獄寺君の部屋には何度か入ったことがあるのだけれど、いつ入っても綺麗に片付けられていた。
獄寺君いわく、オレがいつ来ても見苦しくないようにしているのだという。
自分のためと言われて少し照れくさかったのを思い出した。

家具が少なく元から広いその部屋のすみっこにかばんを置いて、獄寺君を振り返る。
半ば強引にあがりこむまではよかったけれど、これからどうしたものか。

「あの、10代目」
「えっ!?」

急に話し掛けられて、慌てて反応を返す。
獄寺君は少し困ったような顔をしていて。

「服を着替えたいので、リビングの方に移動してもらえませんか?」
「あ・・・」

どうしよう。
身の回りのことを手伝うと言ったからには、それもやっぱり手伝った方がいいんだろうか。

「10代目?」

なかなか動かないオレをどう思ったのか、不思議そうに呼びかけてくる。
まだどうしようかと迷っているオレは、心もとなく獄寺君を見上げた。

「もしかして、着替えるの手伝ってくれるんですか?」

獄寺君がいたずらっぽく言うのに、腹をくくった。
こくりとひとつ頷いて手を伸ばす。

「え、10代目?」

手が獄寺君の上着に触れる直前、獄寺君の体が後ろに動いて宙をつかむ。

「あ、あの、冗談っスよ。これくらいは自分でできます」

そう言われても一度出した手は引っ込みがつかなくて。

「手伝う」

一言つぶやいて、開いた距離を縮めるように歩を進めた。
じりじりと後退する獄寺君と詰め寄るオレの様子はさっきの公園でのことを思い出させる。
普段はオレが追いかけられてる方が多いから、オレが獄寺君を追いかける今の状況が楽しくて、少し大胆に詰め寄った。

「え、ちょ・・・10代目っ!?」

両手を広げてにじり寄る様子は、まるで小さな子どもを脅かす大人気ない大人のようで。
獄寺君も獄寺君で、子どものようにおびえて後ろへ下がるものだから、
相手が怪我をしているのを忘れて、遊んでいるかのように錯覚してしまう。
伸ばした手が獄寺君の手当てされた右手に触れそうになってハッとする。
思わず勢いよく手を引いて、バランスが崩れてしまった。

「う、わっ・・・!」

ボスン、とまた獄寺君を下敷きにして盛大に倒れる。
幸い倒れた先は固いフローリングではなくて、やわらかいベッドの上だった。

「獄寺君、大丈夫!?」
「はい、平気です。10代目こそ、大丈夫ですか?」
「オレは何ともないよ」

獄寺君の体に倒れこむような体勢から慌てて起き上がって、右手の様子を確認する。
体の下敷きなんかにはなっていなくて、ベッドの上に投げ出された手を見てホッとする。
ホッとしたらホッしたで、何だかこの体勢に恥ずかしさがこみ上げてきた。
左足は獄寺君の足の間でフローリングを踏みしめて、右足はベッドの上に乗り上げている。
何だか、これは。

「何かオレ、10代目に襲われてるみたいっスね」

そう、まさしくそんな感じ。
その体勢を意識して、急激に顔が赤くなる。
たぶん動揺してるのはばれていると思うけど、それでも努めて冷静に、
くすくすと笑う獄寺君を無視してもう一度手を伸ばした。
オレが上に乗っかっているため、獄寺君は逃げられずに今度こそ服をつかむことができた。
ひとつひとつ、シャツのボタンを外していく。
はじめのうちは良かったけど、段々とはだけていくシャツに、段々と現れる獄寺君の肌に、体温が上がる。
今の状態こそ、さっき言われたように、襲ってるみたいだ。
顔を赤くしながらも、何とか全部のボタンを外すことができた。
大きな仕事を終えたみたいにほぅっとひとつ息を吐く。

「これ、10代目が脱がせてくれるんですか?」
「ぅ」

息をつく暇も与えず前の開いたシャツを片手でひらひらさせながら言う獄寺君に、言葉をつまらせる。
でもこんな状態のまま放り出すこともできず、覚悟を決めて獄寺君の制服を脱がせにかかった。

シャツの中に手を滑り込ませて、肩にかかる服を落とす。
体を支えている腕から服を抜き取るために、獄寺君の体をオレにもたれさせた。
オレの、服で覆われていない部分が獄寺君の肌に触れるたびに、びくりと過剰に反応してしまう。
やっとのことで袖から腕を抜き終わると、耳元でクスリと獄寺君が笑った。

「こんなかわいい10代目を前にしても手を出せないっていうのは、やっぱりツライですね」

耳元でそんなことを言われて、思わず体を離した。
離れた分、今度はさっきとは逆に獄寺君に詰め寄られる。
また体をくっつけて、ほっぺたにキスされた。

「・・・っ、獄寺君・・・!」

手を怪我してるのに、何てこと言うんだっていう思いを込めて口を開くと、
狙いすましたように今度は唇にキスをされる。
もとから開いていた唇に、するりと舌が入り込んで、口の中を舐めまわされる。
歯茎をなでられて、舌同士を絡められると、くちゅりと水音が立った。
その音が恥ずかしくて、体をよじって唇を離そうとするのに、それをとがめるように舌をきつく吸われた。

