「おっせーな、どこ行ってたんだよ」
「わりーわりー、英語の辞書、隣のクラスのヤツに返しに行ってたんだ」
手にした弁当箱を机に置くと、その拍子に10代目がくしゅんと小さくくしゃみをした。
「ん?どーしたツナ、寒いのか?」
「んん、なんだろ、休み時間になってから急に寒くなった」
「人の出入りがありますからね・・・10代目、オレのブレザー羽織りますか?」
「え、いいよ、獄寺君が寒いじゃん」
ブレザーを脱ぐべく、ボタンを外しにかかったところで10代目に即答で拒否される。
10代目の肩に自分のブレザーを羽織らせるという理想の右腕像を想像していたところにこの言葉。
ちょっと寂しくて、ボタンに手をかけたまま10代目を見つめれば、
相変わらず両手を振って「いらない」と意思表示をしている。
「でも、ありがとね」
がっかりしているオレに微笑んでくださる10代目に感激した。
その言葉にオレの右腕としての配慮が認めていただけたことが分かる。
それだけで表情はゆるんで諦め悪くボタンをいじっていた指先も素直にそこから離れた。
「それじゃ、くっついて食べるか!」
「・・・ああ?」
10代目とオレの世界にずかずかと踏み入ってくる無遠慮な声。
すっかり存在を忘れていた山本が、10代目の隣の席から持ってきたイスを、
10代目のイスの横にぴたりとくっつけた。
そしてイスに座り、10代目の体にぎゅう、と自分の体を押し付けた。
「テメー!なにやってんだ!」
「え、ちょ・・・山本・・・?」
「な、ツナ。くっついてる方があったかいだろ?」
「え?そりゃ、まぁ、あったかいけど、さぁ・・・」
いけしゃあしゃあと言ってのけるアホ山本にオレはがたんと音を立てて席を立った。
「ご、獄寺君・・・?」
不揃いに並んだ机の間をイスを引きずって10代目の隣へ移動すれば、がたんがたんと音が鳴る。
恐る恐る、という風にオレを見上げる10代目と、
その後ろでへらへら笑っている能天気な顔を見れば、イライラは募った。
10代目が寒い思いをしているのなら、それを暖めるのは右腕であるこのオレの役目だ。
「オレも、10代目とくっつきます!」
「はぁあああ?」
「おー、獄寺もくっつけくっつけ」
「何言ってんの、山本!?」
10代目が山本を振り返っている隙に、イスをぴたりとくっつける。
「失礼します」と一言断りを入れてイスに座れば、すぐに10代目と体が触れ合った。
「わっ、獄寺君・・・!」
山本に負けないように、オレの体温が10代目に伝わるように、ぎゅう、と体を寄せる。
すり、と小さく衣擦れの音がする。
腕には服を隔てて自分のものより一回り細い10代目の腕の感触。
細いのに、骨の感触ばかりじゃなくて、やわらかい感触が腕に伝わる。
ひくりとのどが張り付いて、変な風に空気が漏れた。
その間にも擦り付けた袖からは10代目の体温がじわりと伝わってきて、服の間で自分の体温と混じり合う。
10代目の体温、自分のものじゃない熱を感じて、体が急激に熱を上げていくのが分かる。
あつい。
「獄寺って、ほんとツナが好きなのなー」
「なっ・・・!」
何言ってやがる、という言葉がのどに張り付いて声にならない。
山本をにらみつけるように見れば、その間で10代目が小さくなってうつむいている。
「あの、さ、獄寺君・・・あんまりくっついてると、オレ、弁当食べられないよ・・・山本も」
ちらりと見上げてくる目元は赤く色づき、拗ねたように尖らせた唇も赤く、オレの視線を惹きつけた。
「あはは、そうだな。ちょっとは離れねーとな」
山本の能天気な声につられて10代目から視線をはがす。
動きがぎこちなくなるのは止められず、やや無理やりな感じに10代目から体を引き離した。
「・・・すみません」
「んーん」
自分の声がかすれ過ぎていることにみっともなく思ったけれど、
10代目から声が返されて、すぐにくすぐったい気持ちになった。
「それじゃ、弁当食うか!」
お前を待ってて遅くなったんだよ、と心の中で悪態をつきながら、
10代目が弁当箱に手を伸ばすのを確認してからオレもコンビニの袋を引き寄せる。
結局そのまま三人で横に並んだままの妙な状態で昼メシを食べることになった。
少し距離は置いたものの、腕を動かすタイミングが合えば触れ合える距離。
ちらりと横目で10代目の様子を伺えば、卵焼きを口に運んでいるところだった。
開かれた唇、頭に浮かぶのは先ほど見た10代目の赤い舌。
ちりちりと焼け焦げるような衝動がのど元をせり上がる。
視線を10代目から目の前のビニール袋に移し、噛み砕いたサンドイッチを飲み込んだ。
ごくり、大きくのどが鳴る。
サンドイッチと一緒に飲み込んだものの正体が何か、オレには分からず、
もやもやとした気分のまま続けてサンドイッチを噛み砕いたけれど、味がまったくしなかった。
End
................
Yさんからいただいた、とあるリクエスト第二段。
「等身大の彼らのちょっとしたほのぼのらぶーなお話」ということで、
「相互片思い」「憧れと好きが区別できてない獄寺」「周囲もなんとなく分かってる」あたりを軸に、
「中学生日記」の言葉のとおり、中学生の日常の中の獄ツナ、を書いてみました。
普段書いてるのより獄寺が初期?原作寄り?
雰囲気は違うけど、これはこれで好きかも、というのが書けました。
途中まで青かったのに最後でどろっとするのは仕方ないというか諦めの境地。
そんなこんなでお待たせしてしまいましたが、少しでもお楽しみいただけたらと思います!
(2007.12.14)
前
文章目次
戻る