5月の大型連休中のある日、みんなの都合がいい日にあわせて予定を立てた。
少し遠くの公園までピクニックに行きましょう。
立案者はもちろん母さん。
特に誰からも反対の声は出ず、むしろ大賛成の声。
立派な遊園地じゃなくても、みんながいればどこだって楽しい。
行き先は最近できたばかりだという自然公園。
みんなが乗れる大きな車を父さんが借りてきてくれた。

家から車で40分くらいで着いたその場所は、緑の豊かな公園だった。
公園の中にはとても長い滑り台や子どもが登りたくなるような大きなオブジェ、
半分地面に埋まったタイヤが何個も並べられていて、その脇には鉄棒があった。
この公園の目玉となる滑り台の回りにいくつかの遊具が並べられている他は、
とても広い空間が広がっている。
家の近くの小さな公園がすっぽり5つは入るだろうスペースは、
綺麗な芝生が地面の端から端までをやわらかく覆っていた。

桜の花は散ってしまったけれど、腰を下ろしたところには名前も知らない小さな花が咲いていて、
少し向こうにはチューリップが花の色ごとにきちんと整列して咲き誇っていた。
緑に囲まれ、花に囲まれ、その中で弁当を広げて食べるのも、なかなか健康的だ。
何組もの団体が自由に敷物を広げていてもまだ広々と空いているスペースに、
到着したばかりのオレたちも敷物を広げて荷物を置いた。

時間はちょうど12時で、先に弁当を食べてから遊ぶことになった。
母さんを中心に京子ちゃんとハルが手伝って作ってくれた弁当の中身は、どれもおいしそうで。
ひとつだけ変な煙を出している弁当箱には誰もが手をつけるのをためらった。

「私が作ったのよ、食べてちょうだい」

そう言われなくても誰が作ったかなんていうのは分かりきったことで。
ビアンキがずずいと押し付けてくる料理を、誰もが遠慮した。
そのときばかりはひやりと嫌な汗をかいてしまったが、
晴れ渡った青空の下で時間は楽しく進んでいった。

弁当を食べ終わるとすぐにランボとイーピンは喜んで遊具に向かって走っていき、
京子ちゃんとハルはチビたちを追って歩いていく。
母さんはみんなが食べ終わったものを分別して、捨てるものをひとまとめにしていた。
ビアンキとリボーンはベンチに座ってなにやらお熱い感じで、
山本とお兄さんと父さんとバジルくんは円になってバドミントンをしている。
オレと獄寺君はといえば、バドミントンのラケットが4つしかないので、敷物に座ってゆったりとくつろいでいた。

「あら、困ったわ」

後ろで母さんの声がした。
振り返ってみると、弁当を片付け終わった母さんは水筒の中を覗きながら首をかしげている。

「どうかしましたか?」

それに気付いて獄寺君が声をかけると、母さんは顔を上げてため息混じりに言う。

「飲み物をたくさん持ってきたつもりなんだけど、もうほとんどなくなっちゃって・・・」

確かに今日は絶好のピクニック日和というくらいに太陽が照っていて、
オレもいつも以上にお茶を飲んでいたような気がする。
京子ちゃんとハルも水筒を持ってきているけれど、小さめのそれは、すぐになくなってしまうだろう。
ビアンキもなにやら飲み物を作ってきたらしいけれど、あれは飲み物のうちには入らないので、
実質の「飲めるもの」は残りが少ない。

「みんな体を動かして遊んでいるから、後でのどが渇くと思うのよね・・・これだけじゃたぶん足りないわ」

水筒を持ったまましょんぼりしてしまった母さんに、獄寺君が慌てて声をかける。

「この公園に来るまでに、コンビニがありましたよ!オレ、今から買ってきます!」

すくっと立ち上がり、今にも駆け出して行きそうな勢いだ。

「本当に?助かるわ〜〜」

母さんがのんきに言葉を返すと、恐縮ですと言いながら気をつけをする。
それをちらりと横目で見ながら、母さんに向かって手を出した。
母さんたちと一緒だから、お金も財布も何も持ってきていない。

「あら、ツっくんも行ってくれるの?」

にこにこ笑いながらかばんから財布を取り出して、お札を数枚渡される。

「ツナは本当に獄寺君が好きなのねぇ」
「うるさいよ」

余計なことを言う母さんにすぱっと言葉を切り返して立ち上がる。
獄寺君はびっくりした様子でオレの方を見ている。

「獄寺君、早く行こう」

今の自分の顔はあまり人に見せられたものじゃないので、
そう口早に言うと、顔の熱が治まるまで早足で獄寺君の前を歩き続けた。



******



公園の出口に近づいて、そこからの道が分からないこともあって、
オレは歩く速度を緩めて獄寺君の横に並ぶ。
母さんが変なことを言うからまだ少し居心地が悪かったけど仕方ない。

「確かこの道沿いにコンビニがひとつありました」

公園を出るとそれなりに大きな道路が左右に伸びていて、
獄寺君はその道の左方向を指差した。
歩道も二人で並んで歩けるくらいの幅があったので、
そのまま獄寺君の指差す方へと体を向けて歩き始めた。

「車で5分くらいの距離だったので、しばらく歩くとは思いますが」

車で5分って歩いて何分だろう?
確かにちょっとだけしんどそうだけど、
オレとしては帰って母さんやチビたちの面倒を見るより、
遊びと称して父さんとリボーンにしごかれるより、
獄寺君と二人でただ歩いてるだけの方が楽しい。
獄寺君に変に気を使わせるのが嫌で、
近くで触れ合いそうになっていた手をぎゅっと握り締めた。
家から遠く離れた場所で、見慣れない、知り合いのいない土地だってこともオレを後押しした。

「10代目・・・」

びっくりしたように力が入る獄寺君の手に、手が解けないように注意する。

「ピクニックからハイキングになったと思えばいいんじゃない?」

見上げる位置にある獄寺君の顔を見ながら言ってみる。
オレの顔は太陽の熱さだけじゃない熱のせいで火照っているだろう。
さっきの気恥ずかしさを上回る恥ずかしさに耐えながら、獄寺君の反応をうかがう。
獄寺君の頭の中の高速回転コンピュータは
ほんの少しの時間を使ってオレの言葉を処理すると、にこりと微笑んだ。

「そうですね」

つないだ手を握り返されて、これで手が解ける心配はないなと安心する。
今はこんな感じにちゃんと伝わったけど、
たまに獄寺君のコンピュータは暴走を始めて、
他の人の意志を全く無視して自分の都合のいいように解釈することがあるから気を抜けない。
性能が良すぎるのも困りものだと思う。
そりゃオレみたいに悪すぎるよりはマシだろうけど。


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