「昨日いい茶葉を手に入れたんで、アイスティー作ってみたんです。作り置きので申し訳ないんですけど、それをお出ししてもいいですか?」
自宅に戻り狭い廊下を歩きながら10代目に話しかければ、うんと笑顔で頷いてくれる。
「アイスティー、自分で作ったの?すごいねぇ。大変だったんじゃない?」
「いえ、オレの手にかかれば簡単なもんですよ!」
10代目の洞察力は素晴らしい。
やっとカップやソーサーを飛ばさずに自分でも満足できる紅茶を入れられるようになってきたが、
新しいアイスティーという領域は、同じ紅茶のくせに相当な苦戦を強いられた。
うまくできあがったのは数えるのも億劫になるくらい失敗を繰り返したあと。
10代目にたくさん飲んでいただこうとうまいと評判の茶葉をたらふく買い込んだのに、
お出しできるのはたったの容器一本分。
しかし、できあがりがどれだけ少なかろうが、
水を吸い込んだ茶葉の屍がどれだけ流しの隅に山を作っていようが、
容器一本はうまくできたことに変わりない。
自信作を10代目に振る舞えることにわくわくした。
「10代目、ミルクティーにして飲みますか?」
「・・・んー、今日はシロップだけでいいや。せっかく獄寺君ががんばって作ってくれたから、そのままで味わってみたいし」
「・・・10代目・・・!」
甘いものがお好きな10代目は紅茶にも砂糖とミルクを入れて飲むのを好まれる。
シロップのみというのは珍しく、その理由がオレががんばって淹れたものを
しっかり味わうためだと言われれば、嬉しくならずにいられない。
ご自分の言葉でオレがどんなに胸を高鳴らせているのか気にもせず、
10代目は持ってきていた荷物をごそごそといじっている。
そんな男らしいところも大好きだ。
「そうだ、家出るときにね、リボーンがなんかくれたんだ。獄寺君に渡して使ってもらえって。中見てないけど、なんかいっぱい入ってるみたい」
「ありがとうございます。お茶の道具かなんかっスかね?」
「んー、そうかな、分かんない。変なのだったらリボーンの言うことなんか無視して捨てちゃっていいよ」
「えええ・・・そんな、できませんよ・・・」
情けない声を出すオレに10代目は小さく声を立てて笑う。
また笑われてしまった。
笑われてしまうのは不本意だけど、やはり10代目の笑顔はとても魅力的だ。
不満なんてどこかに消えて、一緒に笑った。
「じゃあ、10代目。オレお茶用意していきます。リビングの方でくつろいでいてください」
「うん、ありがとう」
キッチンの前で10代目と別れて中に入る。
冷やしている紅茶を冷蔵庫から取り出す前にリボーンさんからいただいたものを確認しようと、
10代目から渡された袋を台の上に上げて中身を覗き見た。
そこに入っていたのは
>媚薬
>そういう道具
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