旅館に設けられた浴場はいくつか種類があって、
そのうちのひとつの体の疲れがとれるという温泉に入ることにした。
美肌効果とか肩こりとか腰痛に効く、なんていう温泉もあったけれど、
オレたちにとってはそれらはあまり関係がないだろう、ということで。
何となく腰痛という文字を見てから10代目を眺めてしまったが、
それに気付いた10代目に置いていかれそうになったのは秘密だ。

12時を回っていたけれど、浴場には何人か人がいた。
今から出て行く奴、これから入る奴、オレたちの後にくる奴・・・
奥にある棚を確保し、10代目を壁際に立たせて自分の体で10代目を隠すようにする。
遅いから人が少ないだろうと思っていたが、思ったよりも多く人がいることに頭を抱えた。
10代目の裸を野郎共の目にさらすなんて耐えられない。
そんなオレの苦悩を知ってか知らずか、
10代目はするすると衣服を脱ぎ始め、順調に肌を露出させていく。
徐々にあらわになる白い肌に、何度も服を脱ぐ手が止まる。
そりゃあ10代目の裸は何度も見ているけれど、だからと言って慣れることはない。
体育の着替えでも、戦いの最中でも、
明るいところで10代目の裸を見ることもあれば、ベッドの上で暗い中で見ることだってある。
自分で10代目の服を脱がせるときもさることながら、
10代目が自らの手で服を脱いでいく姿というのもたまらない。

はぁはぁと、若干息を荒くさせながら10代目の様子を眺めていると、
最後にトランクスに手をかけたところでぴたりと止まり、不意に顔を上げられる。

「・・・向こう向いてて」
「・・・はい」

じっと見ていたのが分かってしまったのだろうか。
少し冷たい声色で言われてしまうと、反論することもできずに素直に反対側を向いた。
その隙に10代目は素早くトランクスを脱ぎ捨てて用意してきた道具を持ち、移動を始める。

「あ、10代目!待ってくださいよ!!」
「獄寺君はゆっくりしてきたらいいよ」

こっちを見てくれないので表情は分からなかったけれど、
ちょっと怒った風な言い方をされてものすごく慌てる。
だけど怒られておきながらも10代目の裸になった後姿を見てしまい、
顔といわず下半身までが熱を持ち、思わず手で顔を覆う。
頭の中では自分が10代目の綺麗な体を好きなようにむさぼっている。
だけどこんなところでだめだろう。
考えないようにと思っていても止められない妄想のせいで、
体が静まるまでしばらく足止めを食らってしまった。



温泉の中に入り、体を洗っている10代目を見つけた。
オレもその隣に座って体を洗い始めるが、なるべく10代目の体を見ないようにと努力をした。
そうしながらも他の野郎が10代目をいやらしい目で見ていないか周囲への警戒も怠らず、
万が一の敵襲に備えて気を張り巡らすよう、努力を、した。
体も髪も洗い終えた10代目が「先に入ってくるね」と言うのに、
顔を見ずに返事をするわけにもいかず10代目の方を向いたとき、
またちらりと見てしまった10代目の裸体に体の中をもやもやとくすぶるものを感じる。
そのせいで洗い終わってもなかなか10代目のところへ行けず、ずいぶん悶々とさせられた。

しばらくしてから10代目の隣に入って体をあたためる。
もやもやとする湯気の向こう側に見える10代目は酷く綺麗だ。
先に入っていた10代目は十分あったまったんだろう。
「あついなー」と言いながら、浴槽のへりに腰をかけて涼みだした。
オレがまだ浸かっているから待ってくれているんだろうけど、その心遣いはとても嬉しいんだけど、
ちょうどオレの顔の高さに10代目の太ももがあり、股間はタオルで隠れていたが、
話しかけられて10代目の顔を見ると、それまでの軌道に乳首が見えた。
ここに他の奴らがいなければ、間違いなく押し倒していただろう。

温泉から上がり、部屋へ戻るまでの道でも、生き地獄は続いた。
うまく着れなくてゆるく体に巻きつけているだけの浴衣から
血の巡りがよくなって赤く火照った肌がちらちらと見えてオレを誘うのだ。

