売店の前で並びながらメニューを見て考える。
獄寺君は何を飲むのかな・・・。
逃げるようにして来てしまったので、肝心なことを聞き忘れてしまった。
炭酸は今はきついかもしれない。それならスポーツドリンク?
でも炭酸を飲みたい気分かもしれない。
・・・・・。
じゃあ、両方買って、好きな方を渡せばいいか。
「ポカリスエットとコーラをください」
ようやくオレの順番になり、妥当と思われるものを注文した。
さすが遊園地、値段が高いだけあってコップも大きい。(もちろんそれでもお店が利益を上げられるんだろうけど)
なみなみと注がれたジュースをこぼさないように気をつけながら獄寺君の待つベンチへと向かった。
気温が高いため、手の中の冷たい飲み物が気持ちいい。
だけどそれにも限界ってものがあって。
手が極端に冷えてきた。
両手がふさがれているから、持ち替えて手を休めることもできない。
近くにあるテーブルに置いて少し休もうと思い、今まで歩いていた道を外れる。
そのとたん、ドンッ、という衝撃。
次の瞬間、手に持ったコーラがこぼれて体にかかる。
「うわぁっ!」
腕にかかったので服が汚れることはなかったが、
砂糖をたくさん含むコーラのため、べたべたする。
うぅ・・・早くどこかで洗わないと、もっとひどいことになりそうだ。
そう思っていると、頭の上から怒鳴り声が響いた。
「おい!人の服汚しといて挨拶もなしか!」
「っ!!!」
びっくりして顔を上げると、すごく怒った顔をした怖い男の人。
よく見ると服にコーラのしみができている。
「すみませんっ!」
「謝って済むか!保護者はどこだ!」
そ、そんなに怒鳴らなくても・・・それに今日は父さんも母さんもいないよ・・・。
ぐるぐると考えていると、服の襟をぐいっと引っ張られる。
男の人の方が背が高いので、上に持ち上げられる形になる。
何、殴られるっ!!?
ぎゅっ、と目をつぶる。
でも、思ったような痛みはこない。
「痛ッ!」
逆に、オレじゃなくて男の人の悲鳴。
その声がしたのと同時に男の人の腕が離される。
よろよろと後ずさりすると、誰かの腕が背中を支えてくれた。
恐る恐る目を開けると、目の前の男の人をさえぎるように壁のようなものが現れた。
よく見ると、人?
「この人に汚い手で触るな」
この声は、獄寺君?
灰色がかった茶色の髪の毛、腕や指のアクセサリー、
そして斜め後ろの位置から少し見える横顔は、紛れもなく獄寺君だ。
「何だと!こいつが急にぶつかってきてジュースを引っ掛けやがったんだ!
俺の手が汚いっていうんなら、そいつのせいだろ!」
「そんなこと言って、おまえも女ばっかり見て歩いてただろ」
「なっ・・・!」
「前方不注意はお互い様じゃないのか」
「くそっ!」
男の人はそれだけ言うと、早足でどこかへ行ってしまった。
大声を出したたり、もみ合いになったためにギャラリーが集まってしまっていた。
中学生に力負けした上に恥ずかしいことを言われ、
しかもギャラリーから忍び笑いが漏れて居たたまれなくなったのだろう。
案外あっさりと逃げて行った。
先程まではあんなに怖かったのに、獄寺君の背中を見ているととても安心できる。
これが 守られている という感覚なのだろうか。
人だかりは時間を取り戻したようにそれまでと同じように動き始め、
男の人を見えなくなるまで睨んでいた獄寺君がオレを振り返った。
「お怪我はありませんか、10代目」
「うん、大丈夫。ありがとう、獄寺君」
「礼には及びません。10代目が無事ならば、それで十分です」
「・・・ありがとう。本当に」
「10代目?」
うつむくオレに、怪訝そうな声で聞く。
獄寺君に無理をさせているのは、やっぱりオレじゃないか。
オレがこんなだから、獄寺君はゆっくり休むこともできないでオレを追いかけなければならない。
無理をしないでなんて言うのなら、自分が無理をさせないようにしなければいけないんだ。
獄寺君のくれる優しさに浸って、甘えてばかりじゃ駄目なんだ。
「オレのせいで、無理をしてるんだよね。ごめん」
「そんなことないですよ」
「嘘だ。だって、オレ、獄寺君に迷惑ばっかりかけてる」
「・・・10代目、オレは迷惑だなんてこれっぽっちも思っていませんよ」
獄寺君の手がオレの手からさっきの騒動で中身がほとんどなくなってしまったコップを受け取る。
「オレがしたいと思うことをして、どうして迷惑だなんて思うんです」
それを近くのテーブルに置いた。
カタン、という音がやけに響く。
「10代目はオレに無理をするなと仰いますが、オレは無理をしてでもあなたをお守りしたいんです」
獄寺君の手が、オレの手に触れる。
「オレの目の届かないところであなたに何かあったらと気を揉むよりも、お傍にいてお守りしたいんです」
手の甲にキスをされる。
やわらかくて、あたたかい感触。
「ご迷惑でしょうか」
それこそ、どうして迷惑だなんて思えるだろう。
オレはこんなにも獄寺君を必要としているのに。
獄寺君にそんなことを言ってもらえて、嬉しいと思っているのに。
オレのために傷ついて欲しくないと思うほど大切で、
オレを守りたいという言葉に喜んでしまうほど大切で。
気を抜けば頼りきってしまう、あたたかいひと。
だけど、オレも守ってもらうばかりではなく、自分の身や獄寺君の背中を守れるようになりたい。
こんな風に思うようになったのは、獄寺君に出会ってからだ。
オレを良い方向に変えてくれる、強い意志を持ったひと。
「ずっと、傍にいて」
そう言って、獄寺君にしがみついた。
いつか誰かと戦うようになったとしても、背中合わせの距離にいて。
一番、近くにいて。
言葉の代わりに彼の背中に回した腕に、力をこめた。
End
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カウンタ222番を踏んでくださった浅葱ブルーさまへの献上物ですv
リク内容は「2人きりでデートする獄ツナ」。
・・・仰りたいことは分かります。
後半、シチュエーション完無視しちゃってますね・・・。(汗)
や、ある意味二人きりの世界?(汗)
このデートは成功なのか失敗なのか・・・せ、成功のつもりで本人は書いてます。
何かもう、獄寺のウソ臭さがもう、自分でちょっとつらいです。
原作のようにかっこいいのとかわいいのの二面性を書いてみたいです。
ヘタレで喜ぶのは私だけだ。。。
あと・・・東京弁の人が怒鳴るとどうなるのかよく分からないので微妙だと思います。あんまり怒ってるように感じない。
関西弁入ってるかもしれません。
あ、あれです。関西人が旅行してるんだよ。(今作った設定)
浅葱ブルーさま、大変お待たせいたしました。
よろしければお持ち帰りくださいませ。
あと、この小説にあわせて駄目絵も描いてみましたので、
よろしければそちらもご覧ください。
222Hit、ありがとうございました!
(2004.08.21)
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