「今年はやっぱ白組がよかったなー」
「そうですね、和田あきおがかっこよかったですよねー」

テレビを見ながらそんなことを話していると、投票の集計が終わったようだ。
携帯、デジタルテレビ、会場の投票数がぽんぽんぽん、と出る。

「わ、すげ。白ばっか勝ってますよ」
「あ。合計が出るよ・・・あ、白が勝った!」

二人の司会者の間に立ったボードに総投票数が出る。
それまでの結果で分かっていたけれど、やはり白組の勝ちだ。

「お〜〜!さすが10代目っス!」
「お〜〜!いや、オレ関係ないから!」
「いえ、10代目は日本国民の考えを汲み取る力をお持ちなんですよ。
じゃなければ結果が出る前に白組の勝利を予想することなんてできません!」
「単によかったと思っただけだって」
「10代目が素晴らしい判断力を持っている証拠です!」

オレは白組の勝利よりも10代目の判断力に感動した。
いや、白組の勝利は10代目なしにはあり得なかった。
さすが10代目だ。素晴らしい。
10代目はすごい力を持っているのに、謙虚な姿勢を崩さない。
そんなところも10代目の魅力だけれど、もっと胸を張ってもいいと思うのに。
そう思って10代目の素晴らしいところをこれでもかと挙げてみるけど、
やはり10代目はそんなことないよ、と言って話を終わらせてしまう。
結局10代目に強く言えないオレは、それ以上はその話を続けられずに他の話題を探した。

「10代目、お風呂はどうします?旅館の中にも大浴場とかがいくつかあるみたいですけど」

そういえばここに来てから土産を買う以外は部屋の外に出ておらず、
食事を終えてからもずっとテレビを見ていたために風呂にまだ入っていない。

「んー、ここの露天風呂入ってみたいけど、ちょっともう寒そうだしなぁ」

10代目が横を向いて外の景色を眺める。
外は真っ暗で、しかも植えられた木々の葉が揺れているため、風が吹いているのが分かる。
それに景色を楽しむのなら、日没までに入らなければならないだろう。
暗くなってから自動的に付くようになっていた小さな照明があるが、
その照明に照らされるのは浴槽代わりの岩と植えられた木々だけなので、
それだけのために寒を我慢するには魅力が小さすぎる。
それより何より暗い中ライトアップされた露天風呂に10代目を入れるわけにはいかない。
もし10代目の命を狙っているヒットマンが隠れていたら、狙い撃ちにされる。
それに敵がいなかったとしても、覗いて下さいと言っているようなものだ。危険すぎる。
幸い10代目も部屋の露天風呂に入る気はあまりないみたいだし、そのまま言葉を返す。

「じゃあ今日は大浴場の方に行って、明日の朝にここの露天風呂入りましょうか」
「朝風呂するの?」

10代目は意外だ、というような顔をする。
日本人はあまり朝にシャワーを浴びるという習慣がないから、当然かもしれない。

「ええ、温泉に浸かりながら初日の出を見るんですよ」
「あー、なるほど。見れたらきれいだろうね。でも、オレ起きれるかな・・・」
「大丈夫です、オレがちゃんと起こしますから」
「そう?」
「はい」

不安そうに言う10代目に笑顔で返す。
そうすると10代目もにっこり笑って、じゃあお願いするね、なんて言ってくれる。
10代目に任された。これは何があっても日の出前には起きなければならない。
まず日の出の時間をチェックして、携帯のアラームをかけて、
たぶんあるだろう目覚まし時計をセットしなければ。
もし部屋に置いてなかったら売店で買ってもいい。
あの「富士山」とでかく書かれた力強いやつを買ってやる。
頭の中で色々な算段をしていると、10代目が荷物を探って入浴道具を取り出している。
10代目をお待たせしてはいけない。
オレも慌てて用意を始めた。

「タオルはここにあるのでいいですよね。あと浴衣とかありますかね・・・」

ユニットバスから二人分のバスタオルを拝借して、その後に着るものを探す。
寝間着なんかはたぶんどこの宿泊施設でも揃えてあるだろうということで、持ってきていない。
和室の押入れを探してみようかと手をかけたところで10代目が言った。

「そういやさっき従業員の人が、布団敷いたときに一緒に用意してくれてたよ」
「え、そうなんですか?」

押入れから手を引いて、今度は寝室に繋がるふすまに手をかけた。
すすす、と少し抵抗のあるそれを開けて、部屋の中を確認する。
目の前には布団が並んで敷かれており、その上に浴衣が綺麗にたたまれて置いてある。
広い部屋なのに布団がくっつけられて敷かれているのが気になったが、
浴衣を拾い上げて和室の方に戻る。
片手で閉めたふすまは開けるときよりもスムーズに閉まった。
浴衣を片手に出てきたオレに、10代目が声をかけてくる。

「獄寺君、もうすぐ年が明けるよ」
「あ、本当ですね」

付けっぱなしにしてあったテレビには神社が映り、たくさんの参拝客でにぎわっている。
あと5分、と画面の右上に大きく書かれていた。

「獄寺君、今年はいろんなことがあったけど、いっぱい助けてくれてありがとう」
「そんな、オレだって10代目に助けてもらってばっかりで・・・!」

改めて感謝されると、ものすごく照れてしまう。
オレは馬鹿みたいに舞い上がって、ろくな返事ができない。

「獄寺君がいなかったら、こんなに楽しくなかったよ。ほんとにありがとう」
「・・・じゅ、じゅうだいめ・・・」

それなのに10代目は嬉しい言葉をいっぱいくれる。
感動でこみ上げてくる涙を必死に抑えた。

「嬉しいです、10代目。オレも、あなたの側にいられて、本当に楽しかったです」
「ありがとう、獄寺君」

そう言ってにっこり笑う10代目にはかなわない。
オレはどれだけこの人に惚れたら気が済むんだろう?
10代目が何かをするたびにどんどんどんどん好きになっていく。
今年の最後の最後まで、オレはずっと惚れっぱなしだ。

10、9、8、7・・・

テレビの中が急に騒がしくなる。
10秒前のカウントダウンが始まった。
今年もあと3秒、2秒、1秒・・・

『あけましておめでとうございまーす!』

テレビの中からアナウンサーの甲高い声が聞こえてくる。
オレと10代目はどちらからともなくテレビからお互いに視線を戻して口を開いた。

「「あけましておめでとうございます」」

そして唇を触れ合わせ、今年初めてのキスを交わした。


................

 
文章目次
戻る