スパゲッティを食べた後はピザやサンドイッチ、他のものも一通り食べた。
もちろんその全部を獄寺君が取ってくれたわけだけど。
みんなの箸も止まることなく動き、皿の底が見えてきた。
中身のなくなった皿を母さんが片付け、早くケーキを食べさせろ、とランボが騒ぐ。
そんなランボに母さんはにっこりと笑って、
新しい皿と切り分けるナイフを台所から持ってきた。
もしかしたら今日のメインイベントかもしれない、ケーキの入刀が始まった。
ハルとイーピンは女の子だからっていう理由で、
ランボは特に理由もなく食べたいからという真っ向勝負で、
切ってもらうケーキの大きさを、大きく切ってくれと母さんにねだってる。
「ランボさんは上に乗っかってるチョコレートが欲しいぞ!」
「〜〜〜〜!」
「ハルはツナさんをかたどったクッキーが欲しいですーv」
要求は大きさだけでなくオプションにまで及び、
母さんはそれらの願いをにこにこ笑いながら聞き入れて、器用にケーキを切り分けていった。
ハルが言ったオレのクッキーという言葉に、
獄寺君がぴくりと反応したのは気付かなかったことにして。
「男の子はどうしましょう?やっぱり大きい方がいいかしら?」
ハルたちの要求を聞き終えると、今度はオレや獄寺君、山本に聞く。
上の段は言われたとおりに切ったので、少しいびつな形になっていた。
「オレは普通の大きさでいいです」
「オレもです。10代目はどうですか?」
「うん、オレも普通でいいよ」
さすがに女の子みたいにケーキは別腹というわけにもいかず、
子どもっぽく大きいのが欲しい!という年頃でもない。
ケーキ屋さんでカットされているような大きさに切り分けてもらって、皿を受け取る。
飾りも欲しいものがあったら言ってね、と言われるが、それは母さんに任せた。
オレと山本の前にはイチゴが3つ乗っかったやつが、
獄寺君の前にはイチゴの他に、獄寺君の形をしたクッキーが乗ったケーキが来た。
獄寺君はそのクッキーをじっと見つめて、
それから申し訳なさそうにケーキの上から皿の上に移動させた。
自分の形のクッキーなんて食べにくいんだろうか?
・・・あ、違う。
昔のトラウマで、クッキーが食べれないんだ。
そう思ったら自然と言葉が出てきた。
「ね、獄寺君。獄寺君のクッキーとオレのイチゴ、交換してもいい?」
「・・・?もちろん、構いませんけど」
皿ごと交換しながら獄寺君が呟く。
「10代目、イチゴよりクッキーの方が好きなんですか?」
別にどっちも同じくらい好きだけど、
そう言うとどうして、って聞かれそうだから。
「獄寺君のクッキーが食べたいなぁと思って」
そうにっこり笑って言うと、たちまち獄寺君の顔は赤く染まった。
オレに気を使わせた、と変に気を揉まれるよりも、そうやって照れてる方がずっといい。
それに、言ったこともあながち嘘じゃないし。
最後の楽しみに取っておくよ、と小さく囁くと、
整った眉毛は情けないくらいに下がってしまう。
獄寺君は10代目、と言った後は言葉が続かず、正面を向いて顔を伏せた。
見えなくなってしまった顔は、余計に赤くなっているんだろう。
髪の隙間からちらりと覗いた耳が赤くなっているから、予想は当たっているはず。
「ママン、リボーンはおなかがいっぱいみたいだから、小さめに切ってもらえる?」
「分かったわ。ビアンキちゃんはどう?」
「私はいらないわ。味見したからおいしいのは分かってるし」
「そう?じゃあこれ、リボーンちゃんの分ね」
母さんからリボーンのケーキが乗った皿を受け取る時に、
ビアンキが隣に居たランボの皿を少し動かした。
その途端、皿の上のケーキは、ブショァアア・・・と嫌な音と煙を出して変色していく。
綺麗な白い生クリームが、みるみるうちに紫色へと変わっていく。
もちろんリボーンのケーキもビアンキが受け取った瞬間に同じ運命と辿った。
全員の手元にケーキが配られた後、みんなでそろって食べ始めたんだけど。
紫色のクリームは勢いよく煙を出し続け、
それに何の疑問も持たずにケーキを口に運んだランボは、
ケーキを口に入れた瞬間に叫び声を上げてばたりと床に倒れ込んだ。
「ぐぴゃああああ!!」
「はひー、ランボちゃん、どうしたんですか?」
「腹がいっぱいになって眠っちまったんじゃないか?」
「はい、リボーン。あーん」
周りにいるやつらは、全く動じていない。
オレと獄寺君だけがランボの口から出ている泡の意味を知って、震えている。
「オレも満腹になったから横になるぞ」
ビアンキがリボーンの口に運ぼうとしていたケーキもまた、
ランボのケーキと同じように変色していて、煙の次は虫まで発生している。
それを見たリボーンはそれを口にすることなく狸寝入りを始めた。
「残念だわ。私もママを手伝って一緒にケーキを作ったのに」
(ビアンキも手伝ったの・・・!?)