そういうわけで、オレはかなり切羽詰っていた。

「んっ、ふぅ、ん・・・っ」

部屋に入り、鍵を閉めたところで10代目を抱きしめる。
少し上を向かせて唇を合わせ、強引に舌を滑り込ませた。
10代目は抵抗せずにそれを受け入れて自分の舌を絡ませてくれる。
それに機嫌を良くして抱きしめる腕に力を入れた。
ゆっくりと10代目の手が動き、オレの背中に手を回す。
するりと薄い布を隔てて10代目の暖かい手を感じる。
手が動く時に入浴道具も体に当たったが、気にせず10代目を壁に押し付けた。

「ぅん、ん・・・」

何度も何度も角度を変えて口付けを深くする。
舌を舐め合い、歯の裏側に舌を伸ばす。
溢れてくる唾を飲み込む時に10代目が少し苦しそうな声を出したので、
オレはそこでようやく唇を離した。

「10代目、好きです・・・」

10代目の息が整うまで、まぶたや額、頬にキスをする。
荒くなっていた息は少しずつ収まって、それからくすぐったそうに笑う。
最後に軽く唇を触れ合わせてから顔を離した。

「獄寺君・・・」

赤く染まった頬に潤んだ瞳で見上げられるとたまらなくなる。
大きく開いた浴衣から鎖骨が見えてオレを誘惑してる。

「温泉なんて後回しにすればよかったです」

目の前に10代目の裸があるのに手を触れられないジレンマ。
紳士ぶったところで腹の底にある欲求には抗えない。
我慢するのも限界だ。

「ふふ・・・そうだね」
「!言ってくだされば・・・」

こんなヘビの生殺しみたいな目には合わなかったのに。
脱力して10代目の肩に額を当てる。
10代目の体から香るせっけんの匂いにくらくらする。
これ以上何か言われたらどうにかなりそうだ。

「でもせっかくの年初めのえっちなんだから、体綺麗にしときたいじゃん」

耳の近くでそんなことを囁かれたら、我慢しろって方が無理だ。
オレは10代目の腰に回していた手を離すと、
背中からするりと離れた手を引いて寝室に向かった。
和室を通りふすまを開ける。
並べて敷かれてある布団に10代目を横たえると、その体に覆いかぶさった。

「獄寺君・・・」

少しの間でも離れていたのが寂しいとでもいうかのように、
10代目はオレに向かって手を伸ばし、オレの首に手を回して頭を撫でる。
それに引かれるように顔を近づけてキスをした。
ちゅ、ちゅ、と軽い音がする啄ばむようなキスを繰り返し、手をゆっくりと10代目の体に這わせた。
腰の辺りは帯で締めているためきちんと布が体を覆っているけれど、
そのまま下の方へと手を滑らせると、裾がめくれて足がむき出しになっているのが分かる。
太ももの辺りを撫で回しながら、残っている布を払い落とす。
それから下着にも手をかけてゆっくりと脱がせた。

「10代目、寒いですか?」

ふるりと震える10代目にいったん唇を離して問いかけてみると、10代目は首を横に振る。
オレがあっためてあげますからね、なんてありきたりなセリフを乗せてまた口付けた。
今度はさっきみたいな軽いものじゃなくて、互いの唾液を交換するようにねっとりと深く交じ合わせる。

「っふ、んっ・・・」

キスの角度を変えるたびにごくりと唾を飲み込む音や、鼻にかかったため息が漏れる。
それらに聴覚を刺激されながら夢中になって10代目の舌を味わった。
小さく柔らかい10代目の舌を自分の口内に招き入れて、
やわらかく歯を立てたり、音がするくらいきつく吸う。
そのたびに10代目は喉の奥で小さく喘ぎ、オレの中の熱は否応なしに上がっていく。
ちゅ、と音を立てて唇を離すと、オレの口の中に囚われていた10代目の舌は
10代目の口から顔を出してオレを求めるようにいやらしく光っている。
舌を伸ばしてそれをもう一度舐めると、10代目はぴくりと肩を震わせた。

「10代目、ちょっと待っててくださいね」

首に回された10代目の腕を離させて、
キスだけで目をとろとろにさせている10代目から体を離す。
途端に不安そうにする10代目に小さくキスをして、すぐに戻りますから、と声をかける。

オレは素早く和室に行って、自分の鞄をあさって目的のものを取り出した。
すぐに寝室に戻り、今度はきちんとふすまを閉める。
これで少しは肌寒さもなくなるだろう。


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