※本誌のネタバレあります。
 標的190あたり、指輪編・獄寺の戦いについて。
 コミックス派の方はなるべく原作を読んでからお読みください。
 獄寺ファンには原作でしっかり感動してから読んでいただきたい。
 ネタバレ読んで感動半減なんておもしろくない。



準備がよろしい方はスクロールでお進みください。
















SISTEMA C.A.I.
未来のオレが考案したというそれは、どうやら複数の匣を組み合わせて力を発揮するものらしい。
しかし16コの匣があるのに嵐のリングで開けることができたのはたったの4コ。
炎の大きさの問題かと、出来うる限り炎を最大限まで出してみたり、
そうでもなければ最小限にとどめてみたり、
金庫のダイヤルを回すように、徐々に炎の大きさを変えてみたりしてみるものの、
匣はうんともすんとも反応しない。
開いた匣は匣で中の兵器も作動しない。
糸口の見つからない修行に頭を抱えていたところで活路が見えた。
瓜が遊んで壊したと思った匣兵器にはリングが隠されていて、
そのリングに炎を点してみるとその炎は嵐の炎ではなく雨の炎だった。
口を開かない匣に手当たり次第雨の炎を注入していけば、いくつか開くものがあった。

嵐の炎に雨の炎をまとわせると、敵の炎を弱めて貫くことができる。
晴の炎で出力が増してスピードの変速が可能。
雲の炎は炎の増殖、雷の炎は攻撃の強化。
同じ匣、同じ炎の組み合わせでも、開く順番を変えることでその効果は変わっていく。
何通りもの組み合わせを試し、いくつかの有効な手段を見つけることができた。
あとはこれを実践でうまく使いこなすための修行が必要だ。
明日からはまたストームルームでサソリを相手に特訓しよう。
やり方によってはアネキの言うとおり1分以内に20匹のサソリを全滅させることくらいわけないだろう。
炎の硬度を増して攻撃するか、それともサソリを弱体化させてみるか、
炎を増殖させて一度に総攻撃を加えるか・・・。
久しぶりに好転した事態に興奮していて眠れない。
あれやこれやと考えながら寝返りを打つと、かさりと安っぽいシーツの音がした。
指につけたままのリングに小さく炎を点して眺めてみる。
赤い炎、その次に青い炎、黄色の炎、緑の炎、紫の炎。
ゆらゆらと揺れる5色の炎。
すぐに消して拳を握る。
体の中の興奮を抑えるように、はぁ、とひとつ息を吐き出す。
もう一度ごそりと音を立てながら寝返りを打てば、布団に冷たい空気が入り込んでぶるりと震えた。
やけに体が熱くなっているようだ。

「・・・獄寺君、起きてる?」

上のベッドから10代目の声が聞こえてきた。
なかなか眠れないオレとは違ってもうお休みになっていると思っていたから少し驚く。
もしかしてオレの気配で起こしてしまったのだろうか。

「はい。・・・すみません、起こしてしまいましたか」
「ううん。まだオレも寝てなかった。・・・あの猫は?匣に戻っちゃった?」

瓜のことを聞かれて少し焦る。
匣兵器のくせに仔猫と大して変わらないただの生き物。
少ない食い物をいっちょ前にほしがって、肝心の攻撃は爪で引っかくだけのもの。
役に立たないのなら匣に戻せばいいものの、なぜかほだされてしまって炎を与え続けてしまっているのは
認めてしまうには恥ずかしすぎる行為だ。
自分でもまだ捉えきれていない匣兵器について10代目にも満足な説明ができず、
うるさく自分勝手な仔猫に不愉快な思いをさせてしまっているのかもしれない。
そんな風に考えながら、恐縮しつつ、尋ねられたことに答えた。

「ヒバリんとこ行ってるみたいです。あいつ、オレには懐かないくせになんであんな奴ばっかり・・・」

思わず恨みがましい言葉が出てしまった。
瓜の行動には飼い主・・・持ち主?として、反省しているはずなのに、
ついつい口をついて出るのはそんないっぱしの飼い主バカのような言葉だ。

「ふうん」

さらりとシーツの擦れる音。
10代目が体を動かしたのが気配で分かった。

「獄寺君とこ、行ってもいい?」
「・・・え?」

夜の静かな空気にまぎれてひそやかな声が聞こえてきた。
驚いたのか聞き返したのか、自分でも区別がつかない声に返ってくるのは衣擦れの音。
それからきしりとベッドのきしむ音がして、ぎしり、はしごがベッドに擦れる音が続いた。
視線の先の暗闇に眩しい白いかかとが現れた。
きしきしと小さな音を立てながら、だんだんと10代目の姿が現れてくる。
その様子をぼんやり眺めていれば、10代目は一度床まで下りてしまうと、オレのベッドに上がり込んだ。

