獄寺君の誕生日から2週間が過ぎた日曜日、
オレが朝ごはんを食べていたキッチンには、
珍しくオレと母さんの2人しかいなかった。

「そういえば、来月はツナの誕生日ねぇ」

去年は母さんでさえオレの誕生日を忘れていて、すごく寂しい思いをした。
それを悪く思っているのか、月に一度はオレの誕生日について話を振ってくる。
ツナの誕生日まであと2ヶ月ね、だとか、ツナの誕生日には母さんケーキを手作りしちゃう、だとか。
いつだったかケーキの作り方の本を買ってきて、
オレのいない時に練習をして、ビアンキやチビたちに試食をしてもらっていたみたいだ。
誕生日の王道、イチゴのケーキはまだ食べたことはないけれど、
その本に載ってる、イチゴのケーキ以外のものは、家で開かれる勉強会のときに出してくれたことがある。
チーズケーキにシフォンケーキ、チョコレートケーキやロールケーキ・・・
最近ではそれに色々な材料を入れたりして、母さんオリジナルのケーキがたくさん出来上がっている。
山本は甘いものも好きらしく、母さんの作ったケーキをおいしそうに食べていた。
一方獄寺君は甘いものが苦手なようで、でも母さんが作ったものだからと言って、
ゆっくりではあるけれど、きちんと全部口の中に収めていた。
それを知った母さんはその次から甘さをひかえたケーキを作り始め、
獄寺君でもおいしそうに食べることができている。

『さすがは10代目のお母様、お料理の腕も素晴らしいです!』

素直に母さんに賛辞を贈る獄寺君を、母さんはますます気に入ったようだ。

「そういえば獄寺君の誕生日はいつなのかしら?よかったらうちでお祝いしたいんだけど」
「9月9日だよ」
「9月9日って・・・・・もう過ぎちゃってるじゃないの!」
「うん」

母さんは本気で獄寺君の誕生日を祝いたかったらしく、それはもう、あからさまに悲しみ始めた。
せっかく上達した手作りケーキでお祝いしたかったのに、とか
みんなでお祝いしたらすごく楽しいのに、とか
何でツナ、教えてくれなかったの、とか。
キッチンのテーブルに肘を突いて、オレへのあからさまなため息。
何で教えてくれなかったのって言われても、聞かれてないんだから仕方ない。
そんなことを考えながら、それでも賢明に口には出さなかった。

「ツナと獄寺君の誕生日は、だいたい1ヶ月違いなのね」

まだまだ頭の中であれこれ考えていたらしい母さんは、
そんなことをぽつりと口にした。
オレはそれに特に返事もせず、もぐもぐと口を動かしている。
しばらくそのまま視線をあちこちに動かしたあと、
母さんはいたずらが思いついた少女のようににっこりと顔をほころばせた。

「母さん、いいこと思いついちゃった」
「・・・何が」

どうしてだろう。
人間っていうやつは、にっこり笑えば笑うほど、何かたくらんでいるように見えて仕方がない。
目の前でにこにこ笑う母さんも例外に漏れず、何となく、嫌な予感がする。
だけど放っておくこともできず、とりあえず、母さんが話しやすいように相槌を打ってみた。

「カレンダー、見てみて」

言われたとおり、キッチンの壁に貼ってあるカレンダーに視線を移す。

「獄寺君の誕生日が9月9日でしょ?」
「うん」
「で、ツナの誕生日が10月14日」
「うん」
「数えてみたらね、ちょうど明日とあさってが、ツナと獄寺君の真ん中バースデーなの!」
「・・・真ん中バースデー・・・?」
「ツナと獄寺君の誕生日の、ちょうど真ん中の日のことよ!」

聞きなれない言葉にクエスチョンマークを浮かべると、説明をしてくれた。
へぇ、と小さく感心して、そんなこと考えたこともなかったな、と思う。

「だからね、明日、獄寺君を呼んで、二人の誕生日を祝っちゃいましょうよ!」

どうしても獄寺君の誕生日を祝いたいらしい母さんは、やけに張り切っている。
それはもう、オレが否を唱えても無駄なくらいに。
まぁ別に、オレとしてもこれといって反論することもないんだけどさ。
これだけ嬉しそうに言われると、協力したいとも思うし。

