このコーナーは曲に対する考えや思いを綴っています。
独断に基づいており、客観性や学術性は全くありません。
専門的な言葉が出てきますが、あまり解説していません。
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35 長唄 執着獅子
 本名題は「英執着獅子」(はなぶさしゅうぢゃくのしし)。いわゆる「石橋もの」の中では、最も古い曲らしい。確かに全曲三下りで、上品と言えば上品だが、少し技巧に乏しく、古めかしい感じはする。
 始め置き唄があって、「下リ端」。タップリと長い。一調などがあって、少し休んだあと、今度は「楽」。これもタップリと長い。そして今度は休む間なく、長い篠笛が待っている。「大宮人〜」の桜づくしのところ。趣は感じられるが、単調で長い。
 「鏡獅子」や「連獅子」もそうだが、「石橋もの」の篠笛は長いものが多い。曲の前半の聴かせ所になっているのだが、気を遣うし大変だ。
 後半は獅子になって、「狂い」の演奏だが、この曲は女性のまま。他の曲のように男性の勇壮な獅子ではない。したがって、若干力を加減して吹くようにと教わった。素の演奏のときはかなり意識しているのだが、踊りの舞台になると、どうしても力が入ってしまう。客席と一体になった舞台の盛り上がりに飲み込まれてしまい、ついつい力一杯吹いてしまう。気を付けなければいけない。
34 長唄 楠  公
 楠木正成の物語。前半は桜井の別れ、後半は湊川の合戦を描いている。
 重々しい雰囲気で始まり、正成と正行の対話形式で別れの様子を描く。囃子は始めに少し入るだけで、前半はずっと休憩。
 大薩摩があって、いよいよ後半。湊川の合戦。ここから囃子が活躍する。まず、セリの合方。つづいて「突掛」と、勇ましい雰囲気。次の合方も合戦の臨場感が出ており、小鼓、大皷が活躍する。
 「人馬の息を休めけり」で、通称「木の葉の合方」になる。短い合方だが、合戦の中のつかの間の静寂という感じがよく出ている。静かさの中に、どこか緊張感も漂っている。篠笛の音色がマッチしている。
 このあとすぐに「突掛」になり、再び緊迫感溢れる戦場の描写。このあたりになると、自然に三味線のノリが速くなってきている。囃子方もそのノリについて行くのだが、雑にならないように注意したいところ。
 しっかりとしたストーリー性があり、展開もよくできている。前半は唄、後半は三味線と囃子が活躍する曲。
33 長唄 時雨西行
 謡曲「江口」を移入したもの。ストーリーがしっかりとしており、聞かせ所が多い曲。
 始めに「壱声」で西行法師が登場するのだが、これが気を遣う。力まかせに吹いてはいけない。石橋物のように吹くのではなく、あくまでも僧が歩いて登場することを意識して吹く必要がある。といって、情けなく弱々しい音でもいけない。この加減にいつも苦しむ。
 二上りの篠笛も同じく難しい。旋律がきれいで、上手な人のを聴いていると非常に気持ちいいのだが、いざ自分が吹くとなると苦労する。静かで上品な、唄の聞かせ所でもある。澄み切った高い音から出るので、集中力を高めて口を絞る。唄と喧嘩をせず、しかも笛の存在感を出したいところ。
 後半は大小鼓に太鼓も加わり、テンポよく盛り上げていく。囃子が活躍して、曲の雰囲気を作っていく。普賢菩薩が見え隠れするところがクライマックスだが、三味線の旋律と囃子の手がマッチしていて、西行の心理状態まで見えてくる。
 踊りの場合、最後は合方に篠笛が入って、西行が花道を入って行く。あまり長い時間ではないが、印象に残るような笛を吹きたいものだ。
32 長唄 大原女
 曲の前半は、京都の大原女が頭上に薪を乗せて売り歩く風俗の描写、後半はなぜか国入奴の槍踊りになっている。それ故、全曲を通じて歌詞に方言を取り入れており、面白い表現が多い。
 「嬉しかんろ」、「まかるべいちやな」、「あんちうちくだ」、「ふんぬきやる」等意味がわかるようで、よくわからない。しかも、京都地方の言葉とも思えない。江戸で初演された曲なので、実際の京都弁を使うよりも、田舎の匂いを出したかったのだろう。そういう意味では、大変泥臭い雰囲気が出ている。
 中盤に「虫の合方」があり、三味線の旋律とリズムが心地よい。この合方を境に、前が大原女、後ろが奴の内容に分けられる。
 踊りの場合、始めの部分は、奴の衣装の上に大原女の衣装を重ねて着込んで踊る。かなりゴワゴワした感じで、踊りにくそうだが、それでも女性の動きをするのが腕の見せ所。後半になるところで素早く引き抜いて、奴の姿になり、槍を持って力強い踊りを見せる。前半と後半の踊り分けが見もの。元々舞踊のために作られた曲なので、ストーリーとしての一貫性はないが、見所は多い曲だ。
31 長唄 菖蒲浴衣
 安政6年に作られた、浴衣のコマーシャルソング。それが現在まで唄い継がれ、しかも舞踊会の常連曲になっているとは、なんとも驚いてしまう。
 歌詞は、「あやめ」と「ゆかた」にちなんで、端午の節句や衣服にまつわる言葉が多く使われている。
 始めは少し重い雰囲気があるが、「かざり兜」あたりからサラリと軽い感じに変わる。そのあと「それは端午の」からは、唄の節が落ち着いたいい感じで、けれんもなくじっくりと聞けるところ。「暑さに」の二上りから篠笛が入るが、雰囲気を大事にして素直に吹くように心掛けている。言葉の途中で二上りになる手法も面白い。ゆったりとした気分で曲が流れているときに、急に二上りになり、「暑さ」という単語のイメージに合う。
 三下りになってからは、隅田川の描写になり、粋な雰囲気に変わってくる。「糸柳」のあとの合方は、佃の合方としてとてもよくできており、三味線が活躍する。替手との息が合った演奏は、なんとも気持ちがよい。この合方だけでも、充分コマーシャル効果があったのではないだろうか。
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