「・・・10代目?」

10代目の意図が分からず、それでも10代目の行動をオレが拒むわけもなく、
何か話してくれるのを待っていれば、10代目は何も言わずに掛け布団をめくり、中にもぐり込んできた。
体を横向きにして10代目の姿を見つめると、その隙間をついて腕を体に巻きつけられる。
そして力強く、ぎゅう、と抱きしめられた。

「あの猫ばっかり、ずるい」
「10代目・・・?」
「修行のときも、休憩中も、ずっと一緒で獄寺君にかまってもらって、ずるい」
「えっと、あの・・・」

ずるい、と文句を言いながら胸に頭を擦りつけてくる10代目。
視線を下ろしてみれば見えるのは少ししんなりした髪の毛と額とそれから眉毛。
困ったような怒ったような眉の形を作りながら、
それでも10代目はすりすりと頭を擦りつけるのをやめない。
その姿はまるで炎をほしがって甘えるときの瓜のようだ。
あまりの愛らしさに頬が緩み、みぞおちの辺りが熱くなる。
動かしてしまえば制御が利かなくなりそうで、顔を除いた全身を強張らせた。
擦り寄ってくる体の感触に体温が上がり、呼吸が荒くなってくる。
そんなオレの心境を知ってか知らずか、ちらりとこちらの様子を窺うように見上げてくる10代目は
有り体に言えば、かわいくて仕方なかった。

「一緒に寝るだけでも、だめ?」

寝るだけでは済みそうにありません、10代目。
そうは思ったものの、そんなこと口にすることもましてや実際に行動に移すこともできず黙り込んでいれば、
何も言わないオレから視線を逸らし、元のとおり胸に顔を埋められた。
見えなくなる前の顔は少ししょんぼりしたような表情で、
それでもわざとぶっきらぼうな素振りで顔を隠す仕草はとても愛らしかった。
その表情や仕草におろおろしたり眉を下げたり頬を緩めたりしていると、
背中に回った10代目の手が寝巻き代わりのトレーナーをぎゅうと握りしめてきた。
額を擦りつけたまま、ぎゅうぎゅうとオレにしがみついてくる10代目にぎゅうと血が集まっていく。

「あの・・・」

体を丸めて耳元で囁けば、びくんと小さく跳ねる体。
その反応にも否応なく煽られていく。

「すげー嬉しいんですけど、あんまりくっついてると、その・・・やりたくなっちゃいます」

情けなく正直にそう告げれば、手のひらが軽く開かれ、もう一度トレーナーを握り直される。
服を隔てていても10代目の指の感触を感じて余計に熱が上がってくる。
さりげなく腰を離そうとすれば、それを咎めるようにしがみつく力が強くなった。

「いいよ、いっぱいして。オレのこともちゃんとかまって」
「――ッ、煽らないでください、明日も修行あるんですから」

10代目に煽られて、一緒に眠るだけなんてオレにはできそうもない。
けれど10代目のお体のことや今の状況を考えれば本能の望むままに行動することなどできるはずもない。
だからといって10代目の熱を引き剥がせないほどにはオレも10代目に飢えているわけで。
そのままの状態で固まって困り果てていれば、10代目の手のひらがそろりと背中を撫でてきた。
薄い布越しにあたたかな体温が体を這う。
10代目はちらりとオレを見上げると、首を伸ばしてキスをくれた。
やわらかく頼りない感触が唇に伝わる。
ふるりとした弾力が離れていくのを思わず追って吸いつけば、ちゅく、と小さく音がした。

「いっぱい、触って」
「じゅう、だいめ・・・っ!」

息も声も飲み込むように、離れた唇を再び重ねる。
口を開いて舌を出し、やわらかい唇を強く舐める。
オレの舌が動くのに合わせてぷるりと形を変える10代目の唇。
舌が通り過ぎたあとに唇の形がもとに戻るたび、10代目はひくりと体を震わせた。
その反応に気をよくして唇を舐めるのを続けていると、はぁ、と口が開いて熱い息を吐き出した。
開いた唇の隙間からぬるりと舌を進入させて、ねっとりと心地よい口内を探索する。
つるりとした硬い歯の一本一本に舌を這わせ、奥まで行き着いて今度は上の歯の裏側を撫でていると、
あふれる唾液を飲み込むたびに10代目の口内がうごめいて舌を刺激する。

「ぁ・・・っん、ふ・・・」

唇をふさがれ、舌に口内を探られたまま、息苦しそうに呼吸をする。
一度唇を離して横向きに抱き合っていた体を倒す。
仰向けになるように10代目をベッドに押し付けて、上から見下ろす形になる。
ゆるく開いた唇からはとろりと唾液がこぼれていて、
ぼんやりと見上げてくる瞳も甘くとろけているようだ。


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