廊下のじゅうたんには俺たちが歩いてきた道がはっきりと浮き上がっていた。
濡れた靴で歩いた跡がくっきりと濃い色になって現れている。
なんとなくその跡を眺めていると、その間に獄寺君が部屋の鍵を開けてくれた。

「10代目、どうぞ」

扉を開けてくれる獄寺君にお礼を言って部屋に入る。
獄寺君が選んだ部屋はピンク色でもなく、変な器具もなかった。
割と普通な部屋に少し拍子抜けしたものの、入ってすぐにある風呂場に向かう。
手に提げていたビニール袋を床に置く。
脱衣所と風呂場の境に腰を下ろし、袋の中から中身を取り出すと、袋に溜まった水を捨てる。

「あ、獄寺君、袋貸して」

獄寺君が風呂場を通り過ぎて部屋の奥へ行こうとするので呼び止めた。

「先に鍵置いてきますね」

オレの声に獄寺君は脱衣所を覗き込むと、
ビニール袋を床に置き、もう片方の手に持っていた鍵を少し上げて見せた。
近くに掛けられていたタオルを取ってビニール袋を拭きながら、獄寺君の持っていた袋を見る。
持ち手の部分は荷物の重さで引き攣れるようになっていた。
その部分を持って袋を持ち上げようとしたら、すごく重くて腰が浮き上がりそうになる。
座ったままじゃちょっとしか持ち上がらない。
獄寺君の持っていた方にはジュースが詰められている。
これを提げながら平然とした顔でオレの手を引いて走っていたなんて、
オレには到底真似できないことだ。
やっぱり獄寺君ってすごい。

「お待たせしました。10代目、代わりますよ」

部屋から戻ってきた獄寺君はオレの隣に座り込んで同じように袋から中身を出し始めた。
中のペットボトルは(冷えていたからってのもあるだろうけど)やっぱり濡れていた。

「いや、オレもやるよ。二人でやった方が早いし」

何か言いたそうにしている獄寺君を笑って制して二人で拭いていく。
袋もお菓子もジュースもきれいに拭き終わると、もう一度袋の中に戻して奥の部屋へと移動した。

ベッドの近くにある棚の上に袋を置いて、
少し疲れたからベッドに座りたかったけど、全身ずぶ濡れで気が引けた。

「10代目、先にシャワー浴びてください」
「う、う〜ん・・・」

袋を並べて置きながら、獄寺君が声をかけてくる。
同じく全身ずぶ濡れの獄寺君を見て、オレはなんとも曖昧な声を漏らした。
二人ともずぶ濡れなのにオレが先にシャワー使うのもなんか悪いし、
でも獄寺君に先に使わそうとしてもたぶん聞かないし、
だからって二人で入るって選択肢はナシだ。
前に何も考えずに二人で入って大変なことになったんだ。

「10代目がシャワー浴びてる間に服乾かしておきます。
 バスローブありましたよね。あれ着ておくんで、オレは大丈夫ですよ」

うんうんうなって動かないオレににこりと笑いかけると、獄寺君はオレの背中をそっと押した。
そんな獄寺君を見上げながら、まぁオレが早く済ませてすぐ獄寺君に代わればいいか、と思う。
ここでどっちが先に入るか揉めていても、両方の体がますます冷えてしまうだけだ。
背中に添えられた手に誘導されるまま、脱衣所まで戻った。

二人で少し歩き回っただけで、通ったところに水の跡ができた。
歩いた跡がくっきりと残るのを見ていると、なめくじを思い出した。
床も後で拭かなきゃな、と思いながら脱衣所に入り服を脱ぎ始める。
でも雨に濡れた服はぴたりと体に張り付いて、なかなかうまく脱ぐことができない。
上に着た服は脱ぎにくいけど、なんとか脱げた。
問題はその下のTシャツで、肌にぴったりとくっついて腕が袖から抜けない。
危うく服を脱ぐのまで獄寺君に手伝ってもらうことになりそうだったけど、
さすがにそれは恥ずかしいので無理やり引っ張って力ずくで脱いだ。
少し肩が痛くなった。

「あ、乾燥機に入れますね」

獄寺君の方が乾燥機に近いので、そう言ってオレの服を取ってくれる。
脱いだばかりの自分の上着と一緒にオレの服も乾燥機に入れて、
今度は下に着ていたTシャツを脱ぐ。
脱ぎにくいだろうびしょびしょの服を、獄寺君はいとも簡単に脱いでしまう。
獄寺君って何をやっても絵になるんだな、と少しだけ悔しくなった。
頭を抜いたときにぱさりと広がる髪の毛や、
服を引っ張る腕の筋、広くて男らしい背中も、
全部かっこよくてずるい。
最後に服から零れ落ちたネックレスまで様になってる。
獄寺君がTシャツを乾燥機に入れている間に、オレは急いでズボンを脱いだ。
獄寺君に見とれてたなんて、ばれたら恥ずかしい。
脱いだズボンも獄寺君が乾燥機に入れてくれて、それから、
なにやら獄寺君の視線があらぬ部分に向かっているのに気付いた。

「・・・何?」
「ええと・・・下着は・・・」

言われるとは思ってたけど、実際に言われたらやっぱり恥ずかしい。
オレは急いで風呂場に入ると、扉を閉めながら言った。

「こ、これは中で洗ってから乾燥機に入れるよ・・・!」

閉めたはいいけど磨りガラスの扉だから、獄寺君の姿がぼんやりと見える。
ということは、向こうにもオレの姿が見えているはずだ。
その状況ですぐにパンツを脱ぐのははばかられた。
獄寺君がいなくなったら脱ごう。
そう思ってシャワーのコックをひねる。
すでに雨でパンツまで濡れてるんだ。
このままシャワーを浴びたって同じだ。


................

 
文章目次
戻る