金色の毛並みの向こうに見慣れたもじゃもじゃのアフロ頭。
そのもじゃもじゃからいろいろなものが飛び出ている様子や
ちらりと見える牛柄の服から、それがランボだとすぐに分かる。

「ランボまで。なにしてんだろ」

カラフルな色のあふれる店の前で、ガラスに張り付いて店内を眺めている一人と一匹に近づいていく。
近づくにつれてそれが旅行会社だと分かった。
チビと猫が旅行会社に何の用事だ?
そんな疑問も視線の先に目をやればすぐに分かってしまった。
ランボは中部地方、瓜は北海道。
要するに、パンフレットに載っているブドウと海の幸に目を奪われているらしい。
じゅるりとよだれでも垂らしそうな勢いで目を輝かせている二人に笑ってしまった。

「うまそうだな、ランボ、瓜」

瓜の方はオレと獄寺君が近づく気配を感じて声をかける前に振り向いていたが、
ランボの方は写真のブドウに釘づけで、呼びかけたときに大げさに肩を震わせて反応した。

「ツナ!ツナツナ!ランボさんブドウ食べたい!」
「ブドウなぁ、さすがにちょっと時期には早いだろうなぁ」
「ブ・ド・ウ!ブ・ド・ウ!」
「にょおん、にょおん!」
「テメー、味覚ばっかりいっちょまえだな・・・。役に立たねー猫は猫缶で我慢してろ」

確かにそろそろブドウの時期だけど、まだ店に並んでるのは見ていない。
だからといって旅行の予定なんてそんな簡単に入れられない。
もう少し我慢な、と諭したところでランボからのブドウコールは激しくなる一方だ。
瓜の方もゴロゴロと甘えた声を出しながら獄寺君の足に絡みついているが、
タイにカニにエビにアワビと豪華な海の幸と、北海道という距離的にもランボのブドウより望み薄だ。
案の定獄寺君は相手にせず、そんな獄寺君の足を引っかきだした瓜と小乱闘になりかけている。

「ああほら二人とも、ケンカしないで・・・!」
「だって10代目、コイツが・・・あ」
「ん?」

獄寺君が口を止めて視線を送る先に目をやれば、
今度は獄寺君が好きそうなプランが目に入った。
それを見ていると後ろからになる獄寺君の視線がちらちらと自分に刺さっているのが分かる。
とても期待をされているけれど、申し訳ないけど、これはランボの中部地方より、瓜の北海道より、望み薄だ。

「10代目っ、どうです、この機会に夏のイタリアを満喫してみては!都市部は建造物がきれいですし、郊外では自然がとってもきれいですよ!10代目にはイタリアのうまい空気を味わっていただきたいって常々思っていたんですよね!」

この機会って、どの機会だ。
そう思いながら、やっぱり獄寺君が目を輝かせているのはあれなのだな、と確信に変わる。
ついでに声も弾ませてやけにイタリアをプッシュするのは
今回はマフィアとか関係なく、単に新婚旅行のプランとして旅行会社がイチオシしているからだ。
いきなり2対2から3対1に劣勢になってしまった。
ブドウブドウにょおんイタリア!
場が収まらないというかなんだかもう収めようという気もなくなり、
ぼんやりと他のパンフレットも眺めてみる。

「オレはあれがいいな、ロンドン橋。なんかお城みたいでかっこいいよね」

外国の建物は日本とは全然違って、なんかすごいなって思う。
でも違いのよく分からないオレは「外国の建物」という大まかな分け方しかできない。
目についたイギリスのパンフレットに載っていたロンドン橋の写真はお城みたいで、
昔住んでいたというイタリアの獄寺君のお城もこんななのかな、と思った。

「さすが10代目、マフィアのボスになるお方ですね・・・!!」

するとすかさず後ろから獄寺君の感激している風な声が聞こえてきた。

「ロンドン橋は歴史が古く、中世では橋の上ではいくつもの反乱が起こり、処刑された人間の首がさらされる時代もありました。10代目がロンドン橋を偵察したいとおっしゃるのは、反乱を鎮め、掟を破った人間をさらすという厳しい処罰も厭わないという次期ボンゴレボスに就かれる覚悟の表れですね・・・!」
「いやいやいや、間違いなくそれはないよ。ロンドン橋の歴史なんて今君に聞いて初めて知ったからね・・・?」

すぐに否定したけれど、時すでに遅し。
というか最初から否定の言葉は聞き入れてもらえる隙がなかったんだろう。

「ボスである10代目が厳格な処罰を下すなら、右腕であるオレがそれを執行します」
「いやごめん、オレ処罰とか下さないから。そもそもボスとかならないから。いや、もうロンドン橋はいいよ、行かないよ」
「そうですね、たかが橋の上の小さな反乱を制圧するよりも、ボンゴレの古いしきたりをぶち壊すような革命をしたいですよね。革命のお手本としてバスティーユの牢獄でも見に行きましょうか!今は破壊されて基盤しか残ってないですけど、あれだけでも歴史感じられますよー!」
「革命もしたくないよ、笑顔はさわやかだけど言ってること怖いよ獄寺君!」
「はい、マフィアってそういうもんですよ。お褒めいただき光栄です、10代目!」
「うわぁ」

完全に手に負えなくなって途方にくれてしまったところで
この雰囲気に似合わない軽快な電子音が響き始めた。
聞き覚えのあるそれは獄寺君の携帯電話の着信音だ。

「・・・チッ、いいときに誰だよ・・・すみません10代目、少々お待ちください」
「ううん、気にしないで電話出なよ」
「はい、失礼します」

顔をしかめる獄寺君とは対照的に、オレは心底ほっとした。
これで話が途切れれば、電話を切ったあとには何事もなかったかのように全然関係ない話をしよう。
とりあえずこの旅行会社から離れてしまおう。
そう思ってランボを持ち上げて移動しようとしたところで獄寺君の背筋が勢いよく伸びた。

「もしもし・・・っ、お、お母様・・・!はい、いらっしゃいます。代わりましょうか?え?はい、・・・はい」

その態度と言葉から、かかってきたのが母さんからだということが分かった。
電話の向こうの母さんの言葉に何度か頷き、獄寺君は電話を切った。

「10代目、お母様からでした」
「うん。なんて?」
「町内会の集まりが長引くそうで、


 >洗濯物を取り込んでほしいとのことです」
 >晩ごはんの弁当を買ってきてほしいとのことです」


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