「・・・・・」
目を開けると、そこは見慣れない部屋だった。
広いベッドの感触も慣れないものだったし、身につけているものもなんだかよく分からない。
タオルみたいなごわごわした生地・・・これは・・・バスローブ?
体には酷い疲労感があって・・・そこでやっと自分が眠る前のことを思い出した。
眠る、なんて安らかなものではなく、それこそ気絶したっていう激しいものだけど。
「・・・獄寺君?」
弱々しいかすれた声で獄寺君を呼ぶ。
部屋の中には居ないようだけど、呼べばすぐに来てくれると思った。
ぱたぱたとスリッパの音が近づいてくる。
音のする方へ目を向ければ、獄寺君の姿が見えた。
「10代目・・・」
獄寺君の手にはオレと獄寺君の服が抱えられている。
乾いた服を取りに行っていたんだろう。
オレの寝ているベッドに近づき、その上のオレの体がないところに服を置く。
それからオレの脇に手をついて、ベッドがぎしりと音を立てる。
獄寺君は腕で体を支えながら上体を下げると、頬に小さくキスをくれる。
「すみません、10代目。目が覚めたときにそばに居なくて」
申し訳なさそうに呟く獄寺君に笑みを浮かべる。
別にそんなこと気にしなくていいのに、王子様気質というか、少女趣味というか。
オレが笑ったことにまた不安そうになる獄寺君にもう一度微笑みかけて言う。
「大丈夫だよ、名前を呼んだらすぐに来てくれたから」
重たい腕をゆっくり上げて、獄寺君の髪をさらりと撫でる。
水を含んだしっとりした感触ではなく、もういつものようにさらさらに乾いていた。
「あ、それより・・・今、何時?」
「ええと・・・5時40分、ですね」
この部屋のどこに時計があるか分からなくて尋ねると、
獄寺君はベッドサイドにあるらしい時計を見て答える。
5時40分・・・って、
「うわ、どうしよう!?みんなオレたちが帰ってこないから探してるんじゃない!!?」
そうだ、オレと獄寺君はみんなのジュースとお菓子の買出しに出てきたんであって、
二人で遊んでたわけでも、そういう目的でここに来たわけでも、決してない。
(だけど雰囲気に呑まれて今の今まで忘れてたのも事実だ。情けないことに)
体がだるいのも吹き飛んでしまい、慌てて起き上がる。
獄寺君はおろおろするオレとは対照的に、のんびりと微笑んだ。
「大丈夫ですよ、10代目。先に帰ってもらうようにお父様に連絡しましたから」
「へ?」
まったく予想していなかった人物が浮かび上がり、間の抜けた声を出してしまう。
お父様、って・・・うちの父さんのことだよな?
・・・なんとなく嫌な予感がして浮かんだ疑問を口にした。
「ちなみにそれは、いつ?」
「もちろん、10代目がシャワーを使ってるときです。
10代目のお父様とお母様を心配させてはいけませんからね」
にこにこ笑顔で言われるけど、うさんくさい。
獄寺君からそんな連絡が入ったら、余計変な心配されるよ・・・。
そう思って、だけどすぐに思い直した。
母さんは獄寺君のことをすごく気に入ってるから、問題ない。
父さんに関しては、オレと獄寺君のことからかって楽しむのが好きだから、まったく問題にならない。
「・・・・・」
家に帰ってからのことを考えると頭が痛い。
父さんはそれこそオヤジのようになんだかんだとからかってくるのが目に見えてるし、
ついでにリボーンからもねちねちといびられるはずだ。
・・・これって、オレ、ものすごい不幸なんじゃないか?
「・・・10代目?」
沈み込んだオレの顔を覗いて、不安そうに声をかける。
獄寺君お得意の、オレより高い位置からの上目遣いを見て、ふ、と肩の力が抜ける。
・・・不幸ではない、かな。
「なんでもないよ」
おろおろと落ち着かない獄寺君に笑いかけて安心させる。
途端にほっとしてやわらかく笑う獄寺君を見ると、優しい気持ちになれる。
うん、幸せだな。
さっき浮かんだ自分の言葉を打ち消すように思う。
獄寺君の笑顔ひとつで幸せになれるって、オレってすごい単純だ。
すごい単純で、とても幸せだ。
「でも・・・これからどうしようか?」
改めて自分たちの状況を考えると、父さんに連絡を入れているとはいえ、
いつまでもベッドに沈んでいる場合ではないかもしれない。
レースのカーテンが引かれた窓の外を見ると、降り続いていた雨は上がっていた。
たぶんここからバスを乗り継げば家に帰れるはずだけど。
「泊まっていきます?無理させちゃったみたいですし・・・」
「ほんとだよもう」
飛び起きたのはいいけど、実のところ、体がだるくて仕方ない。
とはいえ獄寺君ばかりのせいとも言い切れない。
この部屋の変な空気に当てられて、自分も十分おかしくなってたことは否定できない。
「でも、泊まるのはナシ」
あくまでここには雨宿りのために寄ったんだから。
雨も止んで、服が乾いたこの状況で、オレたちがここにいる必要がない。
「服着て帰ろうか」
獄寺君に摘んで渡されると困るので、先に自分でパンツを摘む。
それだけじゃああからさまだから、自分の分を全部いっぺんに引き寄せた。
「手伝いましょうか?」
「いや、一人でできるよ」
ほんの少し、体の色んなところが痛むけど。
手を借りるほどでもないし、そういうことを意識があるときにしてもらうのは恥ずかしい。
そう考えて、ふと、体がさっぱりしてることに気付いた。
よくは覚えてないけど、行為が終わったとき、たぶん汗とか精液とかで体中がべたべただったはずだ。
「ありがとう」
そのことについてわざわざお礼を言うのは恥ずかしいけど、
手を貸そうとしてくれたことへのお礼に混ぜて言えば気が楽だ。
いいえ、と言って微笑んだ獄寺君はもうひとつのお礼にも気付いてる?
