コンテを投げ出す

 酒井式で、いもほりの絵を描かせています。今日は、手・足・顔です。
 この手を描くのが、とても難しいです。
 2年生で、しかも、今まで酒井式では、ぐるぐるへびしかやらせてないのですから。
(子どもの実態も把握しないでの実践だから、無謀なのです。)
 手を描いてる途中、一人の男の子がコンテを投げ出しました。
 手を描いてる時に、隣の男の子から「指細いなぁ、下手やな。」と言われたというの原因のようです。
 隣の男の子は、「指細いなぁ。」とは言ったけれど、「下手やな。」とは言ってないと、言います。
 お互い、腹が立つことがあると、興奮する質の子らです。
 二人の話が一致しない場合は、簡単に解決できそうもないので、私は絵の描き方を足、そして顔の順に教え、描かせていきました。
 それでも、コンテを投げ出した男の子は、描こうとしません。
 その子以外は全員描けたので、画用紙を出させ、帰る用意をさせました。(隣の子には、離れて、別の所に座らせました。二人を近づけておくと、ケンカ沙汰になりそうだったからです。)
 しばらくしてから、全員をすわらせ、こちらに注目させ、事の経緯を全員に、話しました。
『○○くんは、□□くんに「指細いなあ。下手やな。」と言われたと言っていま す。』事実しか言いません。
『□□くんは、「指細いなあ。」しか言ってないと言います。』
 ここで、周りの子に、事の真偽を確かめるような事はしませんでした。
 2年生ですと、周りの言葉にも信憑性が薄いからです。
『「下手やな」と言われたら、いやな人?』
 たくさんの子が手をあげます。全員ではありません。言われたって、平気な子だっていて、言い訳です。
 何か、私は脈略なく、いろんな事を子ども達に問いかけたかもしれません。
『今まで「下手やな」って、言われたこと、ある人?』
『どんな事、言われましたか。』
『今まで、人に「下手やな」とか言ったことがある人?』
 ○○くんは、「なぐってやりたいわ。」と怒りをあらわにしています。
『○○くんは、今、立ってる子の子らを全員なぐるんですか。』
 ○○くんは、「もう絵、描きたくない」とも言っています。
『じゃあ、○○くんは、「歩くの下手やな」と言われたら歩かないんですね。』
 ○○くんの反応は、少し極端すぎるのです。
 この後、当事者の2人以外は、帰らせました。
 全体の場で、○○くんの事を話すことで、○○くんの気持ちが少しでも、落ち着けば、ねらいは達成です。(全体の学ぶ場でもありました。)
 コンテを投げ出して、描くのを止めた○○くんには、次のように、語りかけました。
『先生は、この指の曲がったところ、うまいと思うけどな。』
 実際、その子の絵は、他の子より格段に、本物の手に近いのです。
『○○くんは、本物そっくりに描こうと、思ったんだよな。でも、手って難しい から、うまく描けないから、イライラしたんでしょ。』
『○○くんは、そっくりに写すのが、好きなんじゃない。』
 そう聞くと、プラモデルの戦車とかをそっくり写して描くのをやったりしているそうです。
 ようは、その子の自分への要求が高いのです。
 聞けば、スイミング・ピアノ・テコンドーやその他の習い事をたくさんしているようです。
 虫や植物の図鑑をよく読んだりしています。
 自分というものを高く見ているから、うまく描けないことが自分で許すことができないのでしょう。
『今日は、もう描かなくていいよ。』
と言うと、結局、手・足・顔を描きました。難しい対応でした。  

(1999.11.19)