明るい朝日が差し込む中で、珍しく自分の力で目を覚ました。
もぞもぞと起き上がって制服に着替える。
昨日しわくちゃにしたシャツとは別の、ぴしっとのりの効いたシャツ。
ついこの間まではシャツだけでも暑いくらいだったのに、今は肌寒く感じる。
机の上に出されていたベストを広げてもぞもぞと頭からかぶっていった。
着替えを終えて、薄っぺらい鞄を持ち上げる。
宿題のために数学の用意だけ持って帰ってきたけれど、鞄の中から出してさえいない。
数学は午後からだし、昼休みに獄寺君に教えてもらおう。
ぼんやりとした頭でそこまで考えて、はたと思い直した。
そうだ、昨日は獄寺君とケンカしちゃったんだ。
ケンカっていってもオレの方が一方的に怒っちゃったんだけど。
昨日のことを思い出して、まだ半分夢の中を漂っていた思考がクリアになった。
今日は最初に獄寺君に謝らなきゃいけない。
はじめにおはようって挨拶して、昨日はごめんねって謝って、その後で、宿題教えてくれる?って。
そしたらケンカの後のいたたまれない空気も流れなくて、自然に会話ができるんじゃないかな。
獄寺君、おはよう。昨日はごめんね。昼休みに宿題教えてくれる?
階段を下りていきながら、オレは何度もその言葉を頭の中で繰り返した。
リボーンが日本に来るまで友達なんていなかったから、ケンカだってしたことがなかった。
相手が怒ってくることは多かったけど、その後仲直りなんてする必要なかった。
だって最初から、仲のいい友達じゃなかったから。
オレが誰かに怒ったり八つ当たりするなんて、それまでは考えられなかったことだ。
完全に自分が悪い一方的なケンカなんて初めてで、しかも相手が自分の好きな人で、
慣れないことだったけど、ちゃんと仲直りできるように、何度も謝る練習をした。

「あら。おはよう、ツナ。今日は自分で起きたのね」
「うん。おはよう」

台所に入ると、ちょうど朝ごはんの用意をしているところだった。
チビたちが母さんを手伝って食器を並べている。

「ツナ遅いぞー!」
「〜〜〜!」
「ツナ兄、おはよう!」
「おはよう」

朝から元気なチビたちに言葉を返して席に着く。
いつも用意が終わったあとに起きてくるから、オレの出番はない。
なんとなく手持ち無沙汰で食卓が整うのを待ちながら時計に目をやれば、
7時45分、確かにいつもならまだ寝ている時間だった。

「いただきます」

皿を並べ終えて、チビたちが席に着いて、みんなで一緒に挨拶をする。
いつもなら食べ始めているチビたちの横で一人で挨拶をしているから、なんだか新鮮だ。
焼き魚にしょうゆをかけていると、まだ作業をしていた母さんがテーブルにやってきて、オレの近くに弁当を置いた。

「はい、ツナ。お弁当」
「ありがと」

しょうゆを置いて弁当を鞄の中にしまう。
母さんはそのままイスに座って、チビたちの魚の身を取ってやり始めた。

「あ、そうだ、ツー君」
「んー?」

魚の皮を箸でよけていきながら、返事をする。
現れた白い身をつまんでしょうゆをつけて口に運び、母さんの方に視線を向ける。

「今日ねぇ、獄寺君、学校休むそうよ」
「・・・・・、え?」

口の中の食べ物をしっかり飲み込んで、それからやっと声を出した。
自分でも分かるくらい、目を大きく開いて、母さんを見る。

「獄寺君、休み?」
「そう。ツナが起きてくるちょっと前にね、獄寺君がうちに来て。今日は学校お休みするから、ツナに伝えてください、って」
「・・・なんで・・・」
「んー、母さんは詳しく知らないけど、なんだか用事があるみたいよ」

獄寺君が、休み。
オレはそんなこと少しも想像してなかった。
リボーンやランボのせいでダイナマイトを爆発させたり、部屋がめちゃくちゃになったり、オレが怒ったり、
山本とかハルとかの行動で獄寺君が不機嫌になっちゃったりしたときでも、
次の日はちゃんと、ちょっとばつの悪そうな顔で、迎えに来てくれてたから、
今日だっていつもみたいに、困った顔で、不安そうな顔で、
おはようございます10代目、って、玄関の前で待っててくれると思ったのに。
頭の中がぐるぐるになって、少ししてからゆっくりと感覚が戻ってくる。
口の中に残ったごはんつぶや魚の身、しょうゆの味。
ごくん、と大きく音を立てて、つばと一緒に飲み込んだ。



久しぶりに一人で登校した。
通学路でも、教室でも、いつも隣にいる獄寺君がいない。
静かだ、と思うのと同時に、寂しい、と思う。
昼休みも山本と二人でごはんを食べて、
宿題をやってない者同士で頭をつき合わせて数学の問題に取り組んでみたけれど、結局ほとんど解けなくて、
この前の小テストの点数が悪かったことも重なって、今日も今日とて居残りをさせられることになった。
延々とプリントをやらされて、やっと数字と記号から解放される。
部活のある山本とはそこで別れて、また一人で家に帰る。
居残りの間、待ってくれている人がいない。
隣を歩く人がいない。
獄寺君に会う前は、いつもこんな感じだったのに。
今はそれがすごく寂しい。
日が落ちるのが早くなって、空がオレンジ色なのも原因だ。
二羽のカラスが鳴く下を一人とぼとぼと歩いていく。
用事があるって、ほんとかな。
昨日のこと怒ってるわけじゃないのかな。
もしかしてイタリアに用事があって何日も会えないのかな。
今日だけの用事かもしれないけど、明日も明後日も学校休みだよ。
理由がなければ会いにも行けないオレだから、獄寺君が会いに来てくれるまで、ずっとこんな風にうじうじしてるんだろう。
今どこにいるの、明日は会える?
声だけでも聞きたいけど、電話をかける勇気もない。
いつも以上にぐずぐずと歩きながら家に帰る。
昨日よりもさらに気落ちした声でただいまと言って、何か言われる前にさっさと自分の部屋に入ってしまった。


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