舌ったらずな発音で名前を呼ばれて、ハッと10代目の顔を見る。
その目はまだ閉じられていて、10代目がまだ眠っているのが分かった。
カーッと頭に血が上る。
それって、それって10代目。
夢の中でもオレのことを見ていてくれてるってことですよね。
こんなことさせるのは、させてもいいのは、オレだけって思っていいんですよね。
深層心理の奥深くで、オレのこと許してくれてるんですよね。
オレはもう嬉しくて胸がいっぱいで。
手は10代目の下腹部に添えたまま、体を伸ばして
オレを呼ぶ声に、ちらりと覗く赤い舌に誘われるまま、逆らわずに唇を重ねる。
少しかさついた唇は、ほんのり温かい。
唇を一度離して、潤すように表面を舐めた。
下唇の中心から、少しずつ左へ移動する。
唇の端までくると、今度は右端から中心まで舐め進める。
それから上唇も同じように舐めていると、ゆっくりと唇が開いた。
それに許されたように舌を差し込み、深く唇を重ねる。
息も漏れないようにぴったりと。
10代目の口内とても熱くて、熱に浮かされたように舌を絡め、口の中をくまなく舐めた。
ぬるりといつもよりも粘性の強い唾液が溢れてくるのを、10代目がむせてしまわないようにすする。
「ふぅ、ん、ぅう・・・」
ちゅ、じゅる、と口の中で鳴る音に混じって、10代目の声が漏れる。
口をふさいでいるため、自然と鼻にかかった声になる。
それが耳元で聞こえて、すでに飛びかけだった理性が完全に吹き飛んだ。
ゆるゆるとさするだけだった手を性急に動かして、10代目のペニスを十分に立たせる。
キスの角度を変えて、そのたびに口の中を舐めた。
オレの愛撫に応えるように大きくなるペニスと、
角度を変えるたびに漏れるあえぎ声やため息に、喜びを感じる。
舌を舐めて、舌を絡めて、深く深く重ねた唇の奥で10代目の舌に強く吸い付いた。
「んう、ん〜〜〜」
バタバタと肩を叩かれてハッとする。
夢中で閉じていた目をそっと開けると10代目と目が合った。
ゆっくりと唇を離すと、絡めていた舌の先に唾液の糸が渡る。
きらりと朝の光に反射した糸は一瞬で消えてしまった。
「っはぁ、おはようございます、10代目」
一呼吸置いてから10代目に挨拶をすると、10代目はご自分の手で口を覆って顔を真っ赤にした。
あぁかわいいなぁと思ってにっこり笑いかけると、ますます顔が赤くなった。
「なっ・・・ど・・・!!」
「・・・すみません、何て仰ったのか分かりません・・・」
声は十分に聞こえたけれど、言葉の意味を汲み取ることができなくて困ってしまう。
自分でも情けなくなる声で言うと、10代目は大きく呼吸して、息を整えてからもう一度言ってくれた。
「なにしてんの、どこさわってんの!」
はっきり、ゆっくり言ってくださったので、ちゃんと理解することができた。
「ハイ、10代目があまりにかわいらしかったので、我慢できずにキスしてしまいました!
