それにしても。
さっきまであんなに優しい顔して瓜に炎をあげてたのに。
一人と一匹のドライな関係にオレの気持ちはぷすぷすと焼ける。
ずるい。
直火で焼きあがったのは子どもらしいやきもちだ。
あんな顔、今までオレにしか見せたことなかったのに。
オレ以外には怒った顔か、そうじゃなかったら興味がないって無表情。
人によって潔いほどに態度を変える獄寺君に、それ自体はあんまりほめられることではないけれど、
少なくともオレは、少しだけ、安心していたことがあるんだ。
獄寺君が人に見せる表情は一種類だけ。
なのになんで瓜には、優しい顔も、怒った顔も見せてるの?

「……10代目?」

急に黙り込んだオレに、獄寺君が話しかける。
心配そうな顔をして、オレの様子をうかがっている。
瓜にはあんな優しい顔を見せて、その上ほったらかしなんて。
オレのことは一から百くらいまで全部世話してくれるくせに、なんだか不公平じゃないか?
その不公平なところに安心して寄っかかっていたくせに、いまさらむっとするなんて、オレだってずるい。
でもこればっかりは、獄寺君のことに関しては、ずるくたって譲れない。

じ、と表情を硬くしたまま獄寺君を見上げる。
やっと視線を合わせたオレに、獄寺君は目に見えるようにはっきりと喜んで、
そのあとすぐにオロオロとした。
そんな姿に簡単にほだされてしまいそうになる。

「あの……オレ、何かまずいこと言いましたか…?」

でも、ほだされてやらない。

「べつに」
「じゅ、じゅうだいめぇ……」

まるで親に叱られた子どもみたいにしょんぼりとした顔と声。
獄寺君はオレの気持ちや言葉、そしてなによりオレ自身をとても大切にしてくれる。
それはすごく嬉しくて、獄寺君の大好きなところのひとつなんだけど、
それと同時に困るところでもあった。
獄寺君が「オレのため」と思ったことは、なにがあっても譲らない。
恐いリボーンや、オレ自身がなにを言っても、だ。
獄寺君は常にオレのことを考え、オレのために動く。
獄寺君はオレのためになんでもしてくれる。
だけどそれって、オレがなんにもできないからだよね。

「…べつに、」

もう一度、獄寺君を見据える。
きれいな灰緑の目がじっとオレの言葉を待っている。

「獄寺君は瓜のこと、オレなんかよりずっと信頼してるんだなぁ、って思っただけだよ」
「えええっ!!?そんな、ありえねーっスよ!」

澄んだ瞳を真ん丸にして、獄寺君は大きな声をあげた。

「瓜なんて匣兵器のくせにてんで役に立たねぇし。オレは10代目のことを誰よりも、何よりも、信頼しています!」
「だってさ、瓜はほったらかしじゃん。それって瓜のこと信頼してるから、放っておくんだろ?オレは信用ないから世話してくれるんだろ。危なっかしくて信用ないからついてきてくれるんだろ」

今まで頭の片隅で考えていたことをついに言った。
言ったあとになって心臓が大きく音を立て始めた。
どくん、どくん、飲み込みにくい息を、まだあったかいココアと一緒に飲み干した。
まるで一方的にケンカを仕掛けるような口ぶりで、
でもそうでもしないと言えないくらい、獄寺君に守られてるオレは弱っちい。
さすがに獄寺君も怒るかもしれない。いや、泣かれるかも。
黙ったままの獄寺君と部屋の空気に息苦しくなりながら、
ぐっと力を入れて獄寺君の顔を見上げれば、
それまでの叱られた子どものような顔とはまるで違う、
強いまなざしでもってオレを見ていた。

「違います。10代目」

オレは獄寺君のこの目に弱い。
獄寺君の体内をめぐる赤い炎のように強い瞳。
オレの心をまるで嵐のように乱す強いまなざし。
瞳の奥に吸い込まれてしまいそうな、その視線に射抜かれてしまいそうな、
どちらともいえない不思議な感覚に抗うように、床についた手を握りしめる。

「10代目にオレの世話なんて必要ないのも、10代目がオレの助けがいらないくらい強いのも、ちゃんと理解してます。でも、10代目のことは、オレが守りたいんです。ただのオレのわがままです。…瓜なんか、ほっといても自分でなんとかしてきますよ。信頼とかそんないいもんじゃありません」
「オレだって、獄寺君にそんな風に信じてほしいんだよ」

本当は、その目を見ただけでオレの負けは決まってしまっていた。
獄寺君はオレに嘘をつかない。
それにこの目が、この声が、その言葉が偽りのない本心だってことを教えてくれる。
ただひたすらまっすぐに、心の奥まで明け渡してくれる。
だけどそれを黙って受け入れることができないくらいには、オレは子どもで、わがままだった。

ほとんど負けを意識しながらそれでもわがままを突き通して言えば、
少しだけ体温の低い獄寺君の手のひらが、そっとほっぺたに触れる。
大きな手のひら。オレのちっぽけなわがままも覆いつくされてしまう。
こんなときの獄寺君は自分の意見を譲らない。
オレを一番に大切にしてくれているのに、だからこそ。

「オレは10代目の強さもお心も、信頼しています。分かった上で、あなたをオレの手で守りたいんです」

ほっぺたに触れたままだった指が動き、肌を撫でる。
かさついた指がくすぐったくて、目を細めた。

「いつか苦しい局面を10代目お一人に任せなければいけないときが来ると思います。でも今はまだ、オレが傍にいることを許してください」

獄寺君のわがままがオレのわがままを飲み込んでしまう。
子どもじみたわがままさえ許してくれない強いまなざしに、
オレはやっぱり悔しさを覚えながら、心のどこかで喜んでしまう自分も見つけた。





End





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ツナのちっぽけなわがままを覆いつくしてしまう獄寺のわがままにツナが完敗する話でした。
獄寺ってツナのためツナのためって言いながら結局それって自分のわがままだよね、
みたいなところがあると思います。
でも未来編でツナが囮になるとき、獄寺も苦渋の決断でツナを見送りましたよね。
ツナのことが心配で心配でたまらないけど、ツナを信じてるから見送ることができるんだよね。
原作さすがだなーと思います。
ほんと理想の獄ツナは原作にあり。ごちそうさまです。
それでもまだ伝わりきれてない、分からず屋のツナさんに、
あなたの想いを分からせてあげてください。たっぷり、ベッドで。

(2009.02.01 公開)
(2009.02.11 収納)

(2009.02.01 ツナ受けオンリー『召しませ☆秘密の花園〜イケメンヘヴン〜』にて無料配布)



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