた音が響き、一番大きな音が聞こえたときにちくりと肌に痛みが走った。
それから唇が離れ、髪の毛の感触がなくなり、痛みを感じたところを指で撫でられる。
「つきました」
撫でられているところが熱を持ったように熱い。
ちょうど心臓の上、どくどくと鼓動が響く。
部屋の壁に向けていた視線を戻して自分の体を見下ろした。
獄寺君の指がなぞっている部分、胸の真ん中に赤い跡がついていた。
それを見たとたんにどくりと心臓が動き、顔に熱が集まってくる。
嬉しいのか恥ずかしいのか分からない。
たぶんその両方がごちゃまぜになった感情に飲み込まれた。
「我慢してたんです、オレ」
獄寺君は相変わらず指先でその赤い跡をなぞっている。
オレの心臓がうるさく動いているのも分かっているんだろう。
「キスマーク、見せたくないって思うのと同時に、10代目の体に印を刻みたい、とも思ってました」
顔を上げれば獄寺君の真剣なまなざしが射抜くようにオレを見ている。
その瞳に鼓動を跳ねさせれば、いちいちオレの動揺を獄寺君に教えているようで居心地が悪い。
ゆっくりと降りてくる唇を受け止めて、緩く開いた隙間から舌を引き出されて絡められる。
触れたときと同じようにゆっくり離れていく唇を見ながら息を整えて口を開く。
「我慢、しなくていいんだよ」
死ぬ気だってコントロールできるようになったんだし、そもそもオレの裸なんて誰も見ない。
胸に落とされた印は、恥ずかしい気持ちもあったけれど、嬉しい気持ちの方が大きいんだ。
獄寺君から与えられるもので嬉しくないものはない。
胸元に落とされた唇からの小さな痛みに、またいくつかの花びらが咲いていくことを知る。
ちくちくと痛みを伴った行為に、それでも苦痛はなくて嬉しさばかりを募らせる。
初めはその痛みを受け入れていた意識も、次第に熱に飲まれていった。
自分の体に残る無数のキスマークを見て
驚いたり嬉しくなったりするのは、もう少しあとの話。
End
................
アダルティを目指したつもりが続きませんでした・・・。
だめだ、やっぱり後半の普通のツナ一人称が書きやすいです。
(初めはアダルティ三人称の予定でした)
(ツナ一人称に直したけど、やっぱり名残がある・・・)
いや、ほら、なんかツナ獄ってアダルティなイメージ。
キスマークは獄寺はつけない派でした。(過去形)
いや、以前まではツナでも気づかない足の付け根にひとつだけ、っていうのが
自分の中での決まりごとだったんですが、
なんか、どっかの話にそういうこと書いてたよな、と確認しようと思ったら、
普通にキスマークついててあまつさえランボさんにつつかれているところを発見して、あれれー?と思いました。
あんなの書いたっけ?ああ、書いた気がする。
まぁそれで。
キスマーク解禁獄寺さんですが、
やたらつけるのは今回だけで、次からはほどほどになると思います。
そりゃあ紳士ぶってるけど獄寺さんは独占欲強いですよ。
今まで溜め込んでたんでしょうね。
なんていうか。
シリアスチックなのはやっぱ向かないなぁ、と。
だって獄寺とツナがくっつけば幸せしかありえませんもの。
お粗末さまでした・・・!
コメントレス
【ゆえ│05/11/20 21:37:32】
≫基本は獄ツナなんだけど、ツナ獄っぽいのが読んでみたいです。
たまきさんの小説大好きです。これからもマイペースにがんばって下さい!
リクエストとコメントありがとうございます!
ツナ獄っぽい、ということで、
ツナが獄寺にキスマークつけてたらそれっぽくなるんじゃないだろうか!
と思いながら書いたお話です。
でも根底は獄ツナで。
大好きと言っていただけてとても嬉しいです!
大変遅くなってしまいましたが、少しでも楽しんでいただけると嬉しいです。
これからものんびり行こうと思います!
ありがとうございました!
(2007.06.16)
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