獄寺君の肩とリボーンの鼻ちょうちんがぴくりと震えたのを見れば、
そう思ったのはオレだけじゃないことは確かだ。
「スポンジ、すげーふわふわだ」
「それにツナさんのクッキーもさくさくですーvv」
ビアンキの一連の動作にぞっとするオレと獄寺君をよそに、
山本とハルはランボを気にしつつもケーキを平らげた。
口に入れても倒れないってことは、あの部分はビアンキの手に染まっていないんだろう。
見た目が普通ってことは、このケーキも大丈夫だろうか・・・?
恐る恐るケーキを観察しているうちに、母さんもイーピンも食べ終わったようだ。
子どもたちは満腹で(それからポイズンクッキングのせいで)床に寝転がり、
ビアンキは転がったリボーンの頭を膝に乗せてくつろいでいる。
山本は家の手伝いがあるからとかで帰り支度を始め、
ハルとイーピンは母さんにケーキの作り方を聞いて盛り上がり、
一応この会の主役であるオレと獄寺君はまだケーキに口をつけ(られ)ずに座っていた。
「ツっくんと獄寺君、ゆっくり食べなさいね」
そうこうするうちに母さんとハルとイーピンは後片付けをし始めた。
空になった食器を移動させながらオレたちに言う。
みんな近くにいるはずなのに、何故だかぽつんと置いてきぼりの状態。
真ん中バースデーなんてお飾りで、何だかものすごく、ダシに使われたような気がしてきた。
まぁ、何か見つけてはお祭り騒ぎをしたがるのはいつものことだし。
一応はじめのうちはちゃんとオレたちのこと祝ってくれてて、
そのうちにだんだんと脱線してきたって感じだしな。
いい意味でいつも通りお気楽な仲間を眺めて小さく息を吐き出すと、
獄寺君がこっそりとオレの耳に囁いてきた。
「10代目のお部屋で食べませんか」
鼓膜を振るわせる声にびくりとする。
確かにもう食べてる人がいなくて何だか落ち着かないけど、
でもわざわざ部屋を移動するって方が余計に落ち着かない。
それに自分の部屋に行くって、みんなから離れて二人きりになるためかもとか、
近くにいるのにこっそりと耳打ちする仕草とかが、
獄寺君には特に意図するところがなかったとしても、
オレにとっては秘密めいたもののように思えてどきどきした。
もちろんそれは、嫌などきどきじゃなくて。
うん、と小さく頷いて、母さんに言う。
「ケーキ、上で食べてくるよ」
そう?と深くは考えない母さんが顔を上げて答える。
皿を運びやすいようにとお盆を出してくれた。
母さんの後を付いて行って、それを受け取ってテーブルまで戻ると、
獄寺君はオレの手からお盆を取って皿を乗せていく。
「行きましょうか」
そう言った獄寺君は、もちろん手にお盆を持っていて。
ありがとう、と言ってから立ち上り、リビングを後にした。
>>9月27日
................
(2005.12.13)
前
文章目次
戻る