「じゃあ後で獄寺君に電話してみるよ。明日用事ないかどうか」
「そうしてくれる?母さんはみんなに送るパーティの招待状を作るわね」

やけに浮かれた母さんの頭の中では、本格的なパーティになっているようで。
招待状ってそんな、小さな子どもじゃないんだから・・・とは思いつつも、
母さんの好きなようにやらせてあげようと思って特に口を挟まなかった。



ごはんを食べ終えてから、電話をかけに廊下へ向かう。
今ではもう覚えてしまった獄寺君の携帯電話の番号をぽちぽちと押した。
プルルルル、プルルルル、呼び出し音が数回続き、
その後に慌てたような獄寺君の声が聞こえる。
電話が鳴るのに気付いて、画面にオレの名前が出て、
それを見て慌てて通話ボタンを押したんだろう。
その様子が実際に見ているくらいに鮮明に思い浮かべられる。

「はい、獄寺です!」
「もしもし、沢田ですけど」
「10代目、何か事件でも!?」

マフィア的発想にも慣れたもので、
獄寺君の妙な迫力にも物怖じしなくなってきた。

「いや、事件じゃなくてね、何だろ、お誘い、かな」
「さ、さそ、誘い・・・!?」
「明日なんだけど、学校終わってから時間あるかな?」
「もちろんです!オレの時間は全て10代目のために空けてあります!」
「あぁそう、何か母さんが獄寺君とオレの誕生日を祝いたいとか言って、
 明日パーティをすることになったんだけど、学校終わってからうち来てくれる?」
「・・・へ?誕生日の、お祝い・・・」

何だかひどく期待のこもった声と、拍子抜けした声。
ものすごく分かりやすい反応で、少しだけ笑みが漏れる。
ほんの些細な空気の振動も逃さずに、獄寺君はむくれた声を出した。

「10代目、今笑ったでしょう」
「え?聞こえちゃった?」

くくく、と余計に大きくなった笑い声に、獄寺君はいっそうむくれる。

「聞こえるに決まってますよ!
 ・・・10代目がオレにくれる言葉は、ひとつ残らず全部覚えておこうって、耳を澄ませてるんですからね」

オレの笑いはぴたりと止んで、次の瞬間にはかーっと顔に血が上ってきた。
獄寺君の行き過ぎた言葉は大分流せるようになってきたけど、
こんな風にオレでも理解できるようなことを、それも静かな声で言われてしまうと、
耳の中から直接頭の中を撫でれたように、ぞくぞくと背筋から頭にかけて、快感が駆け抜けていく。
顔の熱を外に出そうとぶんぶんと頭を振って、何とか話を戻そうとする。

「それで、明日だけど」
「はい、さっき言った通り、大丈夫ですよ。・・・でも何で明日なんですか?」

どちらの誕生日でもない日だから、獄寺君も疑問を持ったみたいだ。
当然持つだろうその疑問に、説明をする。

「何かね、明日とあさってはオレと獄寺君の誕生日の真ん中の日なんだって。
 真ん中バースデー、とか言うらしいよ。母さんが言ってたんだけどさ」
「・・・!素晴らしい日ですね、オレ、運命を感じます!」
「・・・そう?」
「はい!」

人間が二人いれば、当然、真ん中バースデーってのは存在すると思うんだけど。
獄寺君はそんなことには気付かずに、
自分とオレの誕生日の真ん中の日が存在するってことで感動しているらしい。
賢いくせに変なところで頭が回らない。
まぁ、そんなところもかわいいとは思うけど。
受話器の向こうでは嬉しそうに顔を緩めているんだろう。
その様子を想像して、オレも顔をほころばせた。

「じゃあ明日、学校が終わったらオレんちに来てね。
 獄寺君とオレの誕生日パーティだから、何も持ってこなくていいから」
「はい、分かりました」

また明日学校で、と言い残して、受話器を置いた。
もしかしたら今日の昼にも、会うかもしれないけど。





>>9月26日





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うーん、最初は27日まで書いたものをひとつのものとしてアップしようと思ってたんですが、
日付をタイトル(?)にしてるんだから、
日にちにそって分けてみよう、と思いまして。
26・27日はもう少しお待ちください。

・・・これは本当、その日にアップしてなんぼだよなぁ。

とは思いつつ、一応がんばってみます。
ほんとしょんもりするよなぁ。

(2005.10.15)


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