ふわりと浮かぶ湯気
あたたかなカップ
甘いココア
そして、何よりも甘い、あなた


08:忠犬


本日最終の英語の授業で、教師は生徒に迷惑な品物をよこした。
教科書2ページを埋め尽くす、練習問題という名の迷惑問題。
「次の授業までの宿題な」と、一見猶予があるように見えて、実際は明日までの宿題ってことだ。
しかも英語の授業は1時間目。
学校に行ってから誰かのノートを写させてもらうという時間はない。
教師の言葉に顔をしかめる10代目をおいたわしく思うけど、
でもオレにとっては喜ばしいことだったりする。
何でかって、それはもちろん10代目に宿題をお教えできるからに他ならない。
本来なら10代目のお宅にお邪魔して勉強会をするのだが、
今日はアネキがリボーンさんのところに行くと前から言っていたらしいので、
急遽オレの部屋で勉強会が開かれることになった。
その勉強会もなんとか数分前に終わったところで、
今オレは休み無く問題を解いていた10代目のために、デザートを用意しているところだ。
オレの部屋に来たら必ずといっていいほど飲むホットココアと、
10代目が好きそうだと思って買っておいたティラミスを皿に分ける。
最後に自分の分のコーヒーを用意して、それらを盆に載せてリビングに運んだ。

「お待たせしました、10代目」
「ありがとう、獄寺君」

10代目の前にココアとティラミスを置いて、残ったコーヒーを手元に置いた。
10代目は湯気の立つカップに手を添えてから何か考えるような顔をして、
それからティラミスを食べるためにフォークを手にした。

「いただきます」
「はい、どうぞ」

律儀に言葉をくださる10代目を微笑ましく思いながら、10代目が食べる様子をうかがった。
口に入れるとすぐにほころぶ顔に、こちらまで嬉しくなってくる。
咀嚼して飲み込み、それからオレを見てふわりと笑う。

「これ、すごくおいしい」
「10代目に喜んで頂けて、用意したかいがあります」

オレに向けられる笑顔に微笑み返して、それからコーヒーを一口含んだ。
10代目はこっそりと、オレのカップと自分のカップを交互に見て、それからオレの顔を見上げた。

「10代目には、まだ熱いと思いますよ」
「そうだよねぇ・・・」

のどが渇いているのだろう、先ほどからココアをちらちら見ているけれど、手をつけられないでいる。
というのも10代目は結構な猫舌で、
どれくらいかというと以前我慢できずにほんの少しだけ冷めたココアを飲んで、舌を火傷させてしまったくらいだ。
今手元にあるココアはまだ勢いよく湯気を立てていて、10代目が飲めるような温度ではないだろう。
だからといって中途半端な温度の湯でココアを入れてもおいしくないのは経験済みだ。
10代目曰く「熱いココアが冷めてきて、オレが飲める限界の熱さになったのがおいしいんだ」とのことだ。
恐れ多くもそれを一口飲ませて頂いたことがあるのだが、オレにはぬるくて、さっぱりだった。

そうこうしているうちに10代目はティラミスを食べ終わり、カップを手にしてココアを冷ましにかかった。
両手でカップを覆って、息を吹きかける姿はいつ見てもかわいらしい。
コーヒーを飲み終えたオレは、自分のカップと10代目の食べた皿を盆に載せて、立ち上がった。

「いつもごめんね、獄寺君」
「いいえ、お気になさらずに。ゆっくり飲んでくださいね」
「うん、ありがとう」

台所に戻って食器を手早く洗い、乾燥機の中に入れる。
それからすぐに10代目のいるリビングへと戻った。
ソファにちょこんと座った10代目は、やっと冷めたココアを飲んでいるところだった。
オレはさっきまで座っていた10代目の前ではなく横に座り、10代目の様子を眺めた。
両手で大事そうにカップを包み込んで、ゴクゴクと飲み込んでいく。
よっぽどのどが渇いていたんだろうなと苦笑しつつも、
その様子が微笑ましくて、苦笑はいつしかだらしのない笑い方になってしまう。
するとコップの中身へと向けられていた10代目の視線がちらりとこちらに向けられた。

「どうかしましたか?」

笑い顔を少しだけ引っ込めて、問いかける。
10代目はゆっくりとカップから口を離して、こう答えた。

「獄寺君も飲む?」

どうやらオレが10代目を見つめていたのは、10代目が飲んでいるココアが欲しいためだと思われたようだ。
こっそりと、ココアに濡れて光る唇を見つめた。

「いいんですか?」
「うん、いいよ」

はい、とオレの方へ向けられたカップを受け取り、そのままコトリと音を立ててテーブルに置いた。

「獄寺君?」

オレを呼ぶために開かれた唇にそっと舌を這わせる。
思わず引き結ばれた唇はしっとりと濡れていて、甘い。
その甘さに夢中になって舌を這わせていると、くすぐったそうにオレの名前を呼ぶ。
開いた唇に自分の唇を合わせ、奥に舌を滑り込ませた。
深く絡めた舌はさっきまでココアを味わっていたために酷く甘く、オレを魅了した。

「ん、・・・っ」

10代目の口から漏れた声も、吐息さえも甘くてくらくらする。
オレは夢中になって10代目の舌に舌をすり合わせた。
隙間から溢れた唾液を舌で舐め取ると、10代目はくすぐったそうに笑う。

「獄寺君、それじゃほんとに犬みたいだよ」

以前、オレがクラスの奴らに「忠犬」と言われたことを言っているのだろう。
10代目の表情をうかがうと、少し困ったような顔。
それから首をかしげられると、たまらなくなる。
可愛くて、愛しくて、10代目を見ていると湧き上がる感情に胸がいっぱいになって言葉をつむぐことさえ困難になる。
言葉を忘れて、10代目を食べてしまいたいという衝動すら湧き上がって。
それは犬とか狼とかの獣にも似て。

「本当に犬だったらどうします?」
「え・・・?」

目を合わせながら10代目のシャツのボタンをひとつづつゆっくり外していく。
あらわになった乳首に舌を這わせた。

「ん、ちょ・・・獄寺君・・・」

下から舐め上げて、唾液を絡ませて、口に含んだ。
ちゅ、ちゅ、と音を立てて吸い上げるとすぐにそれは硬く立ち上がり、10代目の口から甘い息が漏れる。

「ふ、ぁ・・・獄寺君、やだっ」
「気持ちよくないですか?」

乳首から口を離して10代目と視線を合わせる。

「きもち、いい、けど・・・ここじゃやだよ」

改めて見てみると、ここはリビングのソファの上で。
くってり力の抜けた10代目と、中途半端に肌蹴たシャツに酷くそそられた。
どこでも欲情する自分に確かに犬の部分を見つける。
だけどそれは10代目に対してだけだ。
10代目専属の犬だというのなら、犬と呼ばれてもいいかと思う。

「ここじゃなければ、いいですか?」

首筋に緩く噛み付いて10代目を見上げる。
顔を真っ赤にして、弱々しく頷く。
ここでするのが嫌だなんて、嘘を言ってるんじゃないかと錯覚してしまう。
今すぐにでも10代目の衣服を剥ぎ取ってしまいたい衝動を抑えつつ、
体を起こして寝室へ移動することにした。


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