「ん、っ・・・」

ほっぺたの内側を舐められて上あごを撫でられると、だんだん抵抗できなくなって、送られる唾液も素直に飲み込んでしまう。
飲み込む時にごくりと喉が鳴るのを確認すると、獄寺君は唇を離した。
それまで絡んでいた舌がずるりと引き抜かれて、その後を追って舌を伸ばすと、もう一度ぺろりと舌を舐められた。

「はっ、あ・・・」

大きく息を吸うと、目元や耳元に音を立ててキスされる。
されるままになって体を預けていると、獄寺君の手がオレのズボンからシャツを引き抜いた。
そしてその手はシャツの中に入り込んで、背中を這う。
背筋を指で撫でられると、体が震えるのが自分でも分かった。

「10代目・・・してもいいですか?」

背中を撫でるのはそのままに、軽く触れるだけのキスを繰り返して獄寺君が聞いてくる。

「だ、めだよ・・・怪我してるんだから・・・」

流されそうになるのを必死でこらえて獄寺君から離れようとするものの、背中に回った手のせいでぴくりとも動かない。
その上またがっている足に股間を擦られると、離れようとする気持ちとは逆に、しがみついてしまう。

「っ・・・!」

獄寺君の手はいつの間にか下に移動していて。
ズボンの上から入り口を押さえられた。

「ほんとに駄目?」
「っ、ぁ」

オレの首筋に顔をうずめて、キスを繰り返しながら聞いてくる。
獄寺君は怪我をしているんだから、こんなことしちゃ駄目だって思ってるのに。
キスされて、体をまさぐられて、後には引けない状態になっていた。

「獄寺君は、動いちゃ駄目」

それでも頭の片隅に残ったものに操られるように、獄寺君をベッドに縫い付ける。
横たえた体の脇に両手をついて、体をかがめて唇を合わせる。

「右手、動かしちゃ駄目だからね」
「分かりました」

言葉の後にキスされて、ぴくりと震える。
いつもみたいに獄寺君に身を任せてしまいそうになるのを踏みとどまって、顔を離した。
獄寺君がにこにこ嬉しそうにしていて、何だか恥ずかしさに投げ出してしまいたくなる。
それでも意を決して、服の半分脱げた体に手を這わせた。

適度に筋肉がついて引き締まった体は、とても手触りが良い。
胸板から腹筋にかけて手を動かして、その後を追うように唇を寄せた。
唇で触れた後に舌を伸ばして舐めたりしながら、段々と下に移動していく。
体を撫でていた手はその間にズボンへと行きついて、ベルトをはずし、チャックを下ろした。

降りてきた唇で臍にキスを落とし、下着をずらして性器を取り出す。
それは少し硬くなっていて、獄寺君が興奮しているのが分かった。
そのことに嬉しくなりながら、大きく口を開けて性器を飲み込む。
舌を動かして裏側を舐めたり、少し引き出して先端を甘噛みした。
上あごと舌で擦るようにして何度も出し入れを繰り返すと、鈴口から精液がにじみ出てくる。
尖らせた舌でそれを舐め取るようにくすぐると、たくさん体液があふれてきた。
それを全部飲み込もうと、先っぽを強く吸う。

「っ、う・・・」

声を漏らして、ぴくりと獄寺君の腰が揺れる。
オレの髪の毛をなでていた左手は、いつの間にか動きを止めて、頭の上に置かれたままになっている。
顔を上げて獄寺君の表情を伺うと、何かを耐えるような表情で。
行為に没頭していてそれに気づかなかったオレは、急に不安になって口を離した。

「ごめん・・・どこか痛くした?」

恐る恐る聞いてみると、獄寺君はオレを見てにっこり笑って答える。

「いえ・・・すごく、気持ちいいです」
「っ・・・ぁ、そう・・・」

オレにだけ見せる笑顔でそう言われては、そんな風に答えるので精一杯で。
すぐに視線を下に戻して口で育てた性器を手で支える。
もう一度咥えようと身を屈めると、獄寺君の指が背中を辿ってズボンの中に入り込んだ。

「ご、獄寺君!?」

獄寺君はもう動かずにいるとばかり思っていたから、急に感じた獄寺君の指に驚いた。
体の小さいオレにすれば、制服のズボンは一回り大きいけれど、
さすがに人の手が手首まで入り込んでくると、苦しくなる。

「獄寺く、ん・・・」

獄寺君を刺激しているときに膨らんだ自分のものが、後ろから引っ張られるズボンの布に締め付けられる。
苦しいのと、それとは少し違う、むずむずした感覚。

「やだ、苦し・・・」
「でもここも慣らさなきゃいけないでしょう?」

ここ、という言葉と同時に、下着の中に入って来た指を押し込められた。

「はっ・・・あ、分かった、から・・・離し、て」

浅く飲み込ませた指をゆるゆると動かされて、言葉が途切れ途切れになる。
何とか最後まで言い終えると、やっと指を離してくれた。
獄寺君はその腕をそのままベッドの隣の机に伸ばして、
上から二段目の引出しを開けて中を探っている。
そこから出てきたのは今では見慣れてしまった、こういう時に使うゼリーで。
その意味するところを瞬間的に理解して、体を震えさせた。


................

 
文章目次
戻る