順番に風呂に入って、ほとんど10代目の作ってくださったごはんを食べて、
それから一緒にテレビを見たりして夜を過ごした。
10代目は風呂上りにジャージを着ていて、オレもそれにならってジャージを着てみた。
家にいるのに学校のジャージを着ているのがなんか変な感じで二人で笑いながら
明日は着替えずにこのまま学校行けるね、なんて話しをしていた。
見ていたお笑い番組も終わり、ビデオの時計表示を見ればもう11時になろうとしている。
「そろそろ寝ましょうか」
隣に座っている10代目に声をかけてテレビの電源を切る。
騒がしかった音がなくなり、部屋の中は途端にしんと静まり返る。
デザートの皿とおそろいのマグカップを片付けながら10代目に先に洗面所に向かっていただくように促す。
休みの日に何度も泊まりに来てくださるようになってからは、10代目の歯ブラシも洗面所に置いてある。
場所も分かっているはずだから先に行ってもらっても大丈夫だろう。
10代目が歯を磨いている間に先程使った食器を洗って、10代目と入れ替わりで洗面所に入る。
いつも10代目の歯ブラシを眺めながらニヤニヤしてしまうけれど、今日はそれを使う人がちゃんといるんだ。
普段は乾いている歯ブラシが濡れているのを見て余計にニヤニヤしてしまう。
シャコシャコと軽快に音をさせながら歯を磨き、口をゆすいで寝室に向かう。
と、廊下で立っている10代目に遭遇した。
「・・・10代目?どうしたんですか、そんなところで。ここは寒いですから中に入ってください」
「う、うん・・・」
寝室のドアを開けて10代目を誘導する。
「先にベッドの中入って休んでてくださいね」
10代目の背中に添えていた手を離して壁際に向かい、
クローゼットを開けて奥を探り、毛布を一枚取り出した。
扉を閉めて振り返ると、10代目がベッドに腰をかけてこちらの様子を窺っている。
ごそごそとやっている間に先に休んでいるものだと思っていたので少し驚いた。
「中入って布団かぶってください。暖房つけてますけど、体冷えますよ」
言いながら近付き、掛け布団を持ち上げると10代目が立ち上がってくれる。
そのまま中に入ってくれると思いきや、10代目はオレのことを見上げたまま動かない。
「・・・10代目?」
「獄寺君が先どうぞ」
「え、いや、オレは・・・10代目が入ってください」
そう言っても10代目は動かず、やっぱりオレを見上げている。
10代目の上目遣いはやはり強力で、特にこの寝室という空間では理性と反対側の方向への作用がものすごい強い。
その脅威的な力に薄皮一枚の理性で対抗していると、不意に10代目の視線が逸れた。
ほっとしているのもつかの間、10代目の口からぽつぽつと言葉が紡がれる。
「ベッドもだけど、さっき部屋の前で獄寺君待ってたのも、
なんか獄寺君が居ないのにオレだけ部屋ん中とかベッドん中とか入るのが恥ずかしかったからなんだ。
だから、獄寺君が先入って?」
もう一度だめ押しのように見上げられて、ぐ、と唸る。
そういう10代目を見てるとほんとに我慢とかそういうの利かなくなるんで控えて欲しい。
いや、次の日が休日とかだったら我慢しなくてもいいから
そういうかわいいところいっぱい見せて欲しいとは思うけれど、今日だけはちょっとだめだ。
かわいらしいことばっかり言う10代目と一緒に寝て何もしないなんてことできるような男じゃない。
情けないけどそれは自分が一番よく分かってた。
「すみません、10代目。今日はオレここでは寝ないんで」
持っていた毛布を床に放り、持ち上げていた掛け布団を向こう側に捲って置く。
空いた両手で乱暴にならないように気をつけて10代目の体をベッドの中に横たえる。
それから10代目が起き上がってしまわないうちに捲っていた布団を10代目の体にそっとかける。
「ここで寝ないって、どこで寝るんだよ?」
「リビングのソファで寝ます」
「・・・寒いよ?なんでここで寝ないの?」
「向こうも暖房入れてますし、大丈夫です」
質問に答えていても10代目の表情は曇ったままで。
たぶん10代目自身に悪い点があったかもしれないと悪い想像をしてしまっているんだろう。
オレの都合で勝手に言っていることで、悪いのは10代目じゃなくてオレだ。
本当のことを言うのはかっこ悪いけれど、10代目が自分のことを悪く思うのは耐えられないから思ってること全部言ってしまおう。
10代目の前でかっこ悪いところなんていくらでも見せてしまっているんだから、今更恥ずかしがることなんてないだろう。
・・・もちろん、やっぱりかっこよく見てもらいたいって気持ちはたくさんあるんだけど。
「10代目と一緒に寝たりなんかしたら、オレは10代目に惚れてるんですから、それこそ寝るだけなんかじゃ済みませんよ。
明日はマラソン大会もありますし、10代目の体に無理はさせられません。
申し訳ありませんが、今日はお一人で休んでください」
口を挟む隙も与えずに言いたいことだけ言ってしまう。
言い終わって10代目を見れば顔を赤く染めて恥ずかしそうに視線を逸らされた。
露骨に言い過ぎただろうか。
でもこれでちゃんと伝わって、誤解もされないだろう。
「いいよ、別に」
10代目の体に布団をかけて覆い被さったままの状態から姿勢を戻そうとすると、小さく声が聞こえてきた。
何、と考えるよりも先に紡がれるその先は。
「明日のことなんて気にしないで獄寺君のしたいようにして」
オレの心臓を鷲掴みにするくらいの威力があった。
「っ・・・!」
戻しかけた姿勢をもう一度倒して、それまでよりも近づける。
「おやすみなさい、10代目」
瞼に口付けて、強引に目を瞑らせる。
唇が離れるとそっと瞼を上げる気配がしたけれど、10代目の顔を見ないように立ち上がった。
これ以上10代目の顔を見ていたら本当に抑えが利かなくなりそうで。
すでに下半身には重い熱が溜まりかけている。
リビングに向かう前にトイレに寄った方がいいかもしれないと本気で思いながら
床に落とした毛布を拾い、寝室を後にした。
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