「よぉ、ツナ、隼人」
後ろにたくさんの部下を従えたディーノさんが軽く手を挙げて声をかけてくる。
「ディーノさん!お久しぶりです」
ディーノさんはイタリアの大きなマフィアのボスだ。
平凡なオレとはまったく接点がないような人のはずが、
兄弟子という関係でとてもよくしてもらっている。
その関係は受け入れてしまうにはいろいろと複雑なものがあるけれど。
いつも日本には遊びにきたと言うが
本当はオレの知らないところで仕事をしているらしいとリボーンから聞いていた。
「いいもん食ってんな。日本の夏なめてたぜ、こいつらのスーツめちゃくちゃ暑苦しい」
こいつら、というのは後ろにいる部下の人たちだ。
ボスひでー、と口々に笑いながら、その額には皆汗をかいている。
半そでのTシャツ一枚でも暑いのに、かっちりとスーツを着込んで
何十人も集まっていると、その熱気は相当なものだ。
「しかも湿度高けーんだよな。エンツィオがもうこんなだ」
言われて肩に乗っているエンツィオをよく見てみると、
確かに普段の体の二回りは大きくなっているようだ。
なんとなく違和感があると思っていたのはこれだったんだ、・・・って。
「ええっ、それってやばいんじゃないですか!?」
「ああ、今恭弥と話した帰りなんだけど、並中からここまででこんだけ膨らんだんだ。応接室はクーラー効いてたからいったん元のサイズに戻ったんだけどな。ジョシツだっけ?日本のクーラーってすげーよな」
並中からここまで、たぶん10分もかからないと思うんだけど・・・。
ある意味天然、よく言えばおおらかな性格のディーノさんはからからと晴れやかな笑顔を見せる。
どうかエンツィオがこれ以上大きくなりませんように、ディーノさんの手に負えないくらい大きくなりませんように。
オレは最近見放されがちな神様に祈った。
「ま、用事も済んだし、ツナの元気な顔も見れたし、そろそろイタリアに戻るから大丈夫なんだけどな」
「大変ですね」
忙しい仕事ももちろんだけど、
水を吸って大きくなる(だけじゃなくて凶暴にもなる)ペットを飼ってることも。
本人はとても楽しそうだから、オレが心配することでもないんだろうけど。
ぽんぽんと頭を撫でられ笑顔を向けられる。
疲れを見せずにキラキラの笑顔を浮かべられるのは、さすがイタリア人(男)、と
身近にいる人の笑顔を頭に描きながらぼんやり思った。
「ほんとツナは素直でいいな。リボーンがうらやましいぜ。恭弥もあとほんのちょっとでいいから素直になってくれればいいのになぁ」
その言葉にディーノさんが弟子であるヒバリさんにとても苦労していることが窺えた。
並中生として風紀委員長の強さと横暴っぷりを知っているから余計に親身になって理解できた。
はぁ、とため息をついたディーノさんはもう一度ぽんぽんとオレの頭を撫でてから、
そうだ、と声を出して後ろを振り返り、ロマーリオさんからなにかを受け取った。
「いい子なツナに、これやるよ」
そう言ってディーノさんが差し出したのは、
>媚薬
>犬耳としっぽ
................
文章目次
戻る