2人で一緒に寝室を出て、オレだけキッチンに向かう。
スペースの中で一番奥にある冷蔵庫からシュークリームの入った箱を取り出した。
リボーンさんがオレが頼んだとおり廊下で待ってくれてるのを確認してから、
ふたに貼られたシールをゆっくりとはがし、こっそりと箱を開け、
2つ入っているいちごタルトのうち1つを取り出した。
元通りふたを閉めて、シールも綺麗に張り直し、
買ってきた時に入っていた袋に入れなおしてリボーンさんの待つ廊下へと向かう。
リボーンさんはさっき立っていた所ではなく玄関に移動していた。
相変わらず動きがつかめない最強のヒットマンに感嘆しつつ、慌てて駆け寄る。
しゃがんでリボーンさんの目線に合わせ、袋を手渡した。
「すみませんリボーンさん、お待たせしました」
リボーンさんは受け取った袋の中をちらりと見て口元に笑みを敷いた。
「お前はツナを甘やかしすぎだ」
その言葉には苦笑するしかない。
自分にしては元通りにしたつもりだったけど、一度箱を開けたのが分かってしまったんだろう。
怒らずに、むしろどこかおもしろがっている風なリボーンさんに内心ほっとしつつ、
すみません、と小さく謝った。
たぶん今回のことに限らず、常のことも言ってるんだろうけど。
「まぁいい。邪魔したな」
自分の体と同じくらいの箱を提げ、ステッキに変化したレオンでドアノブを引き、片手でドアを押し開ける。
言葉と一緒にこちらへよこした目線はとても赤ん坊のものとは思えず、まさに戦い慣れた男のものだった。
リボーンさんの体が部屋の外へ出て、ゆっくりとドアが閉まる。
「あ―――やっぱリボーンさんかっこいいな・・・」
もうそこにはいない人をドアに浮かべてぼそりとつぶやいた。
それからひざに手を置いて、ゆっくりと立ち上がる。
もう一度寝室に向かいドアを開けると、ベッドの上にうずくまる10代目が見えた。
「リボーンさんは帰りましたよ。ココア入れますからリビングへどうぞ」
「・・・ありがとう、獄寺君」
オレを見上げて礼を言う10代目に微笑みかけて、手を差し伸べた。
重ねられた手をゆっくりと引いて、10代目をベッドから立たせる。
はにかんだ笑顔を向けてもう一度礼を言う10代目の唇にたまらなくなって、ゆっくりと自分の唇を押し付けた。
「10代目、いちごタルト食べますか?」
リビングへ向かう廊下で隣にいる10代目に問いかける。
「え?」
「腹減ってるんだったら用意しますけど」
オレの問いかけに「あるの?」と尋ね返す10代目。
もう一度にっこり笑って「ええ」と頷く。
「もしかして腹減ってたんじゃないですか?」
「うん、今日母さんが町内会の集まりの日でね、なかなか帰ってこなくて」
腹が減って冷蔵庫を覗いてみるとシュークリームがあったので、一時しのぎに食べたそうだ。
それがリボーンさんの大切に残しておいたシュークリームで、ここまで追いかけられたということだった。
「それは災難でしたね」
苦笑しながらリビングのドアを開き、10代目を中へ促す。
10代目の後に続いて入り、リビングに隣接したキッチンへ移動した。
ポットに入った湯で手早くココアを用意して、
箱から取り出して皿に置いておいたタルトと一緒にリビングへ運ぶ。
ひざを丸めてソファに沈む10代目の前にそれらを置いた。
「ありがとう、獄寺君!」
「どうぞ、召し上がってください」
いただきます、と元気よく言う10代目を向かい側のソファに座りながら眺める。
普段は10代目がデザートを食べている時はオレもコーヒーを飲むのだけど、
リボーンさんの殺気に当てられたせいでとてもじゃないが飲食する気分にならない。
対する10代目はあの甘ったるいいちごタルトをぱくぱくおいしそうに食べている。
「10代目、よく食べられますね」
腹が減ってるのは分かるけど、
オレはいちごの甘酸っぱい香りとココアの甘ったるい湯気だけで胸焼けがしそうだ。
オレの言葉に10代目は顔を上げて、不思議そうな表情を見せる。
「オレ、リボーンさんの殺気に当てられて今何も食えませんよ」
「殺気?」
10代目の顔はきょとんとした表情に変わり、
タルトを切るフォークの動きも止まってしまった。
「さっき10代目を狙ってたじゃないですか。寝室で」
「あーーー、確かにリボーンちょっと怒ってたけど。いつもはもっと怖いよ」
「あれでちょっとなんですか・・・!!?」
「あそこまでしつこいのは珍しいけど。リボーンが一番怖いのは寝てるときだな。
近づいただけで半殺しにされるもん。無意識だからめちゃくちゃ怖いよ」
がっくりとうなだれながら10代目の声を聞いた。
10代目は普段からリボーンさんの殺意の中にいて、慣れてるんだ・・・。
タルトを食べ終わり、ココアを冷ましにかかった10代目を見て、
自分の未熟さと10代目の強さを再確認した。
End
................
Topページの投票で3位を獲得しました、「リボーンVS獄寺」でした。
これに投票して下さった方なら、お持ち帰りフリーです。
獄寺がツナのことかっこよく守ってるところを書きたかった。
最初はもっとぐだぐだ戦いを続けてたんですけど、
収拾つかなくなったのでギャグに逃げました。(笑)
ショータミ、ほんとは「ー」じゃなくて「ウ」。「ミ」じゃなくて「ニ」。(笑)
うちの近くのショータニさんは、シロアリ退治会社の前にあります。
あのリアルなアリの絵の前に甘いにおいが漂ってます。合わない。
ほんとは獄寺のことだからシュークリーム+タルトの5個をそのままリボーンに渡すと思うんだけど、
リボーンさんと取引したのは4個だし、もうリボーンさんの機嫌直ってるから10代目の分、と。
ケチなわけじゃないです。断じて。
だって実家お城だもの。
(2005.02.13)
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