「明日のテストで40点以下をとった奴は、全問正解するまで毎日テストするからな」
「えぇ―――!!!」

教室中からの大ブーイングをものともせずに、澄ました顔でなおも続ける。

「夏休みのワークを自力でやってたら簡単に解ける問題ばっかりだから、そんな暗く考えるなよ」

それさえ獄寺君に教えてもらってやっとできたオレはどうすればいいんだよっ!


03:眉間


本日最後の授業で爆弾を落とされたオレは授業が終わってからもうんうんうなって頭を抱えていた。

「10代目!帰りましょうv」

オレの気分とは正反対の、やけに明るい声が話し掛けてくる。
確認するまでもなく、獄寺君だ。

「あー、うん・・・帰ろっかー」

疲れきった表情のオレを見て、首をかしげる獄寺君。
いいなー勉強できる人は。
明日のテストなんか、全然気にしてないんだもんなー。

「おい獄寺。おまえ今日暇か?」

どこから現れたのか、リボーンが急に獄寺君に話し掛けた。

「あ、リボーンさん。はい、特に用事もありませんけど」
「ならすまないが、ツナの勉強見てやってくれないか?」
「えっ!!?」

びっくりして声を上げたのはもちろんオレだ。
リボーンのやつ、何考えてるんだよー!
あたふたしているオレとは対照的に、やっぱり獄寺君は首をかしげている。

「オレは今から行かなきゃなんねーとこがあるんだ。
 明日の理科のテストでツナが40点以上取れるようにしてやってくれ」

その言葉にようやく思い当たるところがあったのか、納得した顔でにっこり笑った。

「オレでよろしければ、喜んでお教えいたします」
「ということでツナ、逃げずにしっかり勉強しろよ」

あ゛ぁー・・・。
獄寺君に勉強を教えてもらうことを勝手に決めたリボーンはオレたちを置き去りにしてさっさと行ってしまった。



山本は部活のミーティングで学校に残るそうだ。
ここのところテスト前ということで部活が休みになり、山本と一緒に三人で帰っていたので、
獄寺君と二人きりで帰るのは久しぶりだ。
山本がしゃべって、獄寺君がツッコミを入れて、オレが笑って。
そんなやり取りが続いていたため、獄寺君の視線や言葉が全部オレに向かってくる今の状態は、何だか落ち着かない。
オレの心を知ってか知らずか、にこにこと嬉そうに笑っている獄寺君を見上げると、
それに気づいた獄寺君がさらに笑みを深くして見返してきた。
何だかんだ言って、オレはこの顔に弱い。
照れた顔を見られないようにもう一度下を向くと、獄寺君が話し掛けてきた。

「時間ももったいないですし、よろしければこれから10代目のお宅へ直行したいのですが」
「うん、いいよ」

ここで断ったところでいいことは何も起こらないと分かっているから、とりあえず承諾した。
その割に、お菓子とかジュースはあったかなぁ、なんて、
勉強のことを忘れて友達を家に呼ぶみたいに少し浮かれてる自分がいた。





「どうぞ上がって」
「お邪魔します!」

元気のいい声に、母さんが台所から顔を出す。

「あら獄寺君、いらっしゃい」
「こんにちは」
「明日からテストだから勉強教えてもらうんだ」
「あら、そうなの? この子勉強ダメだから、ビシビシ教えてやってね!」
「母さん!」

余計なことばっかりしゃべる母さんをまた台所に押しやった。

「獄寺君、先にオレの部屋に上がっててくれる?」
「ですが・・・」
「飲み物とか用意したら、オレもすぐに上がるから」
「・・・分かりました」

軽く礼をしてから、階段を上がって行く。
どうやら獄寺君は家の人の案内なしに部屋に上がるのに抵抗があるようで。
ちょっと前まではオレが何を言っても一人では玄関から動かなかった。
今は少し抵抗するものの、素直に言われた通り一人で部屋へ向かうようになった。
だんだんと小さくなる獄寺君の足音を聞きながら台所に入り、
コップをふたつ用意してジュースを入れる。
母さんがちょうど買ってきてくれてたポッキーとポテトチップスをコップと一緒にお盆に載せて、台所を出た。
すると、階段の下でこちらの様子を伺っている獄寺君と目が合う。

「あれ?獄寺君、部屋に行かなかったの?」
「いえ、荷物を置きに上がらせていただきました」

にっこり笑って、歩いてくる。

「お盆、オレが持ちますね」

そう言うとオレが何かを言う前にお盆をオレの手から持ち上げて先に階段を上がって行った。
こういうことをさらっとできるのは、お城育ちだからだろうかと、
たぶん見当違いなことを考えながら獄寺君に続いて階段を上がった。


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