その頃、わたしは西宮市のある小学校で働いていました。
6年2組のクラス担任が、女児を連れて不機嫌そうにやって来て言いました。
「この教室に、ハムスターの檻がありますよね?貸してください。」
見ると、生徒の手には小さな子猫。
「家につれて帰って飼うんだあ」   
わたしは、彼女に確認しました。「お母さんに聞いてからのほうがいいんじゃない?」
「だいじょぶ、だいじょうぶ。早く檻かして!」 でも、子猫は嫌がって檻になんて入りません。
すると担任は、これじゃ授業が出来ないし、自分は猫は嫌いだからと
「放課後、取りに来させますから」と、子猫をわたしに押し付けて生徒と立ち去って行きました。
とうとうその日、生徒が再び現れることはなかったのです。
 翌日、6年3組の男児が「猫拾った!」と登校しました。
昨日の子猫と、柄こそ違いますがそっくり。 このままじゃ、授業が出来ない!と3組の担任。
わたしに「○○先生、猫飼ってますよね?」と押し付けるとさっさと教室に・・・・・
 その日の放課後、今度はその男児の4年生になる弟が家に猫を連れ帰ったと
彼の母親が気でもふれたかと思う勢いで、職員室に怒鳴り込んできました。
 「学校に押し付けられたんじゃないんですか?」
よくよく話を聞くと、学童保育の前で猫を拾って連れ帰ったら母親に叱られたので
「お兄ちゃんも拾って学校に持っていったら先生が預かってくれてた」と言ったのだけれど
猫を見て逆上したお母さんの耳には届かなかった・・・・ようです。
事情を説明すると「でも、家では飼えませんから!」  その時です。
事の発端の6年2組の教諭が「こんなことになると思ったんですよ。安易に預かるから。」  は?
6年3組の担任は「とりあえず、この場は学校で預かりましょう。」と引き取るや否や、わたしの手に。
・・・・へ?    かくして訳のわからない内に、私の手には3にゃんが・・・・
揚句の果てに 「育てられないなら保健所に持ち込めば?」 恐ろしい学校です。
阪神間は、山の手に行くほど「人気の○○校区」などと宣伝文句がつきますが、阪神沿線では珍しく
その「人気の○○校区」な小学校で起こった珍事でした。
 渋る教頭をすっとばし、校長に直談判。
とりあえず、早急に里親を探すのでわたしの教室で飼わせてほしいと頼んだのでした。
「命の尊さを教える学校が、行き場のない命を殺処分してはならない!」と、いうわたしの意見を
校長は聞き入れてくれました。
 ところが、自分達の身勝手な行動を棚に上げ、わたしを責める教諭。アレルギーだ、猫は嫌いだと騒ぐ教諭。
教師の人間性ってこんなもんか・・・・と、思わざる得なかったのも事実です。
 そんな中で、クラスの子供に里親を呼びかけてくれた1年生の担任。お陰で、1にゃん里子に。
残った2にゃんを手分けして土日に預かってくれた5年の担任。どちらも50代の女性でした。
こっそり「何も出来ずにすみません。」と言いにきてくれた臨時の教諭。「飼えなくてごめん」と言ってくれた音楽教諭。
里親探しを手伝ってくださったご近所の和菓子屋さんご兄妹。こちらのお兄さんのお陰で1にゃんは
高校生の女の子お家にお猫入り。その子猫を週末ごとに預かってくれた5年の教諭は、泣きながら「幸せになるんだよ」と・・・
さて・・・・1にゃん残りました。 この子は、尻尾がちぎれていて行動がちょっと変(笑
走る様子は「欽ちゃん走り」 貰い手がなかったのです。
かくして、週末ごとに来ていたわが家へ連れ帰り、里親募集に限界を感じていたわたしは
「りん」と名づけてうちの子にしたのでした。
この頃、わたしは朝の7:30から、夜の8:00ころまで学校にいたんですよ・・・・
非常勤なので、時間外手当はなし・・・・6年2組のA教諭には、いまだに腹が立ってたりして・・・・
でも、りんが来て幸せなので・・・・ゆるす・・・・

猫のいる教室