差し出されたものを確認して、一瞬なにか分からなかったものの
理解すると同時に悲鳴を上げた。

「ななななに考えてんですかディーノさん!!!」

叫んだと同時に手に持っていたアイスがべしゃりと道路に落ちてしまった。

「あー、もったいねーなー」

落ちたアイスを見てつぶやくディーノさんに
オレは残った棒を握りしめてわなわなと震えた。
差し出されたディーノさんの手に乗っていたのは
なにやら怪しげな色をした液体の入った小瓶に、
犬耳のついたカチューシャとしっぽのついたベルトだった。
やるよ、と言われても、いらない。
断ろうと顔を上げるとやけにキラキラとしたまぶしい笑顔にぶつかった。

「たまにはさ、こういうもんも使ってベッドん中での主従を逆転させてみんのも楽しいんじゃねー?」
「〜〜〜っ!!!」

これだからイタリア人(男)ってヤツは!!!
エロいことやセクハラ発言ばかりする身近なイタリア人(男)(赤ん坊含む)たちを心の中で思うさま罵った。

「ま、あいつの場合、こんなのつけなくてもツナの前じゃまんま犬だしな」

ディーノさんの言葉に犬と表された人物へちらりと目を向ければ
オレの中の代表的イタリア人(男)な獄寺君は一歩下がって待機している。
ただの世間話なんだけど、ボス同士の会話だからと
周りに対して気を張っているのがよく分かる。
目が合うとなにをしたわけでもなくただそれだけで、獄寺君を取り巻く空気ががらりと変わる。
硬質なものからやわらかいものへ。
目に見えないしっぽが元気よく振られているようだ。
・・・しっぽ。

「な?」

短く声がかけられる。
ディーノさんにも同じ幻覚が見えたようだ。
ご丁寧に獄寺君の髪とおそろいの色の犬耳としっぽ。
だからって、こんなのつけさせられないよ。
想像の中で耳としっぽをつけた獄寺君が浮かんでとてもしっくりきてしまったけれど、だめだ。
いりません、って押し返せばディーノさんは残念そうに、けれど少し楽しそうに笑っている。

「似合うと思ったんだけどなー」

似合う似合わないじゃなくて、つけるつけられない、んだけど。

「まぁこれは半分冗談として」
「半分!?」
「しばらく日本に来れそうにねーから。ツナたちの元気な顔見ときたかったんだ」
「ディーノさん・・・」

それまでのいたずらっぽい笑みをひそめて、大人の、ボスの顔つきになる。
たくさんの部下をまとめるボスでありながら、オレやチビたちにも優しく接してくれる。
そんなところがディーノさんのかっこいいところで、あこがれる部分だった。

「じゃーな、ツナ。リボーンにしごかれてもへこたれんなよ」
「はい、ディーノさんもお仕事がんばってください」

わしゃわしゃと髪の毛をかき混ぜられて、その手で「またな」と手を振られる。
それに同じように手を振り返してディーノさんたちと別れた。
ちょうど近くにあったゴミ箱にアイスの棒を捨てて獄寺君を振り返ると、
オレと同じように棒からアイスをすべり落として地面を見つめてじっとしている。
そのどんよりとした空気に一瞬びくりとひるんでしまった。
そして小さくため息をつく。
その様子はアイスを惜しんでいる子どものようにも見えたけれど、
たぶん違うことを考えているんだろう。
獄寺君はたぶん、


 >嫉妬してる
 >拗ねてる


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