ココは朝勃ちされてたので、抜いて差し上げようかな、と思いまして」
言いながら手を動かすと、10代目の口からため息が漏れる。
「っん、そうじゃ、なくて・・・」
その声に頭の中をびりびりと痺れさせながら、動きを止めて10代目の言葉に耳を傾けた。
「何で獄寺君がここにいるの?」
「ああ、そうですよ!オレ、お母様から10代目を起こすようにと言いつかっていたんです」
「・・・今何時ー?」
手を頭の上に伸ばして伸びをする10代目。
その姿を堪能した後、チラリと時計を確認する。
「もうすぐで10時になります」
腰を動かしたり足を動かしたりして何とかオレの手から逃げようとする10代目と、
そうはさせまいと張り付くオレの手との攻防が静かに行われながら穏やかに会話を続ける。
「あー、もう起きなきゃ。ところで獄寺君、約束したのは何時だったっけ」
「はい、12時です」
「そうだよね。オレが寝過ごして約束破ったりとかしたわけじゃないんだよね」
「もちろんです!オレが10代目に早く会いたくて、時間を無視して来たわけです、から・・・怒りますか?10代目・・・」
言いながら、急に不安になってくる。
時間も守れないような奴、ボスの迷惑を考えない奴、そんな評価を受けてしまったらどうしよう。
「怒らないよ」
耳に届く穏やかな声。
その一言で何もかも許されたような気持ちになる。
うつむきかけていた首をまっすぐ伸ばし、10代目の顔を見ると少しだけ困ったような顔。
「でも・・・手は、離してもらえる?」
ぴたりと張り付いたままの手に居心地悪そうに腰を揺らめかせた。
「ねぇ10代目、さっき、どんな夢を見てたんですか?」
10代目の言葉をあえて聞かず、手を動かして緩やかな愛撫を送る。
カーっと恥ずかしそうに顔を赤く染めて、少し潤んだ目で睨まれた。
ゆるゆると手を動かし続け、その顔が次第にとろけていく様子を眺めると、
体はそのままに、ぷぃ、と壁の方を向かれてしまった。
上を向いた10代目の耳に息がかかるくらいに近づいて囁く。
「10代目、オレの夢見てたでしょう」
「なっ!」
この「な」は、「何で知ってるんだ」って意味だろうか?
勝手にそう取って、言葉を続ける。
「眠ったままで、オレの名前を呼んでくれました」
向こうを向いた顔はそのまま枕に沈み、体も横を向いてしまった。
「・・・うそだ」
「本当です」
ぽつりと呟かれた言葉に、はっきりと言い返す。
向こう側へまわってしまった耳はこちらからでも分かるくらいに真っ赤になっていて、
よく見るとその朱色は首まで広がっていた。
「10代目、オレ、すごい嬉しかったんです。
夢の中でもオレのことを側に置いてくださってるんだって分かりましたから」
「そ、それは、オレが寝てる時に獄寺君が変なコトするからだろ・・・!」
「すみません。10代目の魅力に抗うことができませんでした。
でも10代目、オレに応えてくれたでしょう?だから歯止めが利かなかったんですよ」
そう言うと10代目はうなりながらもぞもぞとベッドの上で丸まってゆく。
未練がましく股間に添えていた手もはねのけられてしまった。
「もーやだ。そんなことばっかり言うんだったら起きない!」
「えっ!」
「もっかい寝て夢の続き見る!もう少しでラスボス倒せそうだったんだから!」
「そんなっ!」
オレよりゲームを取るなんて!(しかも夢の中の!)
あまりのショックに思わず立ち上がった。
するとそこに見えたのは、目が伏せられた真っ赤になった10代目の顔。
閉じられたまぶたを縁取るまつげが、羞恥からか、かすかに震えていて。
きゅっと引き結ばれた唇に、軽く唇を合わせた。
たったそれだけのことでびくりと肩を震わせる10代目が愛しくて。
そして、どうしようもなくそそられる。
「10代目・・・夢を見るのはやめて、オレの相手をしてくれませんか?」
驚かさないようにゆっくりとキスをする。
額、まぶた、目尻、鼻、頬と、順に移動するたびに小さく反応を返してくれるのが嬉しい。
耳に唇を触れさせて、10代目、と囁きかけると、
ようやく10代目が目を開けてオレのことを見てくれた。
「バカ」
「はい」
「獄寺君て、ほんとバカ」
「・・・はい・・・」
ため息混じりに言われて少し落ち込む。
声のトーンが落ちた俺を見ながらため息をもうひとつ。
「相手して欲しいんなら、すぐ起こせばいいだろ」
「ですが、気持ちよさそうに眠っていらしたので・・・」
「で?手を出した、と」
「すみません・・・」
「どーすんだよこれ。獄寺君のせいでおさまらなくなってるよ」
目元を赤く染めて、結局オレを甘やかしてくれる10代目に思う存分甘えて。
「オレが責任取ります」
「・・・バカ」
「はい」
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