部屋の飾りつけも料理も、オレと獄寺君を驚かすために、
出来上がるまでオレたちは外に追い出されていた。
仲間はずれにされているみたいだけど、結局はオレたちのためだし。
去年のようにぬか喜びには終わらない。
本当にオレのためにしてくれてるのだと思うと、
出来上がるのを待って外でぶらぶらしている時間も、すごく楽しく思えた。

獄寺君の携帯に母さんから準備ができたとの電話が入り、
ぶらぶらと時間を潰していた公園を出る。
傾いた太陽を頭の上に感じながら、獄寺君と一緒にオレの家に向かう。
特に何を話すでもなく、それでも横をちらちらと気にして、
そして目が合ったらクスリと笑いあって。
どこかくすぐったいような感覚に包まれながら、
決して遠くはない道のりを、一歩一歩踏みしめて歩いた。



折り紙を細く切って輪っかにして繋げたものが部屋を鮮やかに飾り、
それを柱やカーテンに止めてある部分は、これまた折り紙で折られた花が華々しく咲いている。
色とりどりの花や飾りに、部屋の中が一層明るくなった。
部屋の飾りつけはランボとイーピンがしてくれたらしい。
よく見ると、綺麗に切られた折り紙と、ぐにゃぐにゃに切られた折り紙、
綺麗に折られた花と、ひん曲がった花があって、どれを誰が作ったのかは一目瞭然だ。
見た目のあまり良くないものもいくつか混じっていたけれど、
部屋に入ったとき、ランボのほっぺたに折り紙の切れ端が引っ付いていて、
ランボはランボなりにがんばってくれたんだなと思うととても嬉しくなった。

料理担当は母さんとハルと、一応、ビアンキ。
リボーンはビアンキが料理を作らないように、極力ビアンキの気を引いてくれていたらしい。
ああ見えて弟思いのビアンキは、それでも少し、料理を作ったようだ。
煙が立っているのは、なるべく口にしないように気をつけなければならない。
お昼頃から色々と作り始めていた母さんとビアンキに、
学校が終わったハルが手伝いに加わったみたいだ。

テーブルの真ん中には母さんの自信作のイチゴのケーキ。
それが何段も重ねられて、ちょっとしたウェディングケーキみたいになってた。
そのケーキを囲むように、たくさんの料理が所狭しと並べられた。
ローストビーフにエビチリ、スパゲッティにピザにサンドイッチにコーンスープ・・・
それに山本の持って来てくれた鯛の尾頭付きの刺身が加わって、
テーブルの上は無国籍状態になっていた。
料理がすべてテーブルの上に並んだ後、
主賓席に座るオレと獄寺君は、みんなからお祝いの言葉をもらった。
母さんの乾杯の音頭を合図に、それぞれ手にしたグラスをコツンと当てる。
もちろん中身はジュースのはずなんだけど、
リボーンとビアンキのだけは、何やら疑わしい色と発酵具合をしている。

近くにあるミートスパゲッティを取ろうとしたら、
オレが取ります、と持っていた皿を獄寺君に取られてしまった。
馴れた手つきでスパゲッティを取り、ソースを上に乗せるのも様になっている。
どうぞ、と置かれた皿を見て感心する。
大皿から取り分けたのではなく、はじめからこの皿に盛られてたみたいに綺麗だ。

「ありがとう、獄寺君」
「どういたしまして」

自分よりも少し上にある獄寺君の顔に微笑みかけて、礼を言う。
微笑み返されて胸の中がほわんと暖かくなる。
そうしているうちに獄寺君は自分の皿を取って、
同じようにスパゲッティを取り分けた。
獄寺君のはオレが取ってあげようと思ったのに、こういうところは紳士的でそつがない。

「すごいね、獄寺君。スパゲッティすごくきれい」

美術の課題や山本の家でバイトをした時のことがイメージとして残ってるから、
獄寺君って手先はあんまり器用じゃないんじゃ・・・と思っていたんだけど、
意外とこういうことは器用にこなす。

「ありがとうございます。パスタを取るのは慣れてるんで」

確かに去年まではイタリアで暮らしてたみたいだし、
家がお城だからマナーとかすごかったんだろうな。
小さい頃はピアノもやってたみたいだし、手先が器用だと言われてもうなずける。
(美術と家事は、例外なんだろうと思っておくことにする)
にこ、とはにかんだ笑顔を向けられて、
それまでつらつらと考えていたことも吹き飛んでしまう。
オレは獄寺君のその顔に弱いんだってば。
赤くなっていく顔を自覚して、獄寺君に向けていた顔をパスタに向け直す。
10代目?と呼びかける獄寺君の声も聞こえないふりをした。


................


文章目次
戻る