5時間目は担任の授業なので、10代目と担任が並んで教室に入ってきた。
黒板を見て担任が「ちゃんと消してるじゃないか」と10代目を誉めているのに、素直に喜べない。
10代目が席に着くと、隣の奴が10代目に声をかける。
日誌を見せて言葉を交わしているところを見ると、何で担任と一緒に入ってきたのかを聞かれているんだろう。

誰かが10代目を見るのも、10代目が誰かを見るのも、オレをイライラさせる。
そのくせ10代目が後ろを振り返ってオレに「ありがとう」と口の動きで伝えて笑ってくれるのを見ると、
胸につかえていたものがスッと降りる。
10代目の目に映ることができると、
それまでは離れた距離を歯がゆく思っていたのに、
離れたところから10代目に危害が及ばないように見張っていられるこの席は、なかなか良いかもしれないと思えた。

担任の説明も耳を通り抜けて、無意味な音にしかならない。
黒板に書かれた文字にも興味を引かれることはなく、10代目を眺める。
たとえば10代目とオレ以外の人間がいなければ、
10代目に近づく奴も、傷つける奴もいなくて、
10代目の目に映るのはオレしかいなくて。
そう思うとすぐにでもダイナマイトを投げたくなるが、ダイナマイトの乱投も10代目から止められている。
それに、10代目がそんなことを望んでいないことくらいは分かっている。

これは、オレのエゴだ。

10代目の目に映るのも、10代目の心を占めるのも、それが全部、オレだったらいいのに。
オレの目に映るもの、オレの心を占めるもの、それが全部、10代目であるのと同じように。

10代目をオレしか知らないところへ閉じ込めてしまいたい。
それができないのならば、周りの人間を消してしまいたい。

その目にオレしか映らないように。
オレのことしか考えられないように。
他のものが入り込まないように。

あの人の目に映るのは自分だけでありたい。
自分が中心に映っていても、他の誰かも映っているのでは意味がない。

ただ、オレだけを見ていて欲しくて。

消化できない想いが胸の中で渦巻いている。
オレが考えていることを知ったら、10代目はどんな顔をするだろう。
ダイナマイトを取り出した時のようなおびえた顔だろうか。
もしかしたら拒絶されるかもしれない。
そんなことになったら、自分がどんな行動を取るのか想像できない。
10代目が自分から離れてしまうくらいなら、激情に流されて10代目を壊してしまうかもしれない。
10代目と過ごすうちに育った感情が今にも爆発してしまいそうだ。
気持ちを落ち着けるようにひとつ深く呼吸をして、窓の外を見た。
さっき見つけた飛行機雲は、風にあおられてぼやけた線になっていた。



放課後、靴箱の前で10代目が来るのを待つ。
10代目は日番の最後の仕事として、職員室まで日誌を届に行っている。
目の前を部活に急ぐ男子生徒や大きな声でしゃべっている女子生徒が通り抜ける。
その様子をただ見ているのも手持ち無沙汰で、
ポケットに両手を突っ込んでタバコとダイナマイトを触って気を紛らわしていた。

少しして、ぱたぱた、と聞き慣れた軽い足音がする。
ポケットに入れていた手を出して足の横にぴたりとつける。
姿が見えたところで声をかけた。

「10代目!」
「あ、獄寺君。お待たせ」
「もう終わりましたか?」
「うん。帰ろう」

10代目が靴を履き替えるのを待って、二人で並んで昇降口を出た。

ぱたぱたと、10代目の足音を聞きながら歩く。
並んで話すのは今日の出来事やテレビの話。
他愛ない話をしながらも、ゆっくりと、それでも確実に、10代目のお宅に近づく。
少しでもこの時間が続けばいいのにと、歩く速度を少し遅くすると、
10代目もそれに合わせてゆっくり歩いてくれた。



「じゃあ、また明日」

10代目のお宅に着いて。
ここでさようならと言ってしまうと、
明日の朝までオレが10代目の中から消えてしまう。

「・・・10代目」
「何?」
「キス、してもいいですか?」
「え、こ、ここで・・・?」

少しでも、消えないようにと。
そう思ってあがいてしまうのは、いけないことだろうか。

「すぐ済みますから。・・・目、閉じてもらえます?」
「う、うん・・・」

オレが近づくと、10代目の目はオレでいっぱいになる。
その目がゆっくりと閉じられて、
今、10代目の中にはオレしかいないんだということに喜びを感じる。
軽く唇を触れ合わせて、顔を離して抱きしめた。

「獄寺君・・・」

しばらくして、腕の中で10代目がもぞもぞと動く。
十分に10代目の感触を確かめてからゆっくり体を離すと、
オレでいっぱいだった10代目の目に、雲ひとつない青空が広がっていく。

「また、明日。お迎えに上がりますね」
「うん。待ってる」

挨拶を交わして10代目のお宅を後にした。
また明日、その次の日も。
10代目の視界をオレでいっぱいにして、オレだけの世界を作る。
10代目を閉じ込めてしまえば、完全にオレだけのものにできるのに。
そうできないのはたぶん、10代目の目に映った青空がとてもきれいだから。
10代目の目が曇らないように、守ることに喜びを感じてしまったから。

今日も明日も、その次の日も。
10代目をオレだけのにせものの世界に閉じ込める。






End





...............................................................................................

カウンタ5000番を踏んでくださったふみかさまへの献上物ですv
リク内容は「実は独占欲が強い獄寺」。

素敵リクエスト+設定をありがとうございました!
の、割に、あんまり生かしきれてない気もしなくもない。。。

どろどろ獄寺。
私に独占欲を書かせるとこんな感じになります。
暗い暗い。執念深い。それでいて後味すっきり。(謎)
どうにか苦心してまとめてみたんですが、がんばりすぎてちょっと一貫性がないかも。。。

この期に及んで山本を出すべきか出さずに通すべきか迷ったのですが、出してみました。
口調はかなり手探り状態ですが。
それより何よりやっぱり山本が報われない。(汗)
嫌いな訳じゃないんですよ。むしろ大好きですよ。一番できた奴だと思います。
でも私獄寺が好きなものですからこんな風になっちゃうんです。どうしても。
というより・・・慣れてなさすぎて、すっごい悪役な感じだなぁ。。。
山本はもっと天然なお母さん役だと思うんだけどなぁ。。。がくり。

5000Hit、ありがとうございました!

(2004.10.02)



文章目次
戻る