もやもやとした白い煙が収まると、ふわりと甘い香りが漂ってきた。
少し視線を動かしてみると、さっきまではこの部屋になかったものがあった。
紅茶の注がれたカップ。
それはとてもきれいな細工が施されていて、
今までオレが見たもののどれよりも高いものだということがすぐに分かった。
それから、そのカップから漂う香りとはまた違う、他のにおいがあることに気づく。
かいだことのあるにおいと、かいだことのないにおい。
それが混ざり合ってなんだか落ち着かないにおいだ。
さらに視線を上に上げると、綺麗な緑色をした瞳と目が合った。
吸い込まれそうなその瞳に見入っていると、その瞳がゆらりと揺れた。
「あの・・・」
その人が口を開くと、低くなめらかな声が聞こえた。
初めて聞くようで、とても耳慣れた声。
その声に聞き入るように、その口元を見て、耳を澄ましていると、
「10代目、すみません。放してもらってもいいですか?」
そんな言葉が聞こえてきた。
放す?・・・手、を?
その人の顔から自分の手に視線を移してみると、
その人の腰にしっかりと巻きついた自分の手が見えた。
「・・・・・・・・!」
その状況を数秒かけてやっと飲み込むと、
オレはものすごい勢いでその人から離れた。
「そんなに飛びのかなくてもいいですよ」
困ったように笑うその顔や、苦笑交じりのその声は、
いつもより大人っぽく、深みを増していた。
その人は手に持ったままだったカップを「失礼します」と言ってから、テーブルの空いたスペースに置く。
(机の上はランボとイーピンが走り回ったせいでぐちゃぐちゃになっているから、置けるところは限られていた)
それから床に転がって泣いているランボをつまむと、スタスタと長い足を窓まで運び、
空いた手で窓をあけて、ランボをひょいと窓の外へと投げ捨てた。
「あわわわ・・・獄寺君・・・!」
「はい、10代目」
その人は窓を元通りにぴっちり閉めると、
きれいな笑顔で振り向いて、オレに返事を返した。
窓の外で「くぴゃあぁああ」という変な声に続いて、何かが地面に落ちた鈍い音が聞こえる。
獄寺君だ。
10年後の獄寺君がここに来てしまった。
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