これと同じように、オレは獄寺君の全ての好意に気付いていないかもしれない。
オレが思っている以上に獄寺君に想われてるとしたら、それはとても幸せだ。
「ね、獄寺君。オレ・・・」
獄寺君のバスローブの裾を引っ張って、
降りてきた耳元にそっと囁く。
君のことが好きだよ。
獄寺君にしか聞こえないようにこっそりと。
少しだけ驚いた顔をすぐにやわらかくとろけさせると、
同じように獄寺君も囁いてくれる。
オレのことが好きだって。
嬉しくてくすぐったくて、顔を見合わせて笑い合った。
雨の上がった並木道を、また手をつないで歩こう。
たぶん君が重い方の袋を持ってくれて、
オレも軽い方の袋を持って。
かさばる荷物を二人で分けて、
空いた手をつないで並んで歩いたら、
それはとても幸せなこと。
End
................
お疲れ様でした・・・!
書くごとに長くなるという特徴のあるたまきの文章です。
(感想とか見たらすごいよく分かります。初期の短さが逆にすごい)
このお話、5月に書き始めたものです。
ゴールデンウィークに更新できたらなぁ・・・とか思ったのですが今はもう夏休みです。遅。
(途中数ヶ月ほったらかしにしてたせいもありますが)
個人的にPOTATOチップス春塩味が好きなので、季節をそのままに強引に突き進みました。
(関西だしじょうゆも大好きです。私の中でコンソメと同率一位です)(必要のない情報)
最初の舞台になった自然公園、
うちの近くにできたでかい公園をモデルにしてます。
ほんとは18階建てのどでかいマンションが出来る予定で工事してたのに、
周りの住民の反対のせいで工事は中止、公園になりました。
ほんとにものすごい広くて綺麗ですごいです。
(よじ登りたくなるようなオブジェは残念ながらありませんが)
マンション作るよりよほどいい仕事をしました。
(いや、建築関係の皆さんには申し訳ないですが、
あの場所にそんなでかいものができると、中学校が陰になって日当たり悪くなるんですよ・・・)
(計算してぎりぎり陰にならないところなのかもしれないけど・・・)
これに出てくるホテルも、微妙にモデルがあったりします。
私が実際に雨の降る中、山の中で見つけたホテルなんですが。
色合いは、壁がピンクで屋根が水色だったような。
「こんなとこにあんの!?」ってびびりました。
利用者いないんじゃない?
こんな風に急に雨でも降らない限り・・・ピーン!獄ツナでヤろう!
そういうノリで。
この時私は同僚の運転する車に乗ってたんですが、
対向車が走ってきたときに巻き上げた水溜りの水が、
乗ってた車の天井の上まで跳ね上がって、
フロントガラスが泥水で視界ゼロになりました。
それもお話に組み込んでます。
すごいですね。危険ですね。
あとツナがいつも以上にどろどろなのは、シチュエーションの変化だと思われます。
思わず獄寺の首筋に噛み付きましたが、たぶん噛み跡ができてます。
消えるまで、獄寺はご機嫌なんでしょうね。目に浮かびます。
あとがきまで長くなってしまって申し訳ないです。
ここまで読んでくださってありがとうございました!
コメントレス
【園田│05/11/21 16:31:07】
≫で、できればえろが・・・!(すいません)orz
リクエストありがとうございます!
いつかやりたかったローターネタ、
やるとしたら雨降り→雨宿り→ラブホテルの流れしかない・・・!
とは思いつつもそれをどのネタに組み込めばいいのやら迷っていたのですが、
潔くえろリクエストをいただきましたので、えろ一点張りで突き進みました。
大変お待たせしてしまいましたが、少しでも楽しんでいただけたらなと思います。
(2007.